第16話 リア充になるための傾向と対策 at 1995/4/9

 一夜明けた日曜日も、昨日の続きから始めることにした。



「あと目の前にある疑問点は……『一人増えたクラスメイトは一体誰か?』ってことか」



 現時点では不明。いやいや、本当にわからないのだ。こうもあっさり答えると、中学生活にどんな思い出があるにしろ、覚えているのがたった一〇人ぽっちってのはどうなんだ、と眉をひそめる奴もいるかもしれない。けれど、実際に考えてみて欲しい、思い出してみて欲しい。


 たとえ二十六年前じゃなくたっていい。たとえば小学校一年のクラスメイトを、顔と名前を一致させた状態で全員覚えている奴なんていない。絶対ごっちゃになる。いたら連絡PLZ。


 少なくとも勉強ばかりにうつつを抜かして学生時代を過ごしてきた僕は、クラスメイトのありがたみも素晴らしさもまったく感じなかった。そんな僕でも覚えている奴は覚えているもので、それがクラスのリーダー的存在、男子からの人気の高い女子、盛り上げ役のムードメーカー、そんな強く印象に残った『代表的な登場人物』たちだ。その結果が合計一〇人ということ。


 増えた謎の一人こそが、時巫女・セツナだという可能性は高そうだ。となると、疑わしいのは女子ということになる。けれど、地味で控え目で、目立ちもしなければいじめられもしてないモブキャラみたいな女子(失礼)のことまで、僕ははっきりと覚えてない。あんまりな言い方だが、向こうだってモブみたいな僕のことなどその程度にしか思ってないはずだ。きっと。


 ともかく、本当に当時の『四十二人』を再現しているのかそうでないのかすら断定できない僕には、『プラス一人』の謎を解き明かすことはできないのだった。引き続き確認が必要だ。



 さて、一通り確認できることは済んだ。

 ここからは、いよいよ本題の『今後の方針』決めをするとしよう。



 すでに僕は『好き勝手にやらしてもらう』宣言をした。それも『あの頃できなかったこと全部』だ。そのきっかけとヒントは、リトライ前に渋田と交わした会話の中にすでにあった。



「懐かしい思い出、古き良き時代、っていえばさ、シブチン?」


「ん? なにさ? というか、シブチン呼び、やめてってば。一応管理職なんだよ、俺」


「って嬉しいくせに。いや、な? あの頃の陽キャ連中って、結構やりたい放題だったじゃん」


「んー……たとえば?」


「ほら、アレだ。スカートめくりとか、手鏡でスカートの中覗いたりとか、抱きついたりとか」


「……まー中学生だし? そういう意味では、今ほど校則も先生も学校も厳しくなかったよね」


「そ。まさに『古き良き時代』ってやつだ」


「今のご時世じゃできないだろうし、いい歳した俺たちがやるとただの性犯罪になっちゃうよ」


「そういうこと。でも、それって不公平だと思わないか? 俺たちだけ損してるだろ、絶対に」


「損って……。でも、もうしょうがないでしょ。中学生・・・から・・やりなおせる・・・・・・って話なら別だけど」



 ――以上、回想シーン終わり。



 ……い、いや、違うんですよ?

 別に、えっちなことばかり考えてる、ってわけじゃなくてですね。



「まず最終的なゴールは……この一年間のうちに、河東純美子と仲良くなって付き合うことだ」



 これは確定。

 これだけは外せない。



 僕は、高三の、それも卒業式の前日に告白されて付き合いはじめた、逆に言えば『そこがスタートだった』ことがそもそもの間違いだったのだ、とずっと後悔していた。引きずっていた。


 もしも二人が中学時代から付き合っていたなら、恋に不慣れも不器用もお互い様で、無駄に照れたり恥ずかしがったりするのだって当然のことで、むしろ初々しく映ったはずだ。不甲斐ない無様な姿をさらして相手を失望させることもなかっただろう。そしてなにより、灰色に塗り潰され封印された俺の学生時代が七色に輝き出し、数え切れない思い出が生まれたはずなのだ。


 お互い中学時代から好意を持っていたってことは、もうわかっている。

 なんたって僕は――いや、俺は、二周目の『リトライ者』なのだから。



「ん? 待てよ……? でも、この僕のままでいいのか? 本当に? それで満足なのか?」



 ……いや、ちっとも良くないだろ。


 僕はかぶりを振って新しい『メモ』を作成すると、『やることリスト』を夢中で書き続けた。



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