第303話 襲撃(2) at 1995/10/30

「おぉう! おぉおおおおおう! ダッチィイイイ!」



 やはりタツヒコの狙いは小山田のようだ。恐怖のあまりしゃがみ込んだクラスメイトたちの中で、迎え撃つように立っているのは小山田と僕だけだ。だが、この場所にいると、他のみんなにも危険が及びかねない。



「ダッチ! ここから移動しよう! ここにいると、みんなまで危なくなっちゃうから!」


「うるっせえな……なら、どっちに行けばいいってんだよ!?」


「後ろだ! 誰もいない場所まで!」



 だっ、と二人の足並みがそろって、列の後方へと駆け出す。やたら生徒数がいる我が西町田中学校だが、ひとつひとつの列はそこまっで長くはない。あっという間に開けた場所まで出る。



「おぉう! ダッチィ!」



 ブォン! ブォンブォン!



 タツヒコの操る原動機付自転車スクーターは、騒々しい音は立てているものの、そこまでのスピードは出ていない。威嚇し、怖がらせるのが目的のようだ。だが、お世辞にも運転はうまくなかった。それだけにどういう軌道で向かってくるのかが読みづらくもある。うねうねと蛇行している。



「ち――つーか、てめぇまでここにいる必要はねえ、ナプキン王子!」


「僕がここにいることこそが重要なんだって! ……って、来るっ!」


「く……っ!」



 ブォオオオオオ……!



「あ、危なかった……ありがとう、ダッチ」


「ったく……足手まといにしかなってねえだろうが!」



 とっさに小山田が僕のシャツの襟元を掴んで引き寄せなければ、タツヒコの原動機付自転車がどこかをかすめていたかもしれない。無残にもミラーは二つともむしり取られているようだったが、突き出たハンドルやフレームのどこかに引っかけられたら怪我すること間違いなしだ。ぞっとした反面、僕はすれ違いざまにタツヒコの見せた驚愕の表情を見逃してはいなかった。



(お前……あの時の奴かぁ……?)


 そう言っているように僕には見えたのだ。



 まさかとは思うが、この前のホー18号棟横での一件を覚えているのだろうか。あの時、確かにタツヒコと目が合った気がしたが、それもほんの数ミリ秒といった程度のハナシだ。



「おぉう! ちょうどいいぜぇ! 二人まとめてやってやるぅ!」



 ブォン! ブォンブォン!



「……おい、ナプキン王子? てめぇ、タツヒコになんか余計なことしたのか? あぁん!?」


「よ、余計な事って……なんでみんなには僕が厄介事に首ツッコむタイプに見えるんだろ……」


「ブツブツ言ってねえで……来るぞ!」



 ブォン! ブォンブォン!

 ブォオオオオオ……!



 とてもまわりを見る余裕なんてないが、あちこちから声が聴こえるところをみると、梅田センセイ以下、腕に多少覚えのある体育教師を中心に、原動機付自転車に乗った少年たちを撃退し、捕獲しようと奮闘しているようだった。僕らも、いつまでも逃げ続けられるとは思えない。



「くっ! いいようにやられっぱなしってのが気に食わねぇ! なんかアイディアねぇのか!」


「いいタイミング! じゃあ――で――して――ってのはどうかな?」


「よくわからねぇが……やるしかねぇだろ!? タイミングは!?」


「僕が合わせる! アイツの狙いはダッチだからね! 信じてくれ!」




 ブォン! ブォンブォン! ブォオオオオオ!

 タツヒコがこれまで以上のイキオイをつけて、僕ら二人目がけて突進してくる!!




 あわや衝突する! という瞬間、僕と小山田はすばやく左右に身を投げたのだった。



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