第38話038「圧倒。そして⋯⋯」



「さあ少年、ドーンとかかってきなさい!」

「舐めんじゃねーぞ、コラァァァァ!!!!」


 ドン⋯⋯っ!!!!


「⋯⋯はぁぁぁぁ」


 イグナスが前に突き出した両手にかなりの魔力を収束させていく。


「悪いが、こんな茶番はさっさと終わらせてやる。とりあえず、死なない程度には手加減してやるよ⋯⋯」

「ん? いや、別にお前が手加減する必要はないぞ」

「(ピクピク)いいだろう⋯⋯おい、お前ら⋯⋯聞いたな? こいつの今の言葉⋯⋯」

「「「「「は、ははは、はいぃぃぃ! 聞きましたーーーっ!!!!!!」」」」」


 イグナスは、こめかみに青筋を何本も立て、顔を真っ赤にした怒りの形相で手下連中に吠えた。どうやら、今の俺の「手加減する必要はないぞ」という言質を取ったということかな。


「そういう⋯⋯こと⋯⋯だ。カイト・シュタイナー⋯⋯お前はもう⋯⋯⋯⋯死ねっ!」

「イ、イグナス様っ! やめてくださ⋯⋯っ!」


 ザックがイグナスにやめるよう声を上げたが、その声をかき消すかのごとく、イグナスの雄叫びが響き渡る。


猛襲風刃ストーム・ブレードっ!!!!」


 ゴォォォォォォォォォォっ!!!!!


 風属性の中級魔法『猛襲風刃ストーム・ブレード』がイグナスの両手から展開。小型の竜巻が発生し、その竜巻に触れたところから切り刻む『かまいたち』の殺傷攻撃を含んだ竜巻がカイトを襲う。


「ちゅ、中級魔法っ!? そ、そんな、イグナス様本気でカイトを⋯⋯」


 ザックが青い顔をして膝をつく。


「ぎゃはははははっ! おい、カイト・シュタイナー! 魔法を使えるなら死ぬ気で、最大級に、身体強化ビルドを発動してその場から逃げるか必死に耐えなっ! さもなきゃ、どうなっても知らんぞっ!!!!」

「カイトーーーーーーっ!!!!!!!!」


 スッ⋯⋯。


「はっ?」

「えっ?」


 すると、カイトは逃げるわけでもなく、身体強化ビルドを発動するわけでもなく、ただ、右腕をスッと前に突き出した。


「おいおいおいおい⋯⋯まさか、魔法で対抗するとでも言うのか、カイト・シュタイナー。アホだろ、お前! お前みたいな下級貴族の魔法が俺の魔法に勝てるわけないだろがっ!!!!」

「カイト! ダメだ! 逃げないとっ! 下級貴族の魔法の威力じゃ、上級貴族の魔法に対抗できるわけ⋯⋯」


「⋯⋯氷結爆砕フリーズ・ブラスト


 ビュオォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!!


 カイトの突き出した手から、猛吹雪が唸りながら舞い上がった。そして、


 カッチーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!


 目の前に迫っていたイグナスの猛襲風刃ストーム・ブレードを瞬間冷却。猛襲風刃ストーム・ブレードの形をした氷のオブジェが完成。そして、


 パーーーーーーーーーンっ!!!!!!!!


 氷のオブジェが派手に弾け飛んだ。


「はっ?」

「はっ?」

「「「「「はっ?」」」」」


 イグナス、ザック、手下連中⋯⋯一同呆然。


「はい! どんどん! どんどん来なさい!」


 そして、変なスイッチが入った俺。


 そんな、カオスな状況の中、イグナスが口を開く。


「⋯⋯な、なんだ? 今のが中級魔法の氷結爆砕フリーズ・ブラストだと? そんなわけあるかぁぁぁぁ!!!!」

「失礼な! 今のはちゃんとした中級魔法の氷結爆砕フリーズ・ブラストだぞ!(ぷんぷん)」


 テンション高い返事を返す面倒くさいキャラの俺。


「そ、そんなバカなっ!? あんな威力の中級魔法なんて見たことないぞっ! もはや、上級魔法の威力じゃねーかっ!」


 イグナスが愕然としながら声を上げる。


「だって、しょうがないでしょ! これが俺の中級魔法なのっ!!!!」

「「「「「⋯⋯」」」」」


 なんか、とりあえず逆ギレしてみた。そしたら、静かになった。


「ム、ムチャクチャじゃねーか。一体、何なんだよ、お前⋯⋯」


 もはや、戦意喪失したイグナスが普通にカイトに向かって話しかける。


「クラリオン王国の小領地シュタイナー領で領主の子供やってます」

「な、何だよ⋯⋯。何なんだよ、お前⋯⋯」

「お? なんだ? また、何かやるのか? よし、いいぜ! こいよっ!」


 俺は元気ハツラツに声を上げた。


「うぜぇ〜〜〜〜〜〜〜」

「うぜぇ〜〜〜〜〜〜〜」

「「「「「うぜぇ〜〜〜〜〜〜〜」」」」」


 イグナス、ザック、手下連中含む全員が「うぜぇ」の大合唱。


 えっ! ちょっ!? ザックまで⋯⋯っ!!!!


「はぁぁぁ〜〜〜⋯⋯。何か、もうアホらしくなったわ。俺の負けでいいよ」

「何?」

「だから、俺の負けでいいっつってんだよ!」

「なんだ? 負けを認めるのか? はは〜ん⋯⋯さてはお前、俺を油断させて手下連中と一緒に俺をリンチする気だな?」

「するかっ! アホみたいに強い化け物相手に!」

「そうか? やらないのか? じゃあ、イグナス⋯⋯ザックに謝れ」

「何?」



********************



「カ、カイトっ!!!!」


 カイトが突然、イグナスに「ザックに謝れ」と告げると、それを聞いたザックはまさかの急展開に思わず声を上げた。


「ザックは言ってた。騎士団の幹部候補生になるのが夢なのに、お前が親の力を利用して無理矢理リンチさせるのが嫌だと。さらに将来もずっとお前の下で奴隷のように生きていくことに絶望していると⋯⋯」

「⋯⋯カイト」

「イグナス、お前言ったよな? 親は関係ないと。だったら、ザックをそんな親の力で縛るのはやめろよ。あれだけの魔法を使えるお前なら、手下を利用してリンチなんて、そんなカッコ悪いことする必要ないだろ!」

「俺は⋯⋯ザックが嫌だと思っていたなんて⋯⋯知らなかった」

「え?」

「は?」

「俺はザックを将来、自分の右腕として手元に置きたかっただけだ⋯⋯」

「「ん、んん〜⋯⋯????」」


 話によると、こうだ。


——————————————————


『イグナス様の御心』


・ザックは俺のことを親友だと思っているし尊敬もしている

・ザックの家のカーマイン商会はウチが後ろ盾になっているから今後も関係は続く

・ザックは俺の親友だから将来俺の右腕となって支えてくれるに違いない

・ザックは俺の右腕になるから、今のうちから汚れ仕事を慣れるようにしてあげよう

・ザックは死ぬまでずっと友達(ズッ友だよ)


——————————————————


「「ん、んん〜⋯⋯????」」

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