第356話 三か月後のジンクス at 1995/11/29
(十一月二十九日……十一月二十九日か。たぶん、これ……回避できたんだよな……?)
僕にはずっと恐れていたことがあった。
期末テスト最終日だった昨日は、まだ部活動の禁止期間だったのでもやもやした気持ちだったけれど、部員たちはみな素直に帰宅することになった。僕は、いつものように純美子と一緒に帰路につき、カノジョの家の前――正確にはハー12号の団地棟のエントランスまで――まで送るという名目でたあいもないハナシに花咲かせ、夕暮れ近くなってようやく、またね、を告げた。
でも――昨日は十一月二十八日だったのだ。
僕が告白し、純美子が告白し、互いがそれを受け入れて、晴れて恋人同士になったのはあの夏祭りの夜――つまりそれは、八月二十七日のこと。そして、それから三か月が過ぎたのだ。
三か月――。
そう、僕が恐れていたのは、その『三か月』だった。一周目の僕らの恋が終わりを告げたのは、付き合いはじめてからちょうど三か月後のこと。ゲンや縁起を担ぐタチではないけれど、もしもこの『リトライ』を管理する上位存在がいるのだとすれば、歴史と過去を変えないためにも、僕らの二周目の恋もまた、『三か月』で終わってしまうのではないか、と考えたのだ。
けれど――。
(これで安泰! とは思わないけれど、ひとまず安心していいのかな。なんだか上機嫌だし)
「ねえねえ、ケンタ君! もう三か月も経っちゃったんだよ? ほ、ほら、あたしたち……!」
「……え? えっ!? お、覚えてたの、スミちゃん!?」
「もー、決まってるじゃない! 女の子は記念日作るのと、それをお祝いするのが好きなの!」
「そ、そーなんだ」
「そうなの! うふふふ!」
こういうところ、男の子脳と女の子脳の違いだよなぁ。
科学的な根拠はないらしいけれど、モノの考え方というか、とっさの判断とかで、ふっ、と男の子的な言動、女の子的な言動にわかれる気がするのだ。仕事時代、僕はどちらかというと女性的な営業やプレゼンテーションをするシステム・マネージャーだと思われていたらしい。
その方いわく、だ。
『女性は共感や理解を重ねた途中経過を重視するけれど、男性は結論と得た結果を最重視する』
ようするに、女の子にとって無事付き合うようになるまでの途中経過を彩る『はじめて〇〇した日』シリーズは、どれもこれも忘れがたい大事な大事な思い出なのだ。
しかし一方の男の子は違う。それらはみな、無事ゴールに辿り着くまで繰り返したトライ&エラーのつらく苦しかった戦いの記録なのであって、特に記憶に残そうというつもりはなかったりするのである。
この無意識なすれ違いがいずれ大喧嘩に発展するのだから、なんとも怖ろしい。
「ところで、さ――?」
純美子は顔を赤らめたりしながら言いづらそうに口ごもり、やがて僕の耳元まで思い切り唇を寄せて吐息とともに囁いた。
(昨日のさ……あ――ああいう写真って、フツーのお店でプリントできるものなの……?)
(……どういう意味?)
(だ、だって……見る人によっては、とってもえっちな写真じゃない? 盗撮かもしれないし)
(うーん……)
確かに。
でも、断られたり通報されるレベルじゃ、まだないと思う。
(くわしくないけれど、バイトしてた奴が『アレ』が写ってなければ大丈夫だって言ってたな)
(バ――バイト!? 中学生で!?)
(あ――! や、ち、違くて……! あの、ほら、自分の家が写真屋さんでお手伝いで、ね?)
(ふーん……。で、その『アレ』ってなに? なんのこと? なにが写ってるとダメなの?)
(う……っ)
(え、嘘……! 言えないくらい凄いことなの!?)
(じゃなくて、ですね……ごにょごにょごにょごにょ……)
(え………………っ。そ、そう、なんだ……(照)。ケ、ケンタ君って、物知りだなぁ……)
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