第24話 全滅

〈アルフェッカ〉は戦闘エリアに到達すると、上昇し上空から敵を補足、レーザーボーガンを構え1体ずつ狙い撃つ。1発も外すことなく星屑体せいせつたい6体を瞬く間に撃破。


 敵が上空の〈アルフェッカ〉に反撃。自身の体を覆っている砂状の物質を凝縮させ砲弾として撃ち出し、さらに強力な雷撃を放つ。


 フェリシティは砲弾をかわし、スラスターから発するプラズマテイルを、機体前面に収束させシールドとして雷撃をはじく。敵の猛烈な対空砲火にたまらず地上に降下、建物の間に身を隠す。建物の影を利用し巧みな動きで敵の攻撃をかわし、恐れることなく接近しプラズマ刃紋刀で1体ずつ斬り伏せていく。


 突然舞い降りたCRESクレス機がほんの数分で一帯の敵を殲滅してしまった。


『あっという間に11体も!』

『なんだ……あのSWG』

『アサルトライフルで、すべて一撃で……』


 敵の一群と交戦していた部隊、その指揮官から通信が入る。

『そこのCRESクレス機、加勢感謝する。こちらアムレート市基地所属4130SWG部隊クマル中佐だ、この隊の指揮を執っている。貴官の所属は?』


「所属? えっと……所属はH.E.R.I.Tヘリットです」


H.E.R.I.Tヘリット? コールサインは?』


「コールサイン……? え、何それ……えっと、あの……わかりません。機体の名前はえっと、アルフェッカで。スタッフの中にはインパーフェクト・ビューティ(Imperfect Beauty)って呼んでたりもします……」

 突然の問いかけにフェリシティは戸惑いながら答える。 


 釈然としないその返答に、クマル中佐は眉をしかめる。

「貴様、軍人ではないのか?」


「……はい」


 他の基地から援軍が到着したわけではないということ、おまけに民間人が軍用SWGで戦闘を行っているという事実にクマル中佐は落胆と苛立ちを隠せない。しかし今はそんなこと気に病んでいる状況ではないと、クマル中佐は舌打ちし再び問いかける。 


「まあいい、戦闘はできるな」


「はい、訓練は受けています。戦えます!」


「了解。失礼した〝ビューティ〟、それでは君を目印にして戦力を再集結させたい。協力を仰ぐ」


「ビューティって、ええ⁉ あ、はい、了解です!」思いもよらない呼び名をつけられ、フェリシティは恥ずかしくなるが、今はそんなこと気にしていられないと素直に聞き入れる。


 クマル中佐は無線で散り散りになった部隊に呼びかける。


『こちら4130SWG部隊クマル中佐、残存する部隊を糾合きゆうごうする。この通信が聞こえている部隊は我が隊に集結されたし。座標を送る。残存する部隊は〝ビューティ〟の元に集結せよ。繰り返す、残存する部隊は〝ビューティ〟の元へ集結せよ! 水色の機体、紫色の光の尾を引くSWGが目印だ』


(何回も……その名前で呼ばれると、恥ずかしい……大勢の人に聞かれてるんだよね……)


 フェリシティの活躍により地区を蹂躙していた星屑体せいせつたいは一掃され、その辺り一帯に展開していた部隊が集結する。


 SWG全機が補給を済ませ、集まった部隊が一斉に進軍を開始。


〈アルフェッカ〉が先頭に立たされ、〈灰神楽はいかぐら〉が位置し最も激しい戦闘が繰り広げられている東地区へと向かう。



 礁核体から発せられる伝導干渉波でんどうかんしょうはを受け、無人機とSWG〈ドラグーン〉が動きを止めていた。


 そんな中でも、CRESクレス専用SWG〈ヴェガ・タイプ〉8機は、動きを鈍らせることなく激しい戦闘を繰り広げている。

 全長400mを超える巨大な敵〈灰神楽はいかぐら〉が、自身の体から絶えず無数のレーザー光線を放ち続ける。その容赦なく降り注ぐ光の刃に1機が切り刻まれ大破。もう1機が、〈灰神楽〉から放たれた岩漿マグマ砲を受け、盾にしていた建物ごと跡形もなく溶解する。


『トバとダリウスが‼』ハンターズ隊エミール少尉が叫ぶ。


『〝テラモン〟〝ドライアス〟信号途絶!』ハンターズ隊副隊長アユン中尉が皆に知らせる。


『クソッ、何なんだこれ! 仲間がやられたってのに憎しみも悲しも湧いてこねぇ……ナノマシンで感情が制御されるとか、違和感ありすぎて……もう自分が自分じゃないみたいだ。これじゃまるで機械と同じになったみてえじゃねぇかっ!』


『エミール集中しろ‼ お前もやられるぞ。ん、砲撃支援が止んだ、随伴部隊は?』

 ハンターズ隊隊長のハイメ・リカーソン大尉が状況を尋ねる。


『一般ピーどもは、全滅したようです』〝リンセウス〟機リー少尉が隊長の〝ジェイソン〟機に答える。 


〝エキオン〟機のエミール少尉が蔑みをこめて、

『たくっ、使えねえな! 低能耐性無しども』


『弾薬ももう少ない。このままでは……』

『応援はまだか?』

『ダメです。一向に司令部と繋がりません』司令部との通信を試みていた〝アタランタ〟機アユン中尉がが〝ジェイソン〟機に報告すると、〝リンセウス〟機が進言する。

『退却しましょう。司令部がやられたんじゃ、もうここで敵を足止めする理由も――』


『バカを言うな! ここには100万もの市民がいるんだぞっ‼』


『おかしいです……敵は一定の破壊行動を行ったあとは、撤退するのではなかったのですか?』


『ああ、こいつら〝亡霊〟どもは都市機能をあらかた破壊すれば退くはずなんだが……』

〝リンセウス〟の疑問に礁核体との実戦経験が最も多い隊長の〝ジェイソン〟が答える。


 すでに発電所、工業区、ライフラインほぼすべて破壊されていた。24時間不休で作業し続けたとしても最低限のライフライン復旧に数か月、復興には数年かかるだろう。惑星ヘレネーの都市では、そのぐらいの被害が出れば〝亡霊〟たちは忽然と姿を消していたものだった。しかし今、侵攻してきた敵は一向に退く気配がない。


『こいつはこれまで見たどの礁核体しょうかくたいよりも比較にならないほどデカい。明らかに今までとは状況が違っているのでは。そもそも礁核体しょうかくたいがヘレネー以外に現れるなんて聞いたことありませんよ』


『ああ、確かに今までとあまりに状況が違う……』


『このままでは我々も持たない。亡霊たちはもう都市の中心部にまで』


 その時、金色の光跡をひいた高速の砲弾が〈灰神楽はいかぐら〉に突き刺さり、分厚い装甲を大きくえぐる。


『なんだ⁉』


 再び金色に輝く砲弾が稲妻に似た光跡を描きながら飛来し、ゆっくりと前進していた礁核体〈灰神楽はいかぐら〉に直撃していく。


『今まで全然あの礁核体しょうかくたいに損傷を与えられなかったのに……』


 アリスブルーの機体が突如として現れ、敵の侵攻を止めた。


灰神楽はいかぐら〉の体中に赤い光が灯る。敵のレーザー光線が〈アルフェッカ〉に向け撃たれようとしたその時、後方から無数のビーム砲と砲弾が敵〈灰神楽はいかぐら〉にあたり攻撃を阻止する。


『援軍か⁉』


『こちら第4130SWG部隊クマル中佐、加勢する』


『こちらハンターズ隊、応援感謝します。隊長のハイメ・リカーソン大尉です。コールサインは〝ジェイソン〟』


『了解〝ジェイソン〟。後方より援護する』  


 再び〈灰神楽はいかぐら〉の体中に赤く光る点が現れる。後方の随伴部隊に向けられている。


「対レーザーシールドッ!」


 後方の随伴部隊に向かって無数のレーザー光線が放たれる。シールドの展開が間に合わず一瞬にして〈ドラグーン〉5機が餌食となり爆散。


 対レーザー兵器用の盾を展開するが、無数に照射され続ける強力なレーザー光線に盾が耐えきれず貫通し、そのまま光の鋭利な格子に斬り刻まれ破壊されたいく〈ドラグーン〉たち。


 建物の影からビーム砲の砲身だけを出し、狙い撃とうとしても、敵の精確な照準に砲身が焼かれる。


『対DEW瀑煙弾ばくえんだん! 撃て!』


 後方のSWG部隊が発煙弾発射機から直上に向けて瀑煙弾と呼ばれる――煙幕の中に金属箔や微細な結晶が含まれ光学兵器を大幅に減衰させる――防御兵器を撃ち出す。空中で炸裂し白い煙や結晶が滝のように空中から流れ落ち、分厚い煙幕の壁が後方の部隊周囲に形成される。


 煙幕で視界がゼロ、味方も光学兵器が使用できないため実弾兵器に持ち替える。前線のCRESクレス機から送られてくるデータを元に砲撃を始める。


〈ドラグーン〉の両肩に装備された155mm榴弾砲で砲撃を行うが、敵のレーザーにより弾着する前に迎撃され空中で炸裂。


 連携を密にし一斉射撃で再度〈灰神楽はいかぐら〉に砲弾の雨を降らせるが、敵レーザーの迎撃を免れ直撃した砲弾も敵の分厚い装甲を貫けない。


 再び〈灰神楽はいかぐら〉が動き出す。砲撃を続けるが、敵の前進を遅らせることしかできない。都市中央部は未だ逃げ惑う一般市民でごった返していた。〈灰神楽はいかぐら〉が発する伝導干渉波でんどうかんしょうはが届けばさらなる混乱を招き、事故も多発、錯乱した人々による破壊と殺戮も起きかねない。


〈アルフェッカ〉は敵〈灰神楽はいかぐら〉を狙いレーザーボーガンの引き金を引く。


 弾道制御を行うレーザー光の後押しにより砲弾は俊敏な動きで〈灰神楽はいかぐら〉の強力な迎撃レーザーを巧みに掻い潜りながら、敵の重心点に命中する。しかし何層にも及ぶ分厚い敵の砂塵装甲に阻まれ、敵の装甲を貫くことができずにいた。


「あの厚い壁は突破できない……どうすれば」


灰神楽はいかぐら〉の放つ攻撃だけでなく、表面を覆う高密度流動性砂塵装甲にも膨大なエネルギーが必要なはずだが、敵の攻撃は一向に衰えない。


『流動性の装甲で、すぐに形状が戻り被弾個所の損傷を一瞬で塞いでしまう。一撃で決めるか、または同時に同じ箇所に撃ちこみ敵の動力源を破壊するしかない』

 クマル中佐が全隊に呼びかける。


 しかし、敵のテクノロジーに関しては、未だ何一つわかっていない。どんな動力源なのか。あの装甲ともエネルギーシールドともい言えるような防御壁。ただ一つ分かっていることは、その防御壁がこのネメシス星系を覆っている塵で構成されているということだけ。


『一体どうすれば……〝ビューティ〟の持つあの武器だけが有効か』クマル中佐は作戦を練る。


〈アルフェッカ〉はスラスターから発するプラズマを収束させシールドとし敵のレーザー光線を大幅に減衰させる。しかし複数のレーザー光線を一度に受ければ防ぎきることができず、大きなダメージを受ける。


 フェリシティは、襲い来るレーザー光線を舞うようにかわしながらレーザーボーガンで反撃、連射で一点だけを狙おうとするが敵の猛攻に、狙いを定めることができない。


灰神楽はいかぐら〉が〈アルフェッカ〉に攻撃を集中させる。レーザーボーガンで撃ち出された砲弾も、敵の無数のレーザーを掻い潜れず、敵に当たる前に迎撃され蒸発。


 ハンターズ隊が陽動をしかけ、敵の注意を引こうとするが、〈灰神楽はいかぐら〉はもはやそれらを脅威と見なさず〈アルフェッカ〉だけを狙う。


『〝ビューティ〟を守れっ!』


『一般機では近づけません』


『ハンターズ隊! 〝ビューティ〟を敵の攻撃から守り、狙撃をサポートせよ』


『壁になって俺たちに死ねってのかよ! ふざんけんなっ』


『貴様っ、上官に向かってなんだその口の利き方はっ‼』

〝エキオン〟機エミール少尉が指揮するクマル中佐にたてつく。


『上官だから何だよ、アァッ! 前に出て戦えもしない腰抜けが数十kmも後ろから偉そうにもの言ってんじゃねぇ』


『命令を拒否するつもりかっ⁉』


『処罰するってか? やれるもんならやってみろよ。こっちとしてもありがたいねぇ。しばらくの間最前線に送られずに済むからな』


『貴様あぁ!』


『よせエミール! 今は言い争っている時ではない』


『けっ』


『失礼しました、できる限りのことはしてみましょう。〝ジェイソン〟より各員、〝ビューティ〟を援護する』


『〝アタランタ〟了解』『〝ピリザス〟了解』『〝リンセウス〟了解』『〝メリーガ〟了解』


『チッ、〝エキオン〟了解』


『〝ビューティ〟よろしいかな』


『はい。了解しました。いつでもどうぞ』

〝ジェイソン〟機ハイメ大尉から合図を受け、フェリシティは、レーザーボーガンを構え狙撃態勢に入る。


 敵のレーザーが襲い来る。ハンターズ隊が対レーザーシールドを展開、さらに自らも盾となり〈アルフェッカ〉を守る。1機が貫かれ機体が真っ二つとなり大破。


『パティッ⁉』

 コールサイン〝ピリザス〟の信号が消える。 


 フェリシティは敵重心の最も熱量が高い部分に照準を定め3連射、3発とも連続で同じ1点に命中させる。見事貫通させることに成功するが敵は依然として動いている。いた穴から動力源らしきものを確認することは出来なかった。


『どうやったら倒せるんだよっ⁉』

『どこかに動力源があるはずだ』

『何なんだあいつは……』

『どうやってそれを見つけるだよ‼』


 と、再び〈灰神楽はいかぐら〉が胴体中心部から岩漿マグマ砲を放つ。咄嗟そっさに〝ジェイソン〟機から命令が飛ぶ。

『散開っ!』


 その直後、圧縮され直線となった溶岩流が稲妻を纏いながら襲い来る。爆心地から数百メートル一帯は跡形もなく溶解、数キロメートル先まで熱線と稲妻が伝わり大きな被害をもたらす。


 フェリシティは間一髪のところで敵の砲撃をかわすが、退避した先に1体の星屑体せいせつたいが待ち構えていた。敵は〈アルフェッカ〉を捉えると雷撃を放つ。持っていたレーザーボーガンに当たり破壊されてしまう。


「きゃっ‼」


 敵が続けざまに圧縮砂塵弾を放つ。〈アルフェッカ〉はギリギリでかわし、プラズマ刃紋刀を抜き、襲い来る敵を横薙ぎで両断し撃破する。


〈レ・ディ・ネーミ〉の格納庫内で、戦闘の様子をモニター越しに見ていたH.E.R.I.Tヘリットのスタッフたち。


「多田倉、あの武器は?」

 マイヤーが多田倉に問う。

「レーザーボーガンは試作中のもので、ここには、1つしか持ってきません」

 

〈レ・ディ・ネーミ〉格納庫の片隅でその光景を見ていた櫂惺かいせい。ただ見ていることしかできない自分。格納庫に設置されたモニターを見つめ拳を強く握り締める。今までに感じたこともない、とても強い焦燥感に駆られる。


「自分が代わりになれたら……何でこんな時でさえ、まともに体が動かないんだ……」


(……自分にもっと力があれば)



 こうなれば敵の懐に飛び込み近接戦闘を仕掛けるしかない。クマル中佐がその状況を見て透かさず命令を発する。


「対DEW瀑煙弾ばくえんだん! 撃てっ!」


 後方の〈ドラグーン〉部隊がCRESクレス機たちのいる前線の上空にも瀑煙弾ばくえんだんを撃つ。空中で炸裂し白い煙とともに微細な結晶が滝のように空中から流れ落ち分厚い煙幕の壁を形成する。後方から瀑煙弾が絶え間なく撃ち出され一帯が煙幕に包まれ視界がほぼゼロとなる。


〝アタランタ〟機から〈アルフェッカ〉にSWG用サブマシンガンが手渡される。 


『〝ジェイソン〟より各員、灰神楽に格闘戦を仕掛ける』


『『『了解』』』


 ハンターズ隊の〈ヴェガ〉たちが飛び立つ。〈アルフェッカ〉もそれに続く。


 しかし、濃い霧が立ち込める中でも、敵の身体中から放たれる強力なレーザー光線に阻まれ容易に近づくことができない。 

瀑煙弾ばくえんだん絶やすな!」


 煙幕の滝が味方機を敵のレーザー光線から守る。しかし敵の砲撃ですぐに掻き消されてしまう。さらに〈灰神楽はいかぐら〉の表面を走る大電流の稲妻に近づくことが出来ず、近接格闘武器での攻撃ができない。


 ハンターズ隊が高周波振動ブレードを投擲して攻撃、しかし装甲に突き刺さることもなく雷撃に弾き飛ばされる。

『ダメだ通らない』

『なぜ敵はエネルギー切れを起こさないんだ⁉』

『あれだけのエネルギー、一体どこから供給されている⁉』


 各機、煙幕に隠れながら旋回し、敵の火力の手薄なところを狙って幾度も攻撃を試みるが、〈灰神楽はいかぐら〉の体中から全周囲に放たれるレーザーと超高圧の雷撃に阻まれ攻撃できない。


『どこから狙っても攻撃が通らない』


 ハリネズミのようにレーザー光線が放たれ続ける。


『こちら〝メリーガ〟、支援攻撃を求む!』

 レーザー光線で行く手を遮られた〝メリーガ〟機が被弾し機体の両足が溶断される。

『しまった⁉』

〝メリーガ〟機がバランスを失い落下していく。

『メーデー、メーデー、メーデー! こちら〝メリーガ〟、脱出できない……助け――』


 フェリシティが助けようと手を差し伸べたその時、一瞬の隙をつかれ〈アルフェッカ〉が被弾。コックピットの中にも、体を大きく揺さぶられるほど激しい衝撃が伝わる。


「きゃっ⁉」


 スラスターを損傷し高度を維持できず〈アルフェッカ〉も落下していく。


 地面に叩きつけられる前にもう一度スラスター噴射、さらに直前でスラスターをパージし、その反作用で落下速度を緩めるが地面に激しく叩きつけられ、コックピット内にも大きな衝撃が伝う。


「くうぅ……」

 フェリシティは墜落の衝撃で苦悶の表情を浮かべる。


 戦線を支えていた〈アルフェッカ〉が脱落し、他のCRESクレス機も次々に被弾し地上に落とされていく。


 濃い煙霧が立ち込める中、〈灰神楽はいかぐら〉が墜落したSWGに止めを刺すべく霧の上を悠然と獲物を探すように旋回、その後ゆっくり降下し、獲物をあさり始める。


『〝ジェイソン〟より各員、機体を捨て脱出しろ!』


『こちら〝アタランタ〟、ダメです! 脱出装置が作動しません!』


『今助けに行く! 待ってい――』

 ノイズ交じりの無線が唐突にブツンッと切れる。閃光のあと爆発とともに〝ジェイソン〟機の反応が消える。


『隊長っ⁉ おのれ…………〝リンセウス〟脱出する』

〝リンセウス〟は脱出装置を作動させコックピットごと機体から射出される。2kmほど離れたところに着地しコックピットから這い出す。無事脱出できたのも束の間、ナノマシンの活性化が解かれ近距離での伝導干渉波でんどうかんしょうはCRESクレスであっても耐えられず、その場に倒れこむ。


 脱出した時に捕捉され〈灰神楽はいかぐら〉の体に一つ赤い光が灯る。リー少尉は薄れゆく意識の中、必死に這って敵の攻撃から逃れようとするが、無情にもレーザー光が放たれる。煙幕の中でレーザーの威力は大幅に減衰されてはいても、生身の体ゆえ一瞬で消し炭にされてしまう。


『この距離で脱出しても、やられる……中尉! マースを連れて逃げろ! ここは俺が足止めする! 機体のまま這いずってでも逃げるんだ! 早くっ!』

 そう叫ぶ声と銃撃音の後、突然グシャッという金属やカーボン、セラミック素材が潰される不快な音が無線から響いてくる。そして、〝エキオン〟機の反応が消失。


『エミールッ!』


〝アタランタ〟機、アユン中尉は墜落し応答のない〝メリーガ〟機マース准尉に呼びかける。

『マース、無事? 応答して!』


 一切反応が返ってこない。墜落の衝撃で気を失っているのか、すでに絶命しているのか。


 再び爆発の光、その後に音が響き渡り〝アタランタ〟機の信号が消失する。 

 

***


 1機また1機と敵の餌食となっていく。

 閃光と爆発音が徐々に〈アルフェッカ〉へと近づいて来ている。


 放たれ続ける瀑煙弾ばくえんだんによる濃い煙霧のおかけで、遠距離からのレーザー攻撃は受けないで済んでいるとはいえ、各種センサーが役に立たず、フェリシティは敵の正確な位置がつかめないでいた。爆発と思われる閃光と爆音で敵のいる位置が推測される。


 濃い煙霧の中、巨大な影が徐々に近づき、ついにその姿を現す。〈アルフェッカ〉の前に見上げるほど巨大な物体が現れる。


〈アルフェッカ〉を捕捉し、じわじわと近づいてくる。


 フェリシティは、もうお終いだと目を瞑り大好きな両親の顔を浮かべる。


「お父さんお母さん……ごめんなさい……」


(やっぱり、何の感情もわかない……)


 絶体絶命の危機を前に、愛する両親の顔を思い浮かべてもやはり、恐怖や悲しみは湧いてこない。体内のナノマシンが活性化されているため、これほどまでの窮地に追い詰められても冷静でいられてしまう。フェリシティは目を開けたまま最後の時を覚悟する。


灰神楽はいかぐら〉の中央部が赤く光る。〈アルフェッカ〉に向けて岩漿マグマ砲が放たれようとした、まさにその時――。


 突然、黒い影が凄まじい勢いで敵に激突、400mもの巨体が体勢を崩し、放たれた敵の光芒が大きく逸れ、虚空を走る。


 フェリシティは一瞬何が起こったのかわからず前を見ると、〈灰神楽はいかぐら〉の巨体が大きく傾き、その前に一つの黒い物体が見えた。


 黒いSWGが突如として現れ、〈アルフェッカ〉を守るように空中に浮かぶ。


『フェリシティ‼ 無事⁉』


 突然入ってきた通信。よく聞き覚えのある、その声。


櫂惺かいせい……くん」


 フェリシティの乗る〈アルフェッカ〉を守り、敵の前に立ちはだかっている黒いSWG、その中にいたのは櫂惺かいせいであった。


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