第351話 二学期・期末テスト(1) at 1995/11/24

 いよいよ二学期の期末テストがはじまる。



「おはよう、ケンタ君」


「おはよう、スミちゃん」



 交わす挨拶はいつもどおりだったが、どちらの目にもいつもとは異なる緊張感が漂っていた。



『クラス単位の球技大会でも、ロコを無視しようとする動きがあったんだ。そして、僕ら「電算論理研究部」の部員たちには知られないようにしているフシがある。だから……僕らが真実に近づきはじめているということを、何も掴めていない今の状況で知られてしまうのはマズい』



 僕が部員みんなに伝えたのは、いつもどおり、今までと同じ行動を続けることだった。


 もしも今回の件に関係している生徒に僕らが勘づきはじめていることを察知されてしまえば、今までそうだったように、うかつな行動を避けて深く深く昏いところまで潜ってしまうだろう。そうなれば、首根っこどころか、そのかすかな影すら拝むことができなくなってしまう。



(なによりもまずやらなきゃいけないのは、ロコに対するいじめの事実の確認だからな……)



 まるで正反対の内容に見える「ウワサ」と「推理」の、はたしてどちらが真実なのかを明確にする必要があった。


 もちろん、僕らはロコのことをほんのひとカケラも疑ってなんかいなかったけれど、校内に飛び交うウワサを信じている生徒たちだって、同じようにその内容について微塵も疑ってなぞいないのだ。だからこそ、僕らが確信するためにも、ウワサを盲目的に信じてしまっている生徒たちにロコが清廉潔白であることを理解させるためにも、真実を特定せねばならないのだ。




 がらり――。


 妙に静かでいて、それでどこかざわめいている教室に、白衣姿の萩島センセイが姿を見せた。




「この前、中間テストの結果を返したと思ったら、もう今日は期末テストなんですねぇ」



 おどけてみせる萩島センセイだったけれど、思ったような反応が得られなかったからなのか、小さく溜息をついてからチョークを手に取ると、まっさらな黒板に文字を書き連ねていく。




 かつ――かつ――かつっ。




 一、英語   九:〇〇~九:五○

 二、理科   十:○〇~十:五〇

 三、技術家庭 十一:○〇~十一:五〇




「じゃあ、はじめますか。机の上の物は、筆記用具以外すべてしまいましょう。配りますよ」






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「ふぅ……とりあえず初日は終わったな……」



 妙に気疲れしているのは、アンバランスすぎる組合せの三教科だったせいだろうか。いや、確かにそれもそうなのだけれど、周囲の動きを探りながらそれと並行して回答していたせいだ。



「ねー。でも、テスト期間に土日を挟むのって、すっごくいやーなカンジだよねー?」



 僕のひとりごとに純美子は、すねたように唇をとがらせて言いながら、そっと身を寄せる。



(……何か気づいた? ケンタ君?)


(ダメだね。今のところはなんにも)



 苦々しい思いで前の方を見ると――たぶん、似たようなやりとりをした後なのだろう――渋田と咲都子がこちらを振り返って、揃って首を振ってみせた。そうカンタンにはいかない、か。



「あーっ、もう! ぜんっぜんダメだったー!」


「まだあきらめるのは早いって、ロコ」


「そりゃ、ムロはあたしと違って頭いいからさー」


「あははっ。そんなことないない。ロコと同じだって」



 僕は教室の前で交わされるロコたちの会話を耳にしながら、陰鬱に顔をしかめるのだった。



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