第73話073「予選トーナメント一回戦(2)」



「それでは、予選トーナメント一回戦第一試合、マルーク・マキアート、イグナス・カスティーノ選手の入場です」

「「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」」

 司会の学園アイドル、フェリシア・ジャスミンが高らかに選手入場を告げると、大きな歓声が上がった。


「どうも、イグナス様」

「⋯⋯マルーク・マキアート」

「イグナス様とこうやって試合をするのは『子供教室』の卒業前の模擬戦以来ですね」

「⋯⋯ああ。そうだな」

「まあ、あの時は私の圧勝でしたが⋯⋯フフフ」

「⋯⋯」


 イグナスはマルークの言葉に無言の返事を返す。


「さあ、試合の前にもう一度、ルールをご説明しますですー! まず⋯⋯」


 そう言って、フェリシアが試合前に再度ルール説明を始めた。


——————————————————


【クラス編成トーナメント※ルール】


・目的は「生徒の実力測定」であるため殺し合いではない

・実力差がある試合は、レフリーの判断で止めるレフリーストップがある

・舞台の外に出た場合『テンカウント』で戻らなければ負けとなる

・試合続行可能かどうかの判断が必要なときは『テンカウント』を取って判断する

・超級魔法の使用禁止 ←New

・決勝トーナメント進出となるAクラス決定者だけは、全員『序列』が与えられる(基本は十名)

・予選敗退となるB、Cクラスの『序列』は、結果と試合内容で先生方のほうで決定される


——————————————————


「おいおいおい、シレっと『New』なルールが追加されてんぞ?」

「え?『超級魔法の使用禁止』? なんで、そんなルールがわざわざ追加されてんだ?」

「ま、まさか、超級魔法を使える奴が⋯⋯いるってこと?」


 ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ⋯⋯。


 観客がフェリシアのルール説明に、大いにざわつく。


「えー、今回新しく導入されたルールにつきましては、万が一ということが無いようにという配慮で追加となりましたので、特に気にしないでください〜⋯⋯と学園長が言ってたよーん!」


 観客のざわつく空気をものともしないフェリシアが、キャピキャピーンとテンション高く補足を入れる。


「フ⋯⋯。『超級魔法の使用禁止』か。まったく、笑わせる。これって、アレですよね? イグナス様と一緒にいるあのカイト・シュタイナーという下級貴族が、合同魔法授業で魔力暴走させたのを誰かが『超級魔法』だと勘違いしたやつですよね?」

「さあ⋯⋯」

「魔力暴走を超級魔法と勘違いするとは、全く迷惑な話です。しかも、何を血迷ったか大会のルールに『新ルール』として適用するなんて、これじゃあ、まるで『本当に超級魔法を使える生徒がいる』と周囲に勘違いさせるようなもんじゃないですか。まったく、学園長も何を考えているのやら⋯⋯」


 そう言って、マルークが大げさに肩をすくめる。


「まあ、そんな話はどうでもいいですね。イグナス様、試合⋯⋯楽しみましょうね?」


 そう言って、マルークがニヤ〜と下品な笑みを浮かべる。しかし、


「いや、そんな楽しむほど時間は掛からんだろう」

「何?」

「それでは、一回戦第一試合、試合開始ーーーーーーっ!!!!」


 ゴーーーーーーーン!


 フェリシアの掛け声と同時に、観覧席の最上階にある銅羅がゴーンと大きく鳴った。


「いきますよ、イグナス様! 炎球フレイム・ボール!」


 ゴッ!


 試合開始早々、マルークが先手必勝と言わんばかりに炎球フレイム・ボールを放つ。炎球フレイム・ボールの大きさから見ると、かなりの使い手のようだ。しかし、


 バシュ!


「え?」

「へ?」

「「「「「は?」」」」」


 マルークの放った五十センチ大の大きな炎球フレイム・ボールを、イグナスが右手だけで払うと炎球フレイム・ボールが消失。そのイグナスの対処に司会も観客も、何より魔法を放ったマルーク本人も「何が起こったのかわからない」とでも言いたげな表情を浮かべ、呆然としていた。


「イグナスのあのオリジナル技。やっぱ凄えな⋯⋯」

「はい」

「ホントっすね」


 ガスもディーノもカートもイグナスのマルークの炎球フレイム・ボールを処理した『技』に軽くため息を吐く。


「氷属性初級魔法と風属性初級魔法レベルの魔法威力を『手』に留めた状態にして、相手の魔法を弾く⋯⋯よく、そんなこと思いつきますね」


 俺もイグナスのそのオリジナル技を初めて見た時は感心した。皆がイグナスの『魔法センスの高さ』を絶賛する所以である。


「まー、氷と風属性の魔法と相性の良い『火属性魔法』限定ではありますが、それでもオリジナル魔法を作れるというのがすごいと思います」


 ディーノが「限定的とはいえすごい」と感心しながら説明する。


「⋯⋯思いつきもすごいが、本当にすごいのはそれを実際に具現化し、オリジナル魔法に昇華できるところだ。やっぱ、イグナスあいつはすげーわ」


 ガスは体を震わせながら・・・・・・・・イグナスを睨む。感心と嫉妬が入り混じっているような表情だ。


「な、なんだ、今のは!? ま、まさか! イグナス様、魔道具を使っているのではっ!?」

「は? んなわけねーだろ?」

「お、おい、レフリー! ボディーチェックだ! イグナス様をすぐにボディーチェックしろ!」


 ここで、一旦試合が中断され、イグナスのボディーチェックが入った。


「え? 何、どうしたの?」

「どうやらマルークが今のイグナスの魔法処理に『魔道具が使われた』と思って、レフリーにボディーチェックを要求したようだな」

「はっはっは。わからないでもないですよ。初見で、イグナスのあのオリジナル魔法『爪弾きストラミング』を見たら、私でもマルークと同じようにレフリーへボディーチェックを要求します」


 ディーノが上品に笑いながら呟く。結局、レフリーがイグナスをボディーチェックしても何も出てこなかったということで試合再開となった。


「ぬ、ぬぅぅ〜。卑怯ですよ、イグナス様。魔道具どこに隠しているんですか?」

「いや、卑怯も何も魔道具なんて持ってねーよ」

「そんなわけありません! あんな魔法、見たことないです!」

「いや、だって、あれ⋯⋯俺のオリジナル魔法だもの」

「へ?」


 ざわざわざわざわざわざわざわざわざわ⋯⋯。


「お、おい、聞いたか?」

「あ、ああ。今のオリジナルの魔法だったのかよ?」

「い、いや、オリジナル魔法なんてのを、なんで一回生が編み出してんだよ!?」


 観覧席はもちろんだが、イグナスの『オリジナル魔法発言』に試合を観覧していた他の一回戦シードとなっている入学時Aクラス配属の一回生たちも驚きを隠せないでいた。あ、レイア姫様も「えっ!」てな感じで驚いているな。驚いている顔が普段の凛とした感じじゃなく等身大の女子な感じで実にかわいい。


「そ、そんな、オリジナル魔法だと!? バ、バカな⋯⋯」


 マルークが何度も何度も「そんなことあるわけない」と呟く中、イグナスが一言。


「⋯⋯氷結凝固フリーズ・パック!」


 ピキ⋯⋯っ!!!!


 イグナスが氷属性中級魔法『氷結爆砕フリーズ・ブラスト』の『爆砕』が無いバージョンの『瞬間冷却特化』の氷属性中級魔法『氷結凝固フリーズ・パック』を展開。マルークが一瞬で氷漬けとなる。


 ここで、レフリーがテンカウントを唱えるが、途中で試合続行不可能と判断したのかレフリーストップという仕草をした。


「ストップ! ストーーープッ!! レフリーストップだぁぁぁーーーっ!!!! イグナス・カスティーノ選手の勝利です!!!!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」


 司会のフェリシアが興奮気味にイグナスの勝利を宣言。観客もイグナスの圧倒的勝利に大興奮する中、イグナスは、


「あーーーー! うるせーーーーっ!!!!」


 と一人、愚痴りながらさっさと舞台から去っていった。

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