第87話087「予選トーナメントを終えて」



「予選トーナメントはこれで終了となります。決勝トーナメントは30分後に再開しますので、それまでしばらくご寛ぎくださいませ」


 司会のフェリシア・ジャスミンが予選トーナメント終了のアナウンスをすると、観覧席のあちらこちらでこれまでの予選トーナメントの話で盛り上がっていた。


 その中でも、特に一部の貴族たちでは予選トーナメントの最終試合の話で持ちきりだった。



********************


【カスティーノ家side】


「おいおい、今の最後の試合で見せた『リュウメイ』という生徒のあの技って⋯⋯」

「はい。あれはヤマト皇国独自の武闘術『龍拳』の技かと⋯⋯」


 カスティーノ家当主ルドルフ・カスティーノの呟きに答えたのは、息子で『騎士団最強の一角』といわれるケビン・カスティーノ。


「ということは、あの『リュウメイ』という生徒はヤマト皇国の者だってのか?! そんなの聞いてないぞ!」

「そうですね。私も初めて知りました。ただ、そうなるとこれは『他国の生徒が騎士学園に侵入した』ということになりますが、しかし、その割には学園長⋯⋯ハンニバル・シーザー様が特に動きを見せていないところを見ると⋯⋯」

「ああ。おそらく、ハンニバルのジジイが知っていたのは間違いない。そして、その場合、ラディット国王も絶対に知っているんだろう。いくらハンニバルのジジイでも、さすがに他国の生徒を国王に無断で入学させることなんてないからな」

「そうですね。それに⋯⋯」

「⋯⋯ああ。おそらくこの『リュウメイ』というヤマト皇国の生徒も含めて、今回のこの大会で何か・・を画策しているのは間違いない」

「⋯⋯ですね」


 二人は各々で思考を巡らせる。


「まあ、いずれにしてもハンニバルのジジイから何らかの発表・・があるだろう。ジジイの手のひらで踊らされている感は面白くないがな」



********************



【騎士団長アルフレッドside】


「あ、あれは⋯⋯あの技は⋯⋯ヤマト皇国の武闘術『龍拳』の龍拳・三位階『龍流流転りゅうりゅうるてん』」


 騎士団長アルフレッド・ヴェントレーは、予選最終試合の『リュウメイ』の技名をポツリと呟く。


「はい。ヤマト皇国の龍拳の技で間違いないですね」


 アルフレッドの言葉に反応するのはクラリオン王国騎士団進軍官、騎士団序列三位のゼノ・アマルフィ。


「ヤマト皇国の生徒の話は学園長からは何も話を聞かされていない。なぜだ? ハンニバル様は何を企んでいる?」


 アルフレッドは自分たちにも内密に何か・・を進めている学園長の意図を探る。


「⋯⋯団長、無駄。我々が、ハンニバル様の理解、不可能」


 普段、あまり喋ることの少ないゼノがいつもの片言・・の言葉で返事をする。


「ハンニバル様は、いったい、この一回生のクラス編成トーナメントで何をしようとしているのだ⋯⋯?」


 アルフレッドは学園長の意図に気づかず不安ながらも、何かあった時のためにすぐに飛び出せる準備をした。



********************



【ジャガー家side】


「お、おい! 最後の試合で『リュウメイ』という奴が繰り出した技は、ヤマト皇国の『龍拳』という武闘術の技じゃねーか!? なぜ他国の生徒が無断で我がクラリオン王国の騎士学園に通っている! これは大問題だぞ!」


 当主のランドルフ・ジャガーは、顔を真っ赤にして立ち上がる。


「父上! お待ちください」

「なんだ、エミリオ! 貴様、邪魔する気か!」

「落ち着いてくださいよ、父上。おそらくこれ、学園長の何かの策略だと思いますよ? だから、騒ぐのは得策じゃないです」

「何ぃぃぃ〜???」


 左目に眼帯をした二メートルもの巨躯のランドルフ・ジャガーが、息子のエミリオに圧をかける。


「さっき、イグナス・カスティーノのこと調べてて気づいたんだけど、どうやら今回の大会はいろいろ『サプライズ』があるっぽいよ?」

「何〜? サプライズだ〜?」

「はい。とにかく今、騒ぐのは得策じゃないよ、父上。とりあえず決勝トーナメントまで見ようよ?」

「⋯⋯まー、お前が言うのならいいだろう」

「ありがとう、父上! あ! あとさ、カスティーノ家のイグナス・カスティーノのことだけど⋯⋯」

「どうした?」

「彼があそこまで急激に魔法量や魔法威力がアップしたのは、どうやら『カイト・シュタイナー』という生徒が原因らしいよ?」

「カイト・シュタイナー?」

「あの⋯⋯『学園長推薦シード』の生徒だよ」

「ああっ!? あの下級貴族の生徒か!」

「はい。そして、そのカイト・シュタイナーがどうやらイグナスに、彼独自の魔力コントロールを教えて急激に魔力量や魔法威力が増えたらしい」

「なっ!? なんだ、それは! カイト・シュタイナー独自の魔力コントロールだと?! 何者だ、このカイト・シュタイナーという奴は!」

「そこまではまだわかりません。ですが⋯⋯⋯⋯タダ者ではないのは確かです」


 さっきまでおどけるような話し方をしていたエミリオの空気が変わる。


「! ほう? お前がそこまで警戒するほどの男だと?」

「⋯⋯個人的には、先ほどのヤマト皇国の『リュウメイ』という生徒よりも気になるよ」

「⋯⋯ふむ、そうか。そんなお前が『今、騒ぐのは得策じゃない』というのなら付き合ってやるとするか」

「ありがとうございます、父上」

「⋯⋯動天世代アストロ・エイジか。もしかすると、それさえもハンニバルあの男の手のひらなのかもしれんな。⋯⋯胸糞悪い」


 そう言うと、ルドルフはギリッと歯噛みする。


——30分後


「皆さま、お待たせしましたーー! これより決勝トーナメントを開催⋯⋯⋯⋯の前に!」

「「「「「!!!!!!!」」」」」


 司会のフェリシアは一度、間を置いて深呼吸すると、


「クラリオン王国騎士学園、学園長ハンニバル・シーザー様と、なな、なんと! ラディット国王様によるご挨拶がありますぅぅぅーーーーー!!!!」

「「「「「え? ええええええええええ!!!!!!」」」」」


 観覧席は突然の学園長ハンニバル・シーザーの登場もさることながら、クラリオン王国国王、ラディット国王が一回生のクラス編成トーナメントに登場し挨拶するという『異例の事態』に度肝を抜かれていた。そして、


「なっ!? ラ、ラディット国王⋯⋯だと!!!! 学園長は一体何を⋯⋯!?」

「おいおいおい! ハンニバルのジジイに、ラディット先ぱ⋯⋯ラディット国王までお出ましかよ!」

「ぬぅぅ⋯⋯一体、何なんだ?! 今回の一回生のクラス編成トーナメントは! 異例尽くしじゃねーか!」


 それは、騎士団長アルフレッド、ルドルフ・カスティーノ、ランドルフ・ジャガーの御三方もまた例外ではなかった。


 そんな、異様な雰囲気の中、舞台に学園長ハンニバル・シーザーとラディット・クラリオン国王が姿を見せた。

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