第36話036「次なる一手」
「俺の名はイグナス・カスティーノ。カイト・シュタイナー、お前、これから俺の⋯⋯⋯⋯奴隷な?」
「⋯⋯」
上級貴族カスティーノ家次男『イグナス・カスティーノ』が、下卑た笑みを浮かべながら俺に奴隷宣告をした。
「おい、聞こえなかったのか?」
「返事しろ、カイト・シュタイナー!」
周囲の手下どもがやいのやいの言ってくる。
「なんだ? お前、また痛い目に遭いたいのか? お前はこれから俺の奴隷だって言ってんだろ? 何か返事したらどうだ?」
イグナスが再度、脅しをかけた。
「え? 嫌です」
「「「「「⋯⋯へ?」」」」」
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「(ピクピク)お前、今⋯⋯何つった?」
イグナスが顔を引き攣りながら、俺に尋ねる。
「え? えーと⋯⋯奴隷になるのは嫌です」
「「「「「っ!!!!!!!!!!!」」」」」
カイトが今度ははっきりとイグナスの言葉を否定。イグナスの手下が一斉に青い顔をする。
「お前、それ⋯⋯本気で言ってんのか? 俺が誰だかわかってんのか?」
「イグナス・カスティーノ。カスティーノ家の人だよね?」
俺はイグナスの問いに即答する。
「そうだ! イグナス様は上級貴族、カスティーノ家の人だぞ!」
「お前、下級貴族のくせしてなんだ、その態度はっ!」
「イグナス『様』だろが! 敬語を使え、この無礼者っ!」
野次馬手下がやいのやいのうるさい。
「お前⋯⋯俺に喧嘩を売っているってことでいいよな?」
イグナスが額に青スジを立てながら尋ねる。
「いえ? 喧嘩も何も⋯⋯君が奴隷になれっていうからそれに対して嫌だって言っただけだよ?」
「それが喧嘩を売っているって言ってんだよ、あぁっ!!!!」
イグナスがついに堪忍袋の尾が切れたのか顔を真っ赤にして凄んできた。
「お前、いい度胸してんな? いいだろう⋯⋯まだ、自分の状況がよくわかっていないみたいだから、もう一度、俺が教えてや⋯⋯」
キーン、コーン、カーン、コーン。
「あ! もう授業始まる。ごめん、じゃあ、教室に戻るね」
「え、あ⋯⋯し、失礼しますっ!!!!!」
俺とザックはイグナスに
「カイト・シュタイナー⋯⋯見た目以上にいい根性してるじゃねーか」
去っていくカイトに、イグナスは完全に
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「はーい、皆さん、席につい⋯⋯⋯⋯っ!? ど、どうしたの! カイト・シュタイナーっ!!!!」
「あ! レコ⋯⋯先生」
そうか。次の授業って魔法の授業だったか。
俺の元家庭教師で年が一つ上のレコ・キャスヴェリー⋯⋯現在は、この騎士学園で魔法の授業を担当している。
「あ、あんた、どうしたの、その包帯はっ! 何かケガでもしたのっ!?」
「え? あー⋯⋯いや、転んだだけでーす」
「は?」
「転んだだけでーす」
俺は「詮索しないでください」というアイコンタクトをレコに送る。
「は〜〜〜〜〜〜⋯⋯。とりあえず、授業終わったらカイト・シュタイナーは職員室へ。では授業を始めます」
すると、レコは「あんた、またなんか
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「さて⋯⋯これから魔法の授業を始めますが、Cクラスは下級貴族や平民が多いので、おそらく魔法が使えない者がほとんどだと思います。なので、今日は魔法を使う前に必要な魔力コントロールについてのお話をします」
そう言って、レコが魔力についての話を始めた。
「みんなわかっていると思うけど、魔法を使えるようになるには体内の魔力を認識してそれをコントロールする必要があります。ただ、この最初の魔力を認識するというのが難しく大きな壁ですので、中々、うまく魔力を認識できない者は多いでしょう」
レコがそう言うと、周囲のほとんどの生徒が「うんうん」とうなずく。
「ちなみに、このCクラスで魔力コントロールができる者はいますか?」
そう言って、レコが手を挙げるよう促した。すると、俺とザック以外に三人ほど手を挙げた。
え? そんなに少ないの?
ちなみに、Cクラスの生徒⋯⋯十数人いるがその中で手を挙げたのは五人。俺とザックと、それ以外に手を挙げたのは三人で、その内の一人は下級貴族だった。しかし、残りの二人はなんと平民の男と女だった。ていうか、ほとんどの生徒が今の時点で本当に魔力コントロールができていないことに俺は軽く驚いた。
前にザックから「ほとんどの下級貴族や平民の生徒は入学時は魔法が使えない」と言っていたが、こうして実際に現実を目の当たりにすると、俺が『超級魔法』をぶっ放せるのはまあまあ規格外であると再認識させられるな。
「え? 君ら二人、平民なのに魔力コントロールできるの?」
「「は、はい」」
「ということは、魔法も使えるってこと?」
「は、はい。初級魔法なら⋯⋯」
「わ、わたしも⋯⋯初級魔法だけですが⋯⋯」
「す、すごい! それじゃあ、ちょっと前に来て魔法を見せてもらっていいかな?」
そう言って、レコは二人を教壇の前に呼んで魔法を発動させるよう指示した。
ちなみに、この学園の教室の作りは日本の大学の教室っぽく、後ろの席から教壇まで段々と下がった作りとなっている。
「では、そうですね。手のひらサイズの
「「は、はい!」」
そう言って、二人は魔力を右手に集中させると、しばらくして、手のひらサイズの
「うん! すごいね!」
「「あ、ありがとうございます!」」
「でも、ちょっと魔法発動までに時間かかり過ぎかな〜。ま、でも、そういったテクニックをこれからいろいろ教えていくから大丈夫ね!」
「「わ、わかりました!」」
そう言うと、レコが二人を席へ戻した。
「あと、平民の生徒は魔法が使えても魔力量は貴族よりも劣るので、あまり魔法発動をやり過ぎないように。では次に、魔力の認識とコントロールについて話をします。魔力認識は⋯⋯」
そうして、一通り魔力コントロールの話をした後、レコの授業は終わった。
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——職員室
「ちょっと、カイト! あんた一体、どうしたのよ、その姿はっ!!!!」
「あ、説明⋯⋯いる?」
「当たり前でしょっ!」
ということで、俺はレコに「イグナスが子分のザックに俺のリンチを命令した話」をしつつ、実際にリンチはされていないことと、イグナスに目をつけられないようにするためリンチされた風を装っているという話をした。
本当の目的は
「なるほど、わかったわ。カイトにしては中々まともな作戦じゃない」
「あ、そう? ありがとう⋯⋯たはは」
「それにしても、イグナス・カスティーノ⋯⋯カスティーノ家か。あんたもまた
「厄介な奴?」
「ええ。カスティーノ家といえば
「え? 悪さ? そんな悪さをしているのが有名ならなんで捕まえないの?」
「ふん。子供のあんたにはわからないだろうけど、上級貴族の連中は巧妙に法の網目をくぐり抜けて悪さをするから、そう簡単に捕まえられないのよ!」
「ふ〜ん⋯⋯よくわからないな」
「ま、子供のあんたには難しい話よね、ほっほっほ」
レコがやたらとマウントを取ってくる。ま、俺の評価はそのくらいにしてもらったほうが動きやすいので俺はそのまま特に反論せず、理解できないフリをした。
なるほど。レコの話を聞くと、このカスティーノ家は王都の裏でいろいろ顔が利く⋯⋯いわゆる『ヤクザ』っぽい組織なのかもしれないな。
だから、王都で商会をやっているザックのカーマイン家もこのカスティーノ家に頭が上がらないということか。
となると、俺がイグナス・カスティーノに手を出すというのは、日本でいうところの『ヤクザの組長の子供に手を出すようなもの』といったところか。
ま、大体は予想通りだな。あとは、イグナスに手を出した時の『免罪符』となる
であれば、この学園ルールの
********************
——コンコン
「はい、どうぞ⋯⋯」
「カイト・シュタイナーです。失礼します」
ガチャ⋯⋯。
「やあ、カイト・シュタイナー君。おや? どうしたんだい、その包帯姿は?」
「それも含めて、いろいろ教えて欲しいことがございます⋯⋯⋯⋯ハンニバル・シーザー学園長」
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