第389話 マイ・ファースト・パーティー(4) at 1995/12/23
「そっ! そんなの……! あんたたちにカンケーないじゃない……!」
ロコは冷水を浴びせられたかのように出し抜けに真顔になると、皆の視線を避けるようにテーブルの上を見つめながら小さくつぶやいた。妙に居心地悪そうで、今すぐ逃げ出しそうだ。
「あは、あははは……やっぱね。そんなハナシになるんなら、あたしもう――」
「か、帰っちゃダメ! ロ、ロコちゃんは帰っちゃダメです! あたし、怒っちゃいます!」
「ツッキー……」
笙パパのお手伝いで、キッチンとパーティールームを行き来していた水無月さんが手にした銀のお盆をしっかりと胸に抱きしめ、とても怒った表情で驚くほどの声量でそう叫んだのだ。
「だ、誰です、ロコちゃんを困らせたのは!? こ、このあたしが相手になってやります!」
「ご、ごめんなさい……。ぼ、僕です」
「かえでちゃんですか……! もう!」
水無月さんは、きっ、と鋭い視線を向けると、続けてこう言った。
「で、では、かえでちゃんにはペナルティを与えます! 着替えて一曲歌ってください!」
「……へ?」
すると、笙パパが水無月さんの合図を受けて、小ぶりな段ボールと大きなカセットデッキを持ってきたではないか。開いたままの段ボールの中からは……見慣れたカラフルな布切れが。
「さ、佐倉かえでちゃん――い、いえ、葉桜ふぅちゃんにはデビュー曲を歌ってもらいます!」
「うぇえええ!? まさか……姉さんたちから借りてきたの!?」
「こんなこともあろうかと事前に準備しておいてよかったです。他の人のもありますからね! なにかイケナイことをしたら、琴ちゃん権限でペナルティがありますから、注意してください」
マ、マジか……!?
僕のが佐倉君のと同じペナルティのわけがないし、これは何が出てくるか予想がつかないぞ。
「ううう……! わ、わかりました! わかりましたよぅ! 着替える場所、あるのかな?」
はい、こっちこっち、と笙パパが失意の佐倉君を連れて別室に消えていった。それを見届けてから、水無月さんは振り返って見つめた。僕を。
「こ、古ノ森リーダーは、今ので注意一回ですからね! 次、何かあったらペナルティです!」
「お、おう。気をつけます……」
「あ――あははははは!」
そんなやりとりを傍観していたロコが突然笑い出した。
「ツッキーってば、いつのまにそんなに強い子になったのよ。もうあたしびっくりなんだけど」
「ロ、ロコちゃんのおかげです……。それに、ここにいる『電算論理研究部』のみんなの……」
尻切れになった水無月さんのセリフに、思わずみんなの顔に笑みが浮かんできた。
人見知りで、引っ込み思案で、暗そうで、不気味。そんな印象の影の薄い存在だった水無月琴世という女の子を、すっかり変えてしまったきっかけは、たしかに僕らかもしれない。
でもそれは、水無月さんの抱えている病気と、すぐそこに待ち受けている運命と、希望のない未来のせいだったのだろうと思う。でも僕らは、そんな水無月さんでも人生は大いに楽しむべきなんだとさまざまなカタチをとって伝えてきたつもりだ。結果的に、それで変化をもたらしたのは、僕らの言葉や接し方ではなくって、きっとカノジョ自身の覚悟と強い決意なのだ。
――きーん。
別室からマイクのハウリング音が聴こえてきた。
「――あーあー。テステス。……もうこうなったら、ヤケ、です!」
どうやら佐倉くん――いや、葉桜ふぅちゃんのスタンバイが完了したようだ。
「あたしたちのクリスマスパーティーを盛り上げるためなら、精一杯歌っちゃいますからね!」
「やったー! ふぅちゃんの生ライブだぁあああ!」
「でわぁ、聞いてくださいっ。ふぅの幻のデビュー曲『ふぅふぅしちゃうゾ♡あちちな恋』!」
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