第81話081「予選トーナメント三回戦(5)」



「合同魔法授業以来だな、カイト・シュタイナー」

「はい、お久しぶりです」


 俺は一瞬、驚いたがすぐに落ち着き、レイア姫に対応する。そう言えば、合同魔法授業のときもこうやってレイア姫から話しかけてきたな。偶然だろうか?


「しかし、驚いたぞ、カイト・シュタイナー。まさか、学園長からの推薦で『Aクラスシード』とは⋯⋯」

「は、はい。僕も驚いています」

「決勝トーナメントでは、ぜひ対戦してみたいな」

「い、いえ、自分なんて恐れ多いです」

「そんなことはない。君はもっと自分の強さに自信を持った方がいい。合同魔法授業のとき、魔力暴走したこともあったが、それでも上級貴族のカート・マロンも圧倒し、ガス・ジャガーにも勝ったじゃないか」

「いえ、あれはきっとカート様やガス様がCクラスの生徒ということで手を抜いていただいたのだと思ってます」

「なんと! そうか⋯⋯君は相変わらず『謙虚』だな。まーそれが『愛くるしい部分』でもあるが⋯⋯」

「え? 何か言いましたか?」

「あ、いや⋯⋯っ!? な、何でもない! と、ところで、今、舞台に上がっている生徒、ザック・カーマイン君だったか⋯⋯彼は君とよく一緒にいる生徒だよね?」


 レイア姫は、ごまかすように舞台に目を向けながらザックの話を始める。


「はい、そうです」

「あの生徒も下級貴族だったと思うが、それにしては一回戦のあの身体強化ビルドの効果はとても魔力量の少ない下級貴族とは思えなかった。彼は入学当初からあれだけの実力者だったのですか?」

「いえ。僕の魔力コントロールを教えてから今の魔力量を身につけました」

「え⋯⋯? 僕の・・・? そ、それは、つまり通常の魔力コントロールとは違うということですか?」

「はい。僕独自・・の魔力コントロールです」

「カ、カイト・シュタイナー独自の⋯⋯っ!? え? え? そ、それはどういう意味⋯⋯?」

「え? そのままですよ? 僕の魔力コントロールは通常のものとは違っていてですね、で、その魔力コントロールを利用することができれば魔力量や魔法威力が成長するみたいで⋯⋯たはは」

「あ、あの⋯⋯カイト・シュタイナー? 今、すごくサラッととんでもないこと言ってる自覚は⋯⋯ありますか?」

「え? さあ、どうでしょう? ま、とりあえず、友人の役に立ててよかったです」


 こののことも考えて、しっかりアピールしなくちゃな。宣伝、宣伝。


「そ、それって⋯⋯もしかして、イグナス・カスティーノもそうなのか? 以前は上級貴族の子にしては魔力量が極端に少ないということで悩んでいたと聞いているが、今日の試合を観て驚いた。あれも?」

「はい。もっと言えば、ガス様、ディーノ様、カート様も僕の魔力コントロールを身につけました」

「⋯⋯な、なるほど。たしかにあの三人、すごく強くなっていた。し、しかし、それにしても、そんな非常識な⋯⋯いや、前代未聞というべきか⋯⋯」

「はい。力になれてよかったです」


 レイア姫は、カイトから出てくる言葉がすべて「常識外」なことばかりなため、呆然としながら話を聞いているが、カイトは特に気づいていないようで、ただ淡々と話を続けていく。


 しかし、この時! 呆然としていたレイア姫に『天啓ひらめき』が訪れる。


「あ、あのぉー!」

「(ビクゥ!)は、はい?!」

「もし、君が良いのであれば、その君の⋯⋯カイト・シュタイナーの魔力コントロールを⋯⋯私にも教えてくれないだろうか!」

「え? レイア姫様に?」

「ダ、ダメだろうか!」

「っ!?」


 レイア姫はグッと一気に距離を縮め、紅潮した顔を近づけて懇願する。⋯⋯ち、近い。


「ダ、ダメじゃ⋯⋯ないです」

「そうか! ありがとう、カイト・シュタイナー!」


 すると、レイア姫がニッコリといつもの凛とした顔を綻ばせる。⋯⋯あ、かわいい。


「お! 君の友達の試合がちょうど始まるぞ、カイト・シュタイナー!」


 そう言うと、レイア姫は何事もなかったかのようにすぐに舞台に目を移した。レイア姫は特に気にしていないようだが、俺の心臓はずっとバクバク鳴りっぱなしで大変だった。



********************



「さあ、間もなく第七試合を開始します。選手は開始位置に立ってください」


 司会の学園アイドル(自称)のフェリシア・ジャスミンが、開始前のアナウンスをする。


「よ、よろしくお願いします」

「⋯⋯フン。下級貴族の分際で、私と試合などと忌々しい」

「え?」

「私は嫌いなんだ。身分もわきまえずシャシャリ出てくるような奴がな」

「そ、それは、どういう⋯⋯」

「なんだ、その程度も理解できないのか? 下級貴族のくせに上級貴族に戦いを挑むということ自体が不敬だって言ってんだよ」

「そ、そんな⋯⋯騎士学園の三年間は身分関係なく接するという『学園ルール』じゃないですか!?」

「ああ、そうだ。まったく⋯⋯この『学園ルール』とやらはすぐにでも廃止にするべきだ」

「は、はあ⋯⋯」

「まあいい。とにかく上級貴族と下級貴族の身分関係もない『学園ルール』というのがあるのなら、この試合でも同じことが言えるな」

「? そ、それは、どういう⋯⋯」

「では、その『学園ルール』とやらに則って⋯⋯⋯⋯全力でやらしていただく!」

「っ!?」


 ニヤリ。


 ドレイク・ガリウスが不敵な笑みを浮かべる。


「それでは第七試合、試合開始ーーーっ!!!!」


 ゴーーーン!


「はっ!」


 開始早々、ザックが素早い動きでドレイク・ガリウスの懐に入り攻撃を仕掛けた。しかし、


「ぬん!」


 ガキィィン!


 ドレイクが両手を交差してザックの拳を防ぐ。


「何っ!?」

「何を驚いている? お前は確かに速いが⋯⋯⋯⋯ただそれだけ・・・・・・だ」

「え⋯⋯」

「お前がどこを攻撃するのかわかれば、防ぐのは簡単だということ⋯⋯⋯⋯だ!」


 ガシ!


「な!? 手を!」


 ドレイクは防いだザックの拳を掴むと、


「はぁ!」


 スパーーーーン!!!!


「ぐはぁぁっ!!!!」


 ドレイクが鞭のようにしならせた右足のハイキックをザックの顔に綺麗に入れる。


「ザック!」


 正直、この試合もザックが余裕で勝って決勝トーナメントに行くだろうと思っていた俺は、ドレイクの強さに衝撃を受ける。


「ふむ、さすがはドレイク・ガリウスだな」


 しかし、レイア姫の言葉を聞く限り、目の前のドレイク・ガリウスの強さは納得のいくもののようだ。


「レ、レイア姫様。その⋯⋯」

「っ!? な、ななな、何かな、カイト・シュタイナーきゅん!」

「きゅん?」

「カイト・シュタイナー君!」


 レイア姫が何か、顔を赤くしてしどろもどろとなっている。ドレイク・ガリウス⋯⋯余程の強さということか?


「あ、その、ドレイク・ガリウスという方は強いのですか?」

「あ、ああ。強い。一回生の中で優勝候補と言われているガス・ジャガーと同じくらいには強い。特に武闘術と身体強化ビルドを中心とした戦い方で高いパフォーマンスを発揮する男だ。ちなみに武闘術クラスは『拳闘士』だ」

「なるほど」


 つまり、武闘術クラスは予選にいたのと同じ『拳闘士』だが、魔力量が高いぶん身体強化ビルドの高いパフォーマンスを発揮できるということか。そりゃ、ザックの攻撃が簡単に入らないわけだ。


「そう言えば、レイア姫様の試合観ました! 武闘術すごいですね! 武闘術ランクも『武闘士』とは驚きました!」

「え!? 私の試合見たの!」

「え?」

「あ⋯⋯コホン。私の試合見たんだね?」

「は、はい! レイア姫様も武闘術が得意なんですね」

「ああ、そうだ。魔法はどうも性に合わないのでな」


 ふむふむ。可愛い顔をしているが『武闘派』と。


「ちなみに、ドレイク・ガリウスと戦ったことはありますか?」

「ああ、何度かある。ドレイクは強いが私はもっと強い。負けたことはない」

「おお!」

「ただ、あのドレイク・ガリウスという男はしつこい性格でな。私に勝つまで何度も挑んできて辟易したことがあったよ」

「へー」


 そうなんだ。そんな『しつこい男』には見えんが。


「まあ、私は王族なので、すぐにドレイク家に苦情を言って諦めさせることができたがな。とはいえ、本人はまだ根に持っていると思うが」

「なるほど」

「さて、彼の実力自体は本物だ。ザック君が彼に勝つのはかなり苦しいと思うよ?」


 レイア姫が少し挑発気味に俺に視線と笑みを送る。


「ザックも強いです。このままでは終わりません」

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