第69話069「学園長の思惑」



——大会二日前 学園長室


「やあ、カイト君」

「ども、学園長」


 放課後、俺はなぜか学園長に呼ばれた。


「いよいよ、二日後にクラス編成トーナメントが始まりますね」

「そうですね」

「準備のほうはいかがですか?」

「まあ、概ね順調です」

「そうですか。さて、今回お呼びしたのは、いくつかお知らせしたいことがございまして⋯⋯」

「何でしょう?」

「今回のクラス編成トーナメント⋯⋯カイト君は『シード』にしようかと思っているのですが、いかがでしょう?」

「シード?」

「ええ。前の合同魔法授業で君はガス・ジャガー君を圧倒したというのを聞いています。なので、カイト君は予選は無しにして、決勝トーナメントからの出場という形にしようかと思っているのですが、どうですか?」

「どう⋯⋯と言われましても⋯⋯」

「クラス編成トーナメントというのは、予選トーナメントと決勝トーナメントで分かれています。そして、決勝トーナメントまで勝ち進めばその時点でAクラス入りが確定となります。なので、決勝トーナメントからの出場という『シード』を与えられるということは『カイト君はAクラス入りが確定している』と周囲に知らしめることを意味します」

「っ!? そ、それって⋯⋯学園長から、すんごい贔屓・・されていると皆に思われるのでは?」

「そういうことです」

「い、いやいや、ちょっと待ってください!? そんなことして学園長は大丈夫なんですか?」 

「はい、問題ありません。むしろ、私が『カイト君を買っている』という宣伝の目的もありますので」

「ど、どうして⋯⋯? どうして、そんな宣伝を?」


 な、なんだ? 学園長の目的はいったい何なんだ?


「ふぉふぉふぉ。目的はそのままの意味です。君に大いに目立ってもらいたいのです」

「な、なぜ⋯⋯ですか?」

「君がこれからやろうとしていることと、がこれからやろうとしていることの目的が一緒だからです」

「が、学園長の目的と⋯⋯一緒?」

「はい。それに、私は君の両親である⋯⋯元騎士団長ベクター・シュタイナーとその妻で元副団長のジェーン・シュタイナー、そして、現・騎士団長アルフレッド・ヴェントレー、最年少上級魔法士レコ・キャスヴェリーの味方でもあります。それはご存知ですね?」

「え、ええ」

「そして、君の目的はその者たちの目的でもある『現騎士団の解体』または『新しい騎士団の創設』⋯⋯そうですね?」

「⋯⋯は、はい」

「うむ。そして私もまたお主たちと目的の方向・・は一緒じゃ。その上でシードの提案をしている」

「八百長でもするんですか?」

「いやいや、そうじゃない。学園の歴史上初めての『学園長推薦シード』という形で君をシード枠として擁立すれば否が応でも目立ち、生徒も先生も招待客も皆が君を注目するじゃろう。そして、そんな注目が集まる中、決勝トーナメントで勝ち進んで優勝すれば、その後は今よりももっと動きやすくなるという話じゃ」

「⋯⋯なるほど」

「ちなみに、私にとっても・・・・・・カイト君が有名になればなるほど動きやすくなる」

「『ウィン・ウィン』⋯⋯ということですか」

「そういうことじゃ。ただし⋯⋯」

「?」

「『学園長推薦シード』として出場するのだ。それは、他の生徒から『注目される』イコール『ターゲットにされる』ということと同義。つまり『敵をあえて作る状況』になるのじゃが⋯⋯大丈夫かな?」


 学園長が俺を試すよう静かに洞察しながら問いかけた。


「さ、さあ、どうでしょう、ハハ⋯⋯」


 俺は、学園長にリードされているこの状況は「よろしくない」と感じたので、いったん『猫をかぶった』返事を返す。しかし、


「カイト君——私は君が『猫をかぶっている』ことを知ってるよ?」

「っ!?」

「だから、私の前ではその『猫』を脱いでもらえるかな?」

「⋯⋯⋯⋯いつからだ?」

「君がイグナス・カスティーノ君とやり合ったときじゃな」

「っ?!⋯⋯狸め」


 そんな前から知っていたのか。


「ふぉふぉふぉ。『猫をかぶる』お主から『狸』呼ばわりとはな。まあ、褒め言葉として受け取っとくかのぅ〜」

「で? じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」

「ふむ。今話したとおりじゃ。カイト君には優勝してもらいたい。ただ、その前に一つ、報告がある」

「報告?」

「大会では『超級魔法の使用は禁止』じゃ。理由は、今、学園で用意している『防御結界魔法』では『超級魔法』の威力は防げんからのぉ〜」

「あー⋯⋯なるほど」

「なので、大会では『超級魔法を制限した状況下での優勝』をやってもらうことになるのだが、できるかの?」

「うーん、どうだろう? まあ、学園長が俺にこうやって『シード』の話をしたり、手の内を明かしたりするってことは『そんな状況下でも俺が優勝できる』と踏んで話しているってことですよね?」

「ふむ。理解が早くて助かる」

「じゃあ、何とかなるんじゃないですか? まあ、あまり人との・・・実戦経験は少ないからわからないですが⋯⋯」

「ふぉふぉふぉ。その言葉で十分じゃ。頼んじゃぞ、カイト・シュタイナー」

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