第5話005「超級魔法と魔力切れ」



——そんなある日のこと


 いつものように父の書斎に入り、他にまだ習得していない魔法書がないか探していると一冊の古びた魔法書をみつけた。


 その古びた魔法書は、この書斎にある他の魔法書とは少し違っていた。というのも、古びてはいるものの本の装飾はかなり豪奢で手の込んだ作りとなっていたからだ。


 これまで、この書斎で読んだ魔法書はすべて初級と中級魔法⋯⋯。つまり、俺が現時点で習得しているのは初級と中級魔法だけだった。


 魔法書は全部で初級、中級、上級とあるのだが、さらに上級の上には『超級魔法』というのが存在する。ただ、この『超級魔法』は伝説級のスーパーレアな魔法らしく、この世界でこの『超級魔法』を習得しているのはごく数人との書いてあった。


 なので、今回出てきたこの古びた魔法書⋯⋯本の装飾を見る限り、かなりの特別仕様感満載の魔法書だったので俺の予想では『上級魔法』と思い、早速開いてみた。すると、そこには『超級魔法』と記されていた。


「え? 超級魔法の魔法書? な、なんで、父の書斎にこんなものが⋯⋯?」


 さらに中身を調べると、どうやらこの『超級魔法』の魔法名は『極致豪炎フレア・バースト』という火属性の魔法だった。


 さて、そんなわけでこの『超級魔法』を習得するには発動させる必要があるのだが、どうやって発動させるか俺は考えた。


 まず、魔法を習得するには魔法を発動させる必要がある。幸い⋯⋯これまでは父の書斎にある魔法書はすべて初級魔法と数少ない中級魔法しかなかったので書斎で発動することができた。ちなみに攻撃系の魔法はさすがに室内では無理なので窓から外へ向けて発動していた。ちなみに、それで両親にバレることもなかったし、家に被害が出ることもなかった。


 しかし、今回は上級魔法を超えた『超級魔法』。


 というわけで、俺はいつものように窓からではなく、今回はベランダに出た。部屋で発動していた窓よりは広めの場所なのでこれなら家に被害が及ぶことはないだろうと安心した俺は右手を空にかざし、早速、超級魔法『極致炎壊フレア・バースト』を発動した。


 すると、体内にある魔力がものすごい勢いで俺の右手に収束していく。そして、その右手には灼熱の炎の塊がものすごい速度で膨れ上がっていった。


 炎の塊はやがて直径二メートルほどに達するも全然収まる気配がない。俺は「マズい!」と思い、強引にその炎の塊を消そうとした。しかし、この炎の塊を消す作業はさらなる魔力を消費することとなり、結果、俺は魔力切れを起こしてベランダで⋯⋯⋯⋯気絶した。



*********************



「お目覚めですか、カイト坊ちゃま」

「⋯⋯あ、はい」


 気がつくと、俺はメイドに自分のベッドに寝かせられていた。どうして自分がベッドに寝ているのか聞くと、


「ベクター様が書斎のベランダで気絶しているカイト坊ちゃまをみつけ、ジェーン様が急いで治癒魔法をかけ、その後顔色が良くなったということで安心したお二人から、私がカイト坊ちゃまを預かり、ベッドへとお運びいたしました」


 なるほど。これはやっちゃったな。


 もしかしたら、俺が魔力切れで気絶したことがバレたのかもしれない。


「あと、ベクター様とジェーン様からカイト坊ちゃまがお目覚めになられたら居間のほうに来るようにと」

「あ、はい⋯⋯わかりました」


 ああ⋯⋯これはバレたな、完全に。


 俺は魔法が使えることをカミングアウトする覚悟で居間へと向かった。だが、


「おー、もう元気になったか、カイト。心配したぞ」

「まー、カイトちゃん。すっかり元気になったようね。よかったわ」


 と言うだけで、特に二人は俺に対して『どうして父の書斎で気絶していたのか』などとは聞いてこなかった。


「カイト。私の書斎に黙って入るのはダメだぞ。あそこには大事な書物もいっぱいあるんだからな。いいな?」

「はい。ごめんなさい」

「うむ。素直に謝ることは立派だぞ」

「カイトちゃん。妹ができてお兄ちゃんになったからって、背伸びしてお父様の書斎で本を読むなんてことしなくていいのよ? あそこにある本は子供のあなたにはまだ早いものばかりなんだから。そんな難しい本を読んで目を回すのも無理ないわ。そうだ! 今度、絵本買ってきてあげるからそれを読んで、妹に読み聞かせをしてあげて」

「はい。わかりました。お母様、ごめんなさい」

「いいのよ。カイトちゃんが妹想いのお兄ちゃんになってくれてお母さん嬉しいわ」


 どうやら二人は、俺が父の書斎にある本を読んであまりの難しさに目を回して気絶したと思っているようだった。つまり、俺が三歳で魔法が使えるということはバレていなかったのだ。


 不幸中の幸いとはまさにこのこと。いや〜、危ない、危ない。

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