第141話 僕らの『がっしゅく!』一日目(5) at 1995/7/27
ひょい――ぱくっ。
「うーん、うまいっ! ウチの女子部員たちが作ってくれたカレー、とっても美味しいよ!」
「……なーんか部長様が、変な気遣いしてるみたいな発言してて、とーってもヤなカンジー」
心の底から素直な気持ちを伝えたつもりなのに、ロコが余計な茶々を入れたせいで女子チームの面々からじっとりと冷たい視線が飛んでくる。僕は大慌てで他の男子三人に助けを求めた。
「そ、そんなことないって! ね? ね? シブチンに佐倉君にハカセ! 美味しいよね!?」
「えーと……あ! この不格好な星型のニンジン、切ったのサトチンでしょ!?|(げふっ!)」
「うわぁあああ……! お料理できるだなんて尊敬しちゃうなー! エプロン姿もいいなあー」
「ふむ……これこそが『普通のカレーライス』なのですね。これぞ『普通』オブ『普通』……」
うぉういっ!
どいつもこいつも、ロクなこと言いやしない!
咲都子から逆水平チョップに似た鈍くて重いツッコミを入れられている渋田は……まあ、いつもどおりだとして。佐倉君はどっちかっていうとお料理チームに入りたかったらしく、エプロン姿に(正確には中身は自分に置き換えた上でエプロンに)見とれてて食べるどころじゃないし、五十嵐君に至っては……せめて今だけは『普通』にこだわるのやめてお願いだからっ!
「ふ、『普通』ねー……。もしかして、それって男子部員全員の共通見解なのかしらー……?」
「ま、待て! 早まるな、ロコ! その手に握ってる包丁っ! それだけはマジで置いとけ!」
ぴきり、とこめかみの血管をひくつかせた総料理長・ロコが、なぜか全責任は部長にあり! とでも言いたげにゆっくりと近づいてくる。なんとか包丁は純美子が取り上げてくれたものの、他の女子三人も『やってしまえ』と言いたげな顔付きで、うんうん、とうなずいていた。
「さあ……最期に言い残すことがあれば、師匠であるあたしが聞いてあげる……! さあ!」
「……え? え!? えーっと……えーっと……。聞いてくださいこれは明らかに冤罪で!」
ごん!
ごん!
ごん!
ごちーん!!
「……ふンだ! 罰として、あと片付けしてよ! それと、お風呂は女子が先に入るからね!」
――しゅぅううううう。
哀れ僕ら男子部員四名は、手加減もクソもないロコの怒りの鉄拳を脳天に喰らい、そこから湯気を立ち昇らせたまま正座の姿勢で四人を見送るハメになったとさ。めでたしめでたし――。
「って、ちっともめでたくねぇよっ! ねえ、なんでキミタチって肝心な時にそうなのさ!?」
「――(気絶している)」
「痛い……痛いよぅ……しくしく」
「ふむ……。これが『普通のおしおき』ですか……なるほど」
三人の前に立ち上がって叫んだ僕への男子部員からの回答例。痛いし、怒らせちゃってるし、嫌われちゃいそうだし。よけいに怒りが湧いて――より先に、だんだん笑いがこみあげてきて。
「……ぷっ。あは……あははははははー!! 気絶してるし!」
「そりゃ気絶もするから! でもさ……ぷくくくくく……!!」
「ロコちゃん、すっごい怒ってましたね……うふふふっ……!」
「な、なぜでしょうね……。妙におかしくって……はははっ!」
とうとう僕らは、互いの肩を抱きかかえるように円陣を組み、ありったけの大声で笑い始めた。クラスでは地味で目立たない底辺キャラの集まりのくせして。超充実してる夏じゃんか。
「これが普通、ですか……。楽しいものですね……」
「で、ですねっ!」
「でしょ? こうやって馬鹿やって、好き勝手に生きればいいんだよ。なんたって僕ら――」
「『まだ中学生なんだから』って言う気なんでしょ? それこそ普通すぎぃー!」
生まれ育ちのいい悪いなんて関係ない。いつも陰キャだとかそんなのどうだっていい。僕らは同じ部活に属する大切なメンバーでかけがえのない仲間だ。その絆をもっと深めたいんだ。
「じゃあみんな! ここでお約束のー! ……お風呂覗きにでも挑戦してみよっか!!」
「「「………………う、うわー! 最っ低っ!」」」
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