第09話 放送事故
♬闇ネット、闇ネット、闇のおぞまし屋本舗♬
暗い画面にMCが、頭を下げているようすが映し出された。
「本日はまず、お詫び申し上げます。予定しておりました《本音翻訳機》ですが完成間近の制作過程で宇宙何菓子というウイルスに感染され、不具合が生じ、商品化を一時、中断せざるを得なくなりました。大変申し訳御座いません」
改めて、MCは頭を下げ、番組は終了した、はずだった。
場面はコールセンターへ移される。
プルルルル、プルル、プルルルル…コール音とランプの点滅が騒がしかった。
「商品開発部長、コールセンターが大変なことに」
「あああああ、苦情、苦情、九条さ~ん」
「九条さんって誰ですか?」
「気にするな」
「はいはい、でも、この状態を見て下さい」
「放送を中断したお叱りか?」
「いえ、見て下さい。電話の内容を文字に起こしたものです」
おぞまし屋本舗では、販売する商品が商品だけに社内では名前を特別な時以外、呼び合わない習慣が付いていた。部署ごとの序列はあるが、部署内では、柔軟な発想を妨げない理由から上下関係などはなかった。
商品開発部長は、驚いた。電話の内容は、期待していた、未完成でも出せ、彼氏の本音疑わしく原因が分かると期待していたのに、…などなど。
苦情というより応援・期待の電話だった。視聴者からの苦情殺到を恐れて連絡先を知らせていなかったが、ホームページ、過去の番組での連絡先を覚えていて、連絡してきていたものだった。じたばたしているとそこへ鬼の経理部長が入ってきた。
「商品開発部長、開発費を無駄にしてないよね」
「あっ、はい、いや…その~」
「まぁ、いい。損害はきっちり補填して貰うから。ああ、返せなかったら私への年賀状はいらないから。斬首した者から受け取るのは迷惑以外何者でもないからね」
容赦ない経理部長が去った後、暖房された部屋は、開発部長にとって冷凍室になった。
「嗚呼ああああ…」
「部長、どうするんですか?」
「クリスマスディナーでしょ、年末年始の家族との温泉旅行でしょ、まだまだ残る住宅ローンでしょ…嗚呼・ああああ…」
「部長!男でしょ、ここはやるしかないでしょ」
「やるって?」
「売っちゃえばいいじゃないですか、未完成品を」
「そんなこと出来るか」
「じゃ、部長とは新年を迎える前に他人も他人、犯罪人として記憶に残るだけ~」
「き・君ね~、嗚呼・うううう~」
「さぁさぁさぁ、どうする部長!」
「売りま~す、売って、損失補填に役立てます」
「それで、宜しい」
♬闇ネット、闇ネット、闇のおぞまし屋本舗♬
「今回は、臨時放送です。開発途中ですが前回放送後、視聴者様から多大な期待を頂き、本音翻訳機を《暴走翻訳機》として見切り販売させて頂きます。ただ、翻訳が暴走しすぎて一切責任を負えません。返金・返品・クレームも一切受け付けられません。全て自己責任でお願い致します。諸事情により、いつもと受け付け方法も変更させて頂きます。まず、ご連絡頂きましたら、同意書をお届けさせて頂きます。御署名・捺印されたことが確認され次第、商品を代金引換でお届けします。限定数は、200台。価格は手を出しにくい五万円。不在で返送された場合は、他者へと権利が移る事を予めご了承ください。では、今回の翻訳機がどれほどの暴走かをご理解いただくために、実証実験を行わさせて頂きます。視聴者様に負担を負わせるわけには参りません。そこで、如何にその被害が甚大かを知っていただくために弊社が身をもって体験したいと思います。まず、あるVTRを流させて頂き、生放送で翻訳機を起動します。本音と謳うからには、手を加えられない生放送で実施させて頂きます。注意して頂きたいのは暴走原因が、感染ウイルスのせいなのか人工頭脳を手に入れたせいなのか、不明の翻訳内容だと言う事です。聞くに堪えない内容でしょうが、クリスマスの面白グッズとしてお楽しみ頂ければ幸いです。それでは、実証実験スタート」
画面にはある異世界都市?のニュース番組が流れた。
「武蔵野市の変顔コンテストで殿堂入りされた忽滑谷(ぬめり)市長のもとにお伺いし、労働者不足の件について聞きました」
画面に、暴走翻訳機がアップで映し出された。翻訳機には、直訳・本音・本音凶の三段階があり、同時翻訳と、まとめて翻訳があった。その本音凶と、まとめて翻訳のボタンが人差し指で押され、赤いランプが点灯した。
「武蔵野市では、国際化、多様化を考え、外国人労働者受け入れを推進します。受け入れる労働者の権利を向上させるために、就労三か月で立案権・議員選出の権利を与え、一緒にこの武蔵野市を盛り上げていきたいという趣旨の条例案を近日中には通す運びです」
画面に暴走翻訳機が映され、ストップが押され、翻訳開始ボタンが押されると赤く点滅し、暫くして緑となった。翻訳を聞く(直ぐ・後で)の選択が点滅。直ぐ、が選択された。
「あははははは。労働不足?そんなの関係ない。糞に集る蠅を呼び寄せ、そのすべてを国家転覆を目指す我が党である立憲強酸党の支持者にするまでよ。(おいこれ…)糞に群がる蠅は、あちらこちらで交尾し蛆虫を量産する。蛆虫もやがて蠅になる。そうやって蠅を増やして気取った武蔵野市民を住みづらくし追い出し、支配すればこの市は我が党のもの。外国人住民投票権を持ったね。糞なら我が党が幾らでも用意し(切れ、切れ…)てやる。蠅を集める為には如何なる手段も選ばない。メディアは我らと同胞だ。いづれは日本国籍を与え、国会も牛耳る。(馬鹿、馬鹿、…)すでに、北海道は売国奴、沖縄では琉球国独立という隷属化に成功し、いずれは中酷の基地化し今以上に危険な区域になる。(嗚呼ああああ…)すでに神奈川・逗子市、大阪・豊中市は、日本侵略法の導入に成功し、仲間の市が増えるのを待っている状態だ。それを動かすのは誰だ、この私だ。見ていろ、外国人参政権を導入させ、日本を滅ぼした立役者として、歴史に私の名を残させてやる、ガハハハッ(放送事故覚悟で全て切れ~、会社が…俺が潰れる…)」
ブン。
「何故、中断できなかった」
「翻訳機のウイルスがジャックしたみたいで…」
「だから嫌だったんだ~、どうなるんだ俺?」
「首でしょうね」
「やっぱり、明美ちゃんとのデートもおジャンになってしまうよ~」
「明美ちゃんって、誰ですか?」
「そ、そんなのどうでもいいだろう」
「はい、部長、いや、ただの人、お疲れさまでした」
「それを今、言うかぁ~」
「今でしょ」
「はぁ~」
絶望の中、放心状態の開発部長だった。そこへ、薬品開発部長とその配下がやってきた。
「大変ですねぇ」
「どうしよう、動悸が治まらない」
「じゃ、これどうぞ」
「うん?」
「精神安定剤です」
「そうか、貰うよ」
「どうぞ、どうぞ」
商品開発部長は、薬品開発部長から薬を受け取ると、すかさず薬品課の部下がミネラルウォーターを差し出した。商品開発部長が錠剤を服用するのを確認すると、薬品開発部長と部下はいつの間にか消えていた。
「部長、あの薬、例のやつですよね」
「ああ、そうだ」
「どうして、商品開発部長に?」
「明美ちゃんを俺から奪おうとしたからだよ」
「明美ちゃんって?」
「受付の、派遣の明美ちゃんだよ」
「ああ、あのキュートな子」
「商品開発部長が俺より先にデートの約束をしやがったんだ、それが許せなくてね」
「えええっ、それであの薬を」
「そうだ。これであいつはデートをすっぽかし、明美ちゃんをがっかりさせる。そこに救世主のように俺が救いの手を差し伸べるのさ」
「卑怯~」
「何とでも言え。勝てば官軍だ。そうだ、薬の効き目をチェックするため、商品開発部長に気づかれず張り付いてデータを取るように」
「はい、詳細に、ですね」
何も知らない商品開発部長は、自分の将来に落胆し、頭を抱え、落ち込んでいた。そこへ、鬼の経理部長が巨漢を躍らせながら商品開発部長のもとに駆け寄ってきた。
「商品開発部長、よくやった。うん、君ならやると思っていたよ」
「ええええっ」
「コールセンターに行ってみろ」
コールセンターは、てんてこ舞いの状態であり、昔の証券取引所のように製造台数の奪い合いが終わった後だった。
「商品開発部長、暴走翻訳機、見事、二分で完売です。後は、不在で買えってぃた商品の補欠受け取りのやりくりです」
「そ、そうか…」
「今回も案内番号流せませんでしたね」
「ああ」
「部長、一生ついていきます」
「お前なぁ~、まぁ、いいか」
「それにしてもあの翻訳機、何であんなに露骨な表現になったんですか?」
「より、本音の翻訳にするために対象者の人格・性格・趣味趣向をインプットさせたんだ」
「でも、あれは…。もしかしてその作業をあいつにさせたんですか?」
「ああ、小さなことが気になる神経質なあいつにね」
「だから、あんなも的確で詳細な内容になったんですね」
「詳細かどうかは知らないが、本音には間違いない。性能だけは折り紙付きだからな」
「では口調が男のような」
「顔認証をオプションに付けて機動させたら、男だって判断したみたいだ」
「そこは改良の余地がありますね」
「いいんじゃないか、それも面白じゃないか」
「でもあの翻訳、何か、新たな問題を掘り起こしたような…」
「気にするな。暴走、暴走だからな」
「確かに放送事故ですからね」
「そうだ」
「あははははは」
おぞまし屋本舗のドタバタした日常が今日も無事に終わった。
それから数日たって、新・薬品が販売されることになる。その試薬は、商品開発部長が治験者とされていたことは、本人には全く知らされていなかった。
次回は、《来週》発売の新商品のご紹介です、こうご期待。
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