第42話 記憶の中にいない女の子 at 1995/4/26
「……よっし。これで大体把握できた。他クラスに聞きに行ってくれて助かったよ、シブチン」
僕と渋田が『電算論理研究部』新入部員獲得のために最初に始めたことは、同じ二年生の生徒が現在何部に入っているのか、それとも無所属の帰宅部なのかを調査することだった。
我らが西町田中学校の校則には『本校の生徒は、自主的・自発的に部活動に参加しなければならない』との一文があり、若干強制感が漂っているものの、実際には無所属・帰宅部の連中が少なからず存在していて、彼らを誘うのも一つの手だろう、と考えたからである。
「手分けしてやったら割とすぐ終わったねー。三年とか一年とか、他学年はどうするつもり?」
「そこはまだ良くないか? できたばっかりで、上級生とか下級生いると気ぃつかうじゃん?」
「……まーそうだね。同じ学年だったら、まだ何とかなりそうだけど。ただ……どうせならさ」
「やる気があって、気の合う奴がいい――だろ?」
渋田は僕のセリフに、わかってるじゃん、と言いたげににかっと笑って応じた。
新入部員獲得のための一つの策として調査してきた無所属・帰宅部の生徒たちだったが、僕も渋田も、彼らの学校生活に向けるモチベーションの低さと内向的でネガティブ寄りな思考が少々気になっていたのだ。もちろん、そうじゃない奴もいる。けれど、傾向としては強かった。
「僕だってそう思ってるって。そりゃあ一番良いのは、同じクラスの奴なんだろうけどさ――」
そう言いながら、体育授業の後の独特なけだるい空気が漂う教室内をぐるりと見回してみる。
ウチのクラスで、現在無所属・帰宅部だったのは三人。
けれど、僕にはどうにも腑に落ちない点があった。
「……あのさ、シブチン? この『
そうなのだ。
僕が『リトライ』する前も『リトライ』してからも、彼女に関する記憶が一切なかったのだ。
「ああ、水無月
特に疑問に思う風でもなく、渋田は教室の一番端の、一番後ろの席を指差した。
しかし、その先には誰の姿も見えない。よほど僕が不思議そうな表情をしていたのか、渋田は続けた。
「彼女、身体が弱いらしくってさ。学年が変わってから何度か登校したけど、ほとんど休み」
「そ、そっか。そうだったよな」
おかしい――やはり彼女に関する記憶を一切思い出せない。
なのに、確かに同じクラスだった、という漠然とした感覚だけがある。これだけ特徴的で目立つ生徒なのにも関わらずだ。もう二十六年前のこととはいえ、そんなことがあるのだろうか。
いや、確かに僕だって、ここにいる全員のことをはっきりと思い出せたわけではない。特に女の子に関しては、一度も話す機会がなかった子だっている。けれど、顔を見たら、ああこんな子もいたなあ、くらいのうっすらとした記憶は持っていた。なのに、彼女にはそれすらない。
もしかしたら、彼女の正体こそ時巫女・セツナなのか――? ふと、そんな直感めいた考えが浮かんだが、登校してこないのなら確認する方法はない。
それに、仮にそうだとわかったところで僕は何をしようというのだろう?
この『リトライ』の謎を問い詰めて解き明かす?
たとえそれがわかったところで、僕にできることといえば、僕の未来――今を、今より少しだけマシになるよう過去――今を精一杯謳歌することだけだ。
一旦は保留にしよう……それよりも、だ。
「と――とりあえずは、残る二人に、『電算論理研究部』に入ってくれるよう聞いてみるか」
「うん、
「確かに」
うまく入ってもらえたとしても、よそよそしいままじゃあんまり意味がないし。
「……うん、シブチンの言うとおりかもな。どうせだったら、仲良くなってから誘う方がいい」
その時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます