第75話075「様々な思惑(1)」



「これより、三十分ほど休憩をおいてから、予選トーナメント三回戦を始めます。それまで、しばし、ご歓談くださいませ」


 Bクラス、Cクラスによる予選トーナメント一・二回戦が全て終了。『B・Cクラス選抜生徒』と言っても過言ではない『9名』が勝ち残った。もちろん、その中にはイグナスもザックも含まれている。


 三十分の休憩の後、いよいよ予選二回戦までシードとなっていた『入学時Aクラス配属の生徒』⋯⋯つまり『上級貴族の生徒たち』が登場となる予選トーナメント三回戦が始まる。


「おお。いよいよ予選三回戦か!」

「三回戦からは上級貴族の生徒が出てくる。一回生とはいえ楽しみですな!」


 観客も「予選トーナメントは三回戦からが本番だ」ということをわかっている為、三回戦に向けての期待値が高まっている。


「さてさて、下級貴族の『下克上』がありますかね?」

「いやいや『下克上』なんて、そんなの『お伽話レベル』だから。しかも、一回生ではまず無いだろう」

「ですが、先ほどの一回戦の試合を見る限り『もしかして⋯⋯』という生徒が何人かいましたよ?」


 ちなみに、今話題に出た『下克上』は文字通りの意味で、ここでは『下級貴族が上級貴族を破る』として使われている。参考までに『下克上』は滅多にない⋯⋯というかほとんどない。理由は『身分差=魔力差』である為だ。


 過去にいくつか事例はあるが、それはまさに数例でしかなく、それも『八百長だった』だの『試合前に裏工作された』だの、胡散くらいものと見られているのが常識のようで、『下克上は事実上存在しない』とさえ、言われている。


⋯⋯今回の一回生クラス編成トーナメントまでは。



********************



「⋯⋯それにしても、今回のB、Cクラスの生徒の何人かはAクラスに入れる可能性があるのが何人かいましたな」

「確かに! 特に、あのカスティーノ総合商社のご子息イグナス・カスティーノ様は凄かったですな!」

「いやまあ、でも、彼は上級貴族ですから⋯⋯」

「君、知らないのかね? イグナス様は上級貴族ではあるが、魔力量が極端に少ないことで有名なんだぞ? だから、入学時Bクラスに配属されたわけだし、何より騎士学園入学前は『子供教室』で過ごして⋯⋯」

「しぃー! バ、バカ!? そんなこと軽々しくしゃべるなよ! 今日、この会場にカスティーノ家の当主が来てるんだぞ!」

「ええっ?! う、嘘っ!」

「他にもジャガー財閥の関係者や、他の有力な上級貴族の関係者も来てるみたいだぞ!」

「おい、あれ見ろよ! 騎士団長のアルフレッド・ヴェントレー様だ! それに副団長と進軍官もいるぞ!」

「お、おい! あ、あれ⋯⋯冒険者ギルドのギルドマスターじゃないか? それにパッと見だが、高ランカーの冒険者ぽい奴らもいるぞ?」

「な、なんで、たかが一回生・・・・・・のクラス編成トーナメントに、こんなにも国の顔役・・連中が見に来ているんだ?」


 休憩時間にも関わらず、観覧席の至る所で妙なざわつきが起きていた。



********************



「見ましたか、父上?」

「⋯⋯ああ。一体、何がどうなっているんだ?」


 声をかけたのは十代後半の金髪のイケメン男性。声をかけられたのは三十代前半の無精ひげのナイスガイ男性。


「お、おい、あれって⋯⋯まさか⋯⋯?」

「ああ。あのライトグリーンでオールバックの男性がカスティーノ家当主でカスティーノ総合商社会長のルドルフ・カスティーノ様。そして、もう一人の金髪の男性がその嫡男、カスティーノ総合商社現・社長のケビン・カスティーノ様だ」

「ええ!? あ、あれが、あの『騎士団最強の一角』と目されている⋯⋯ケビン・カスティーノ様」

「は、初めて見たけど、すげーオーラだ⋯⋯」

「な、なんてイケメンなの⋯⋯素敵」

「な、生ケビン様っ!? ああ⋯⋯なんと凛々しいお姿。わたくし、もう明日死んでも悔いなしですわ⋯⋯」


 周囲の観客が、チラチラと二人を見ながらボソボソ話していたが、金髪のイケメン⋯⋯ケビン・カスティーノがチラッと視線を周囲に向けて威圧。すぐに野次馬は目線を外し、シーンとなる。


「いいのですか、父上? こんな大勢の前で⋯⋯」

「構わん! これも狙い・・の一つだ。それよりも、イグナスのあの魔力量はなんだ?! 騎士学園で何があった?!」

「さ、さあ⋯⋯私も特には。ただ、ハンニバル・シーザー様⋯⋯学園長から『必ず父親を連れて見にくるように』と」

「俺にも『お前の息子、面白いことになっとるぞ』とニヤニヤしながら直接言いにわざわざ来やがったからな。⋯⋯まったく、あの学園長クソじじいめ。何、企んでやがる?」


 カスティーノ家当主ルドルフは、そう言いながらもニヤリと実に愉快そうに口角を上げる。


「学園長の狙いは私にもわかりませんが、ただ、学園長から大会を見に来るように言われた後、少しイグナスの身辺情報を調べてみましたが、どうやら、最近ある生徒・・・・とつるむようになったというのを聞きましたが、おそらくその生徒が関係していると思われます」

ある生徒・・・・? 誰だ?」

「⋯⋯カイト・シュタイナー」

「カイト・シュタイナー? ん? それって、最初に言ってた『学園長推薦シード』の生徒か?」

「⋯⋯はい」

「ん? 待てよ? カイト⋯⋯シュタイナー?『シュタイナー』てまさか⋯⋯あの、シュタイナー領の⋯⋯?」

「はい。あの・・ベクター・シュタイナー様とジェーン・シュタイナー様のご子息です」

「はっ! マジかよっ!?」


 ルドルフがカイトの両親の名前を聞いて、テンションが上がる。


「おいおいおい、とんでもねービッグネーム・・・・・・が飛び出してきたじゃねーか!」

「はい。私も驚きました」

「ちくしょう〜、学園長の奴、この日までワザと・・・隠してやがったな⋯⋯狸め!」

「はい。私もアルフレッド騎士団長から最近聞かされました」

「それにしても、ベクター先輩・・もジェーン先輩・・前に会ったときに・・・・・・・・一言くらい教えてくれたっていいのによー!」

「あのお二人も学園長も、父を騙すのが大好きですからね」


 フフフ⋯⋯とケビンが笑みを浮かべる。


「⋯⋯たく! これでも部下や周囲の王族、貴族たちからは『血鬼のルドルフ』て恐れられてんだぞ? 少しは俺の扱いをよくしてくれてもいいのよー⋯⋯ブツブツ」


 ルドルフが納得いかない表情でムスっとする。


「まあまあ⋯⋯父上。ところで、今回のこのクラス編成トーナメントですが、何やら色々・・な面子の方が揃っています」

「おう。対面には商売敵の『ジャガーちゃん』もいるしな!」


 ルドルフは観覧席のちょうど向かいに座っている『ジャガーちゃん』こと⋯⋯『ジャガー財閥』の人間に睨みを効かせていた。


「⋯⋯あまり、刺激しないでくださいね、父上?」

「わーってるよ! こんなもん、挨拶だ、挨拶」


 そう言って、ケビンの注意を煙たがるように手を振って返事をする。


「ま、とりあえず、この大会⋯⋯⋯⋯あの学園長、間違いなく何かやる気・・・だな?」


 ルドルフは再度、ニヤリと獰猛な笑いを浮かべた。

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