第5話 堅物な生徒会長と
前話が甘さ控えめだったので、ちょっとだけ糖分補給に追加投稿です。
―――
汗だく部活少女とヒミツの関係になってみても、まだまだ私の欲は尽きないらしい。
せっかく誰でも買えてしまうというとてつもない代物を手にしたからには、絶対に手の届かないはずの人間を買ってみたいところだった。
そんなわけで目をつけたのは、生徒たちの代表、生徒会長だ。
これまでのテストで学年一位を逃したことがなく、薙刀部の主将としてバリバリ活躍する文武両道の傑物。
かの陸上モンスターと並ぶ有名人だけど、彼女とは違って驚くほど愛想がない。
いつも表情ひとつ変えないで、誰に対しても等しく興味が感じられない冷ややかな態度らしい。
それと裏腹に薙刀の大会なんかでは気迫に満ちた戦いぶりを披露するようで、そんなところがたまらないとファンが語っていた。
生徒会室で仕事に励む彼女を、先生が呼んでいたという嘘で連れ出した。
人気のない場所についたとたん、彼女の方から鋭い詰問が放たれる。
「それで、どういった御用でしょうか」
ふりむけば、刃を首に添えられるのを幻覚するほどの冷ややかな視線。
どうやら嘘だとバレているらしい。
ある意味話は早いので、彼女にリルカを差し出した。
ぐぐ、と眉間にしわを寄せる生徒会長。
これもレア顔ではあるんだろう。たぶん。全然うれしくない。
というか、これ、視線どころか気温が氷点下まで下がっているに違いない。鳥肌が立って震えてきたんだけど。
冗談だと言って取り下げたくなるほどの沈黙を挟み、彼女は口を開いた。
「ここで待っていてください」
無感情にそう言った彼女は、踵を返してすたすたと去って行った。
待っていろと言われたからには待った方がいいだろうと素直に待っていると、やがて彼女はその手にスマホとどこかの鍵を持って戻ってくる。
「このような場所でお相手をしたくはありません。こちらへ」
冷ややかに告げる彼女についていけば、目的地は校舎の隅の資料室だった。
彼女は当然のようにそこの鍵を開け、私を中に連れ込んだ。
埃だらけの倉庫のような場所だ。窓さえホワイトボードで遮られて薄暗い。
彼女は電気もつけず入り込むと、くるりと振り向きスマホを差し出してくる。
びぴ、と彼女を購入すれば、その場に正座してしまった。
それから目を閉じる彼女の姿はまるで人形のようで、たじろいでいると彼女は言った。
「30分間、どうぞご随意に。ただしあいにくですが
びっくりするほど凛々しいマグロ宣言だった。
なるほど堅物生徒会長は伊達ではない。
それならと、お言葉に甘えることにした。
彼女の背中側に回って、カバンからおもちゃを取り出す。
スイッチを入れればぶぶぶと振動しだすそれにも、彼女は反応を示さない。
彼女が反応するところを見てみたくなって、私は電動のマッサージ器を彼女の肩に当てた。
ぶるるるるるる。
と彼女の肩をほぐしてみる。
とくに反応なし。
まあ現実はそんなものかと、たまに左右を入れ替えたりしてしばらくぶぶぶ。
「あの、」
していると、戸惑ったような声が上がる。
ちらりと肩ごしに振り向く彼女は眉根をひそめて怪訝な顔をしていた。
これもレア顔だろう。ちょっとうれしい。
「
「なにって、マッサージ」
「なぜですか」
「肩凝ってそうだなって」
文武両道の生徒会長なんて明らかに肩が凝りそうだし、ついでに胸も大きい。
姉さんより背が低いのに、サイズは多分姉さんくらいありそう。姉さんも肩が凝るってよくグチをこぼしてるから、きっと彼女の肩もがちがちだろう。
だから、こうして肩を按摩している。
もし評判がよかったら姉さんにもしてあげようかな、とか、リラックスしたらどんな表情になるのかなっていう邪な気持ちはちょっとあるけど、ほかに理由は特にない。
そんな私の答えはどう受け取られたんだろう。
彼女は納得いかない様子でまた前を向き、私はマッサージを続けた。
こうして実際にやってみると分かるけど、これ、けっこう手に振動がきて大変だ。
たまに持ち替えたりして手を休ませないと辛い。あんまり続けていると、はくろう病になるかもしれないし。
あの手この手で負担のないマッサージ法を模索していると、また彼女が振り向いた。
怪訝というよりは戸惑いが強いようすで、視線も動揺している。
「あの、本当に、マッサージをするだけなのですか?」
「本当にマッサージするだけのつもりだけど。あ、一応ほかにも持ってきてるよ?」
いったんマッサージ器を置いて、カバンから色々取り出しては彼女に見せる。
アロマキャンドルにアロマオイル、アロマディフューザーとかのアロマ系。
首温めるやつとかぐりぐりするボールとか電気でほぐすやつとかの肩凝り系。
ホットアイマスクとかしゃっきりする目薬とかアントシアニンみたいな目疲れ系。
容量の問題でそこまで沢山は持ってこれなかったけど、30分の中だと思えばけっこう色々できそうだ。というかホットアイマスクなんてずっとつけておけばよかった。アントシアニンのカプセルなんかは今からでも遅くないかもしれない。
試してみる?と差し出せば、彼女の頬がぴくっと弾んだ。
おや、と思って試しにアイマスクを自分の目に当てて見せると、ぷひょっ、と面白い音が聞こえる。
「ひゅっ、ふっ、ひきっ、ひゅふっ」
アイマスクを外すと、彼女は顔を引きつらせながら死に際の鶏みたいになっていた。
たぶん、笑っている。めちゃくちゃ気持ち悪いけど、多分これは笑っている。
今日一番のレア顔だ。
超かわいい。なんだこの人。
見惚れていると、やがてなんとか笑いの収まった彼女は、こほんとひとつ咳払いをして前を向く。
「あなたがなんのつもりかは分かりませんが、残りはあと10分ほどです。お忘れなきよう」
「めちゃくちゃかわいいね」
ささやいてみれば、やっぱり身じろぎのひとつもない。
けど、とても分かりやすく耳まで真っ赤になっていた。
「、っ」
気をよくしてマッサージ器リベンジをすると、彼女は触れたとたんにちょっとだけ声を漏もらした。
どうやらよくよくほぐれたらしい。
ぴくぴく震えながらも声を我慢するせいで、「んっ」とか「ふ、ぅ」とかちょっとなまめかしい。
折角ならボイスレコーダーでも持ってこればよかったなと思いつつ、しっかりと楽しませてもらう。
どうやら首筋に沿うくらいの位置が一番イイみたいで、いっしょにもみもみしてあげると手をぎゅっと握って荒く浅い呼吸になった。
「ここ、気持ちい?」
後ろから囁くと、彼女は震えでごまかすみたいにしながらこくりと頷く。
ずいぶん素直になってしまった……ああいや、それとも、そもそも素直ではあったのかな。
かわいい。
いい気になって、場所を変えるたびになんども彼女に感想をたずねてしまう。
そのたびに彼女は頷いたり、首を傾げたり、答えられないくらいに身を固めたりとかわいい反応を見せてくれる。
いろいろと凝り固まっているせいか、むしろ普通より敏感なんじゃないだろうかこの人。
いっそ責め立てるくらいの気持ちでマッサージ器を当て続けているうちに、30分なんてあっという間に終わってしまう。
彼女は時間になった途端に立ち上がると壁に張りついた。
「早く出ていってください。私は鍵をかけなければいけませんので」
強引に顔を見たいという欲求はあったけど、いまはやめておくことにする。
代わりに声をかけた。
「次は色々試そうね」
「……」
この沈黙は、さて肯定なのか否定なのか。
マッサージという理由のない彼女は頷いてくれない。
まあでも、たぶん考えるまでもないかな。
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