第52話 任務開始

 

 包帯を取って見せてくれた顔の傷は、腕よりも深かった。

 右目はちょうど避けられてはいたが、左頬から右目や右側頭部の方へ、4本の深い爪痕が残されていた。

 お腹の方も左側の方に数cmくらいの爪痕が4本ほど残っていた。

 他にも深くはないが、地面に倒れた時に着いたであろう擦り傷や切り傷、打撲の跡などがあった。


「ありがとう。やっぱり傷も多いから少し時間がかかるかもしれないね。その間、ちょっと我慢してくれるかな?」

「治るならいくらでも我慢します!! 何でもしますからお願いします! どの位かかりそうでしょうか……?」


結構深いし、傷の数も多いから丁寧にやるとどうしても時間は掛かってしまう。


「うーん、そうだなぁ……。深い傷もあるから1日はかかるかなぁ。若いからもう少し早く終わるかもしれないけど」

「え? 1日? 1年じゃなくて?」

「うん。でも治療している間なるべく動かないでほしいからベッドで横になっててほしいんだ。だから退屈だと思うけど。まぁ寝ててもいいけどね」

「そんなの全然我慢します!! お願いします!」

「じゃあ早速治していこうか。まずは一番気になるであろう顔の傷からにするかい?」

「はい!!」


 ベッドに横になってもらい、俺は頭の方へ座る位置を変えて、エイミーの頭部に両手を添えて治療を始めようとした時、出迎えてくれたサラさんが話しかけてきた。


「あの、すみません。治していただけるのはありがたいのですが、おいくらほどになるでしょうか……? 大金だと今すぐはお支払いできませんが、必ずお支払い致しますので、何とかエイミーを治してあげてください」


 一瞬何のことかわからなかったが、そりゃハンターギルドに依頼して来てもらったのなら報酬のことがあるもんな。

 お金のことは気にしていなかったから、すっかり忘れていた。


「あ、あぁそうか、説明するのを忘れていました。失礼致しました。エイミーさんの治療と魔物の討伐がすべて終われば、成功報酬を頂くことになっています。その成功報酬は既にリルファちゃんから呈示されていますので、大丈夫ですよ。ね? リルファちゃん」

「うん! リルがお小遣いでお願いして来てもらったからお姉ちゃん大丈夫だよ!」

「え、リルちゃん、いくらでお願いしたの?」


 サラさんが心配そうに尋ねる。


「えっとね、えーと……、銅貨18枚!」


 袋から銅貨を1枚ずつ取り出して数え、全部掌にのせて見せてくれた。


「18枚もあったの? いっぱい貯めたねぇリルファちゃん。えらいねぇ」

「えへへ……。お小遣いとか貯めておいたの!」

「じゃあそれはお仕事が全部終わったら貰わないといけないから、失くさないように持っていてね」

「うん!」


 満面の笑みで頷くリルファちゃんの頭を撫でていると、エイミーとサラさんが心配そうに尋ねてくる。


「あの、本当にいいんですか? 金貨でも銀貨でもなく銅貨18枚なんて……。お医者様の治療でももっとしますのに……」

「あの、傷が治ったら私働いて足りない分を支払いますので、何とか治してもらえませんか?」

「いや、料金は銅貨18枚でいいですよ。ギルドの正式な依頼というわけじゃないですからね。ただ、本当は個人間の契約は推奨されていないので内緒にしておいてくださいね」

「わかりました!」

「あと、傷が治ったら魔物の事を教えてくれるとありがたいかな。あまり思い出したくないはずなのに申し訳ないけど……」

「私が分かる事なら何でもお話します!」

「うん、助かるよ。後、お礼はリルファちゃんに言ってあげてね」

「はい! リルファ、本当にありがとう! お姉ちゃん本当に嬉しいわ!!」

「よかったねお姉ちゃん! 怪我が治ったら遊ぼうね!」

「わかったわ。いっぱい遊びましょう!」


 サラさんもホッとしたようだ。


「よし、じゃあ始めましょうか。さっきみたいにまた寝っ転がってくれるかな」

「はい! 私はどうしたらいいですか?」

「うーん、特に何もすることはないんだよね。寝ててもいいんだけど、初対面の男に頭を掴まれて眠れるわけないよね……。退屈だろうけど、我慢してもらえるかな。話しをするのは大丈夫だからね」

「はい!」 

「あと、みんなはお部屋の外で待っていてもらおうかな。治ったところを一番初めに見るのは自分自身にしてあげたいしね」

「うん! わかった!」

「よろしくお願いいたします」


 リルファちゃんとサラさんが部屋を出ていき、オレも治療を開始した。


「じゃあ始めるよ。ムズムズしてくるだろうけど、我慢してね」


 オレは傷跡に向けて魔力を流し始めた。

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