第136話 『電算論理研究部』西へ at 1995/7/27

「これで全員揃ったね? よし、じゃあ佐倉君、切符をみんなに配ってくれる?」



 我ら『電算論理研究部』は、今日から三泊四日のスケジュールで夏期合宿へと出発する。



 いささか急なスケジュールだったので、日程の調整が可能か心配だったものの、案外とスムーズに、また、早急に決まってくれてホッとした。時間もなかったので旅のしおりはシンプルな物にとどめた。かえってその味気無さが、それぞれの両親向けの説得材料になったようだ。



「ウチの親に話したらさー。『こっちは仕事だから、むしろ助かる』って言われちゃったわよ」


「あははは……。でも、ウチも似たようなものかな? サトちゃんとツッキーのところは?」


「ノハラさんとことほぼ同じ。弟も田舎のばあちゃんちにホームステイ中だからねー」


「あ……あの……あ、あたしの……とこ……は……」


「こーら。慌てないの。この三人の前では、リラックスして、ゆっくりでいーんだから。ね?」



 まだ人前だと緊張するクセが抜けない水無月さんだったけれど、三人の笑顔を見て思い出す。



「ふーっ……。あ、あのですね、ウチは……楽しんできなさい、って。パパが……喜んでて」


「いーじゃんいーじゃん。ツッキーパパかー、一回会ってみたいなー?」


「こ、この前……ロコちゃんの話してたら……パパも言ってました……お礼、言いたいって」


「お礼なんていーのに」



 目に見えて、むすり、と顔をしかめ迷惑そうな表情を浮かべるロコを見て、みなが、くすり、と笑い出す。もう、典型的かつ正統派なツンデレっ子なものだからニヤニヤが止まらないのだ。



「ま、ここでずっと話しててもいいんだけどね。旅は長いんだから、まずは出発といこうよ!」



 僕の号令を合図に、部員たちは旅のしおりと貰った切符を手に移動を開始した。






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 まずは、事前に立てたプランどおり電車での移動だ――小田急線『町田』駅から急行に乗って『新松田しんまつだ』駅へ、そこからJR御殿場ごてんば線に乗り換えて『御殿場』駅まで順調に進んで行く。


 そして、そこからさらに富士急行バスに乗り換えると『山中湖村役場』停留所まで曲がりくねった山道をゆるゆると揺られて進んで行った。もう見上げれば、富士山は目と鼻の先だ。






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「ようやく到着、っと。どう? みんな大丈夫かな? 降り損ねてる呑気な奴はいないよね?」



 バスを降りた僕らは車内で仲良くなったおばあちゃんに手を振ると、澄んだ空気を胸いっぱい吸い込み、遠くそびえ立つ富士山の雄大な姿と鏡のように凪いだ山中湖の美しさを味わった。



 ここまで、実に二時間半ほどの長い長い道のりだった。



 もっと楽で、早いルートもあるのだけれど、これは僕らで考えた水無月さん対策だ。見た目こそ変わったとはいえ、水無月さんはカラダが弱く体力も平均よりかなり低めである。また精神面においても、がやがやした人混みは苦手で、混雑した電車やせわしない乗り換えは得意じゃないらしい。なので、あえてのんびりと、スローペースで移動することにしたのだった。



「ええと……おーい、ハカセ? もうここから、そのコテージってのは近いのかい?」


「ええ。こちらです。みなさんがすぐ動けそうであれば、ご案内しましょう」



 おのおののにこやかな顔がうなずいた。

 疲れはあるが、楽しみの方が優っているらしい。


 それにしても、三泊四日ともなると荷物も多くなるものだ――特に女の子連中は。


 僕ら男子四人は、大きめのボストンバッグか肩に背負えるバックパックという『よくある恰好』をしていたものの、女の子たちの方はというと海外旅行にでも出かけるかのようなスーツケースをトラベルキャリーに乗せてゴロゴロと引っ張っている。大袈裟すぎやしないか、と苦笑が浮かんでくる。



「ここから林の中へ入っていきます。もし、何か必要なものがあればここでお求めください」


「じゃあ、飲み物あった方がいいよね、きっと」



 手早くコンビニで買い物を済ませて湖畔沿いの舗装路から離れ、カラマツ林の中へと砂利道を進む。キャリーの扱いに手こずる女子部員の荷物を分担して運びつつ、僕らは奥へ奥へと進んで行く。



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