第63話 中間テストも無事終わり at 1995/5/29
そして、怒涛の中間テストもようやく終わり――。
いよいよ鎌倉行きの校外活動は明後日、三十一日と迫っていた。
「へぇー! 結構ちゃんとしたしおりじゃん! 誰が書いたの? ケンタ……なわけないよね」
「ふむ……この筆跡は、明らかに違っていますね。古ノ森リーダーの字ではないようです」
「えへへへ。あたしとかえでちゃんで書いたんだー。かえでちゃん、すっごく字が綺麗なの!」
「あの……かえでちゃん、って呼ぶの、もう決まりなの……かな? ……ぐすっ」
「かえ――いやいや、佐倉君! 僕は、佐倉君、って呼ぶから! ほら、ハンカチハンカチ!」
ちょうど今、みんなに配り終わった旅行のしおりについては、各班ごとに作成した原稿を荻島センセイに先週金曜日に提出して、土日の間に印刷・製本してもらったものだ。
とはいっても、この頃我が中学校でできたのはガリ版刷りかコピーくらいで、コピーのトナー代はまだ高かった時代。となると必然ガリ版刷りになるのだが、もうすでにこの時代には本当の意味でのガリ版刷りは消え失せており、自動印刷機なるシロモノが台頭していたのであった。ではなぜそれでも
「じゃあ、最終確認するんだけど、いいかな?」
僕が声を掛けると、さっきまでざわついていたのがすぐに鎮まった。
「一旦クラス全員でJR大船駅に9時に集合してから班別行動開始ってなってるけど、僕たちは町田駅に8時に集合して、そのまま大船駅にみんな一緒にいこうと思う。これ、いいよね?」
「「「「「意義なーし」」」」
こら、小学生か、お前らは。
「えと、小田急じゃなくってJRの方ですよね。マルイのある中央改札の方で合ってます?」
「佐倉君ナイス。さすがにターミナル口行く奴はいないだろうけど、いたらアウトだもんね」
ターミナル口改札はかつての東急ハンズの店舗脇にあったのだけれど、中央口改札とは距離的に三~四〇〇メートルも離れているので、携帯電話のないこの時代では連絡も取れず、確実に遅刻決定となる。様子を見に行くにも遠すぎるのだ。まあ、そもそも町田で暮らしている奴の九九パーセントは『JRの改札集合ね』と言われたらマルイ側だと考える。そういうものだ。
「で、っと……」
僕は薄緑色の表紙をめくって、さらに数枚めくり、見学コースの記載されたページを開いた。
「今回の僕らのテーマですが、鎌倉幕府を建てた源氏亡きあとを継いだ北条氏の、歴代の主が建てた古刹を巡りながら、鎌倉幕府繁栄からその滅亡までを現代の僕らが辿る旅、としました」
(……ね? ね? なんだかケンタ、ガイドさんみたいじゃね?)
(ふふふっ、言えてるかも。『
「はい! そこ女子二人、こそこそおしゃべりしないっ!」
聴こえてるっつーの。
でも、やっぱりちょっと堅苦しくてオッサン臭かったかな……。
「前に一度見せたと思うけど、レポートの大枠は僕が作ってあるから、今回の課外授業で足りない部分を埋めたり、新たに発見したことなんかを書き足したりしたいんだ。オッケー?」
「「「「「オッケーでーす」」」」
「やけに揃うな、もう……。あと事前に、北条氏の治世下にあった鎌倉幕府について予習してきてもらってると思うんだけど……ちょっと自信ないなーって人、いる? いたら挙手して」
誰もいないか。優秀優秀……と思っていたところで、おずおずと手が挙がった。ロコだ。
「じゃあ、放課後に僕がダイジェストで解説する。それを聞いてくれたら結構わかると思う」
「……助かります。マジでごめん」
「あ! あたしも一緒していい?」
「もちろん。じゃあ、スミちゃんとロコね。黒板使いたいから、この教室集合で。では解散」
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