第11話 あの空で舞っていた人
演習場へ向かうSWG輸送艦の中、皆が割り当てられた機体に搭乗していく。基地での訓練説明を受けていたときと打って変わって、皆、真剣な表情で自分の機体の発進準備に取り掛かっている。
『全機発進!』
演習場上空に達し、アーニス副隊長が号令を発すると、訓練生たちのSWGが順次発艦して行く。
訓練生たちが搭乗するSWG〈ドラグーン〉15機が、先頭に立つアーニス副隊長に率いられ、月のクレーターの中に広がる荒野に降り立つ。
そして、そこから1機のSWGが飛び立つ。
「あの機体⁉」
よく見覚えのある機体を見て
「彼女が、あのSWGのパイロットだったんだ……」
あの丘でずっと眺めていた淡い水色のSWGが、
その乗り手が極めて高い技能を有していたから、櫂惺にとってずっと憧れの存在となっていた。その反面、機体越しながら、かすかに哀愁と焦りのようなものが感じ取られ、どこか自分と共鳴するものを感じていた。
(あのパイロットがまさか自分と同じ
全機指定位置に着き、
訓練内容はドローンを「
先頭にフェリシティの搭乗する〈アルフェッカ〉、その地点からおよそ20km離れた位置に訓練生たちの〈ドラグーン〉が
『
(
そんな過酷な状況の中に一人でいるフェリシティを、
(
そして
〈アルフェッカ〉が〝敵〟ドローンの一群を捕捉、すぐに後方の〈ドラグーン〉たちにその位置情報が送られる。
〈アルフェッカ〉が接敵機動で先行し、〝敵〟と交戦に入る。一定の距離を保ちながら〈ドラグーン〉たちもそれに続く。
訓練生たちの〈ドラグーン〉たちが背部に格納されていた補助脚部を展開、4足となり砲撃態勢に入る。
〈アルフェッカ〉に当てないよう、精度の高い連携が要求される。
〈ドラグーン〉各機迅速かつ慎重に砲撃態勢に入る。
「誤射により
輸送艦艦橋から無線で、
〈アルフェッカ〉から送られてきた敵座標をもとに、〈ドラグーン〉各機は目標地点を計算、さらに手に持ったビーム砲を構えスコープで慎重に照準を合わせる。しかし3機ほどが手間取り、動きが遅れている。
『撃てっ!』と、数機が精確に狙いを合わせることが出来ないまま、アーニス副隊長から砲撃命令が
爆炎と閃光を放ち、砲弾と荷電粒子ビームが一斉に放たれる。
〈アルフェッカ〉が弾着地点から退避するとすぐに、ビーム砲が光の格子を形成し、敵に見立てたドローンたちをその場にくぎ付けにする。その数秒後放たれた砲弾が弾着。
しかし、数発の砲弾が大きく逸れ、その1発が〈アルフェッカ〉が退避した付近に着弾し炸裂。
煙が晴れ、水色のシルエットが浮かび上がる。どうやら〈アルフェッカ〉に損傷はないようだったが、実弾を使った訓練、双眼鏡で見ていた櫂惺はその光景を見てゾッとする。
(……自分なら、もっとうまくできる)
じっと見ていた櫂惺に焦りが込み上げてくる。訓練に参加できず、ただ見ていることしかできない。歯がゆくて、悔しくて、たまらない。
〈アルフェッカ〉が再び動く。〈ドラグーン〉たちも追従して次の予定ポイントへ向かう。
しかし皆、〈アルフェッカ〉についていくのがやっと、いやすでに遅れ始め、陣形も崩れてきている。
途中から〈アルフェッカ〉が、追従する〈ドラグーン〉たちの動き合わせているような単調な動きになっているのが、上から見るとよくわかった。
皆、日々厳しい訓練を積んできたが、それでもフェリシティの操縦する〈アルフェッカ〉の動きに全く対応できていない。
正面に断崖絶壁に囲まれた渓谷が現れると、その中へスピードを
そして、
〈アルフェッカ〉に遅れること数分、ようやく訓練生たちの〈ドラグーン〉がその場に到達。予定された訓練が開始される。
(もしこれが実戦だったら、味方が到着するまで……アルフェッカ1機で敵と戦ってたことになる)
「
装甲の厚い〈ドラグーン〉は流れ弾に当たっても大きく損傷することは無いが、装甲の薄い〈アルフェッカ〉はそうはいかない。
素早く動くドローンに翻弄され精確に照準を合わせられず、射撃を行う訓練生たちの〈ドラグーン〉。
それとは対照的に、ドローンの放つ演習弾と味方機の砲弾が飛び交う中を、巧みに掻い潜りながらドローンを撃墜していく〈アルフェッカ〉。サブマシンガンと高周波振動ブレードを使い分け、確実に敵を撃破していく。
すべてのドローンを撃墜したところで、訓練が終了。最も撃破数が多かったのがフェリシティの乗る〈アルフェッカ〉、次いでアーニス副隊長の〈ドラグーン〉、そして訓練生たちは皆、渓谷での戦闘において撃墜数ゼロという散々たる結果となった。
訓練が終了し、訓練生たちの〈ドラグーン〉が母艦へと帰艦する。全員が自機を駐機させ出迎えていた
と、格納庫内に怒号が飛ぶ。
「お前らー‼ 今まで何を学んできたっ‼」
皆その叱責も当然と、苦渋に満ちた表情。
訓練後のアフターレポートを終え、皆とぼとぼと歩いていく。参加もできずにいた
(みんな、だいぶ気落ちしているな。今の自分には、何と慰めの言葉をかけたらいいかわからない)
今まで気兼ねなく接してきた仲間たちと距離ができてしまったような気がした。居心地のよかったはずの空間が今は、いずらくて仕方がない。この場にいることがひどく場違いな気がして、自分の居場所がなくなってしまったような気さえする。
「ボクの撃った弾だ。取り返しのつかないことになってたかもしれない」
「まぁ……な。でもアーニス副隊長も言ってたやん。『全機の状況を把握せずに射撃命令を出した自分に責任がある』って、だから気にするなえ……とは言えんけど、頭切り替えていかな。結果大事にはならんかったわけやし。あとでみんなでヘザリーバーンのとこへ謝りに行こか」
「うん」
「カイちゃんも一緒に来てくれるよね?」
「え⁉ ああ、うん」
「それにしても、いや~かっこよかったな~! あの子」
暗い雰囲気を掃うように、アーティットが無理やり話を変える。それに他の隊員達も応える。
「ああ、すげーよっマジ半端ねぇ」
「あれが本物の
「機体も超カッコイイよ~」
「ああ、オレもあんな機体に乗りてぇ~」
「なっ、カイもそう思うだろ」
「ああ、うん」
「なんだよ、さっきから元気ないな。やっぱり調子悪いのか。いや~カッコ悪いところみせちゃったよな。カイがいたらみんなもっとうまくできてたんだけど。やっぱり一人でも欠けると調子狂うよな。早くカイ戻ってきてくれよ」
シェノルも気さくに声をかけてくる。他の仲間たちも皆、
「ああ! できるだけ早く直して必ず戻るよ」
どうやら大丈夫のようだ。自分が勝手にネガティブに考え込んでいただけで、距離を感じていたのは自分だけだったらしい。
***
(まぁ最初はこんなもんか)と、
あの
まだ17歳の少女だというのに、訓練を受けて1,2年の新兵の動きではない。SWGの操縦技術だけじゃない。戦場全体を把握しているような、彼女はいわゆるそういった〝慣れ〟というものもすでに体得している。シミュレーター訓練、実機訓練ともに相当な時間費やしてきたのだろう。
一方、訓練生たちは自分の操縦で精一杯で、周りが見えておらず、まともに連携が取れていなかった。
(あの子は一体、いつから訓練を受けているんだ)
「しかし、ここまで差が出るものか……」
一人、輸送艦の格納庫に残った
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