第四話 エルレイと魔法 その三
翌日から、本格的に魔法の訓練をしていく事となった。
とは言え、午前中の剣の訓練と午後の勉強の時間が無くなった訳では無いので、それを真面目に行ってからだ。
今日はちゃんとヘレネに一声かけて、裏庭の訓練場にやって来た。
昨日のように、心配をかける訳にはいかないからな。
でも、黙って出て来ればよかったと思わないでもない…。
何故なら、家族と使用人全員が、俺が魔法を使う所を見に来たからだ…。
注目されるのは勇者時代に慣れているから大丈夫!とはいかず、かなり恥ずかしいし、緊張する…。
「エルレイ、凄い魔法見せてくれ!」
「エルレイ、頑張って!」
「エルレイ坊ちゃま、頑張って下さい!」
皆からの応援もあり、ここで失敗すると良い笑いものになるな…。
よし!今は呪文を唱える事に集中しよう!
ふとそこで、重大なミスに気が付いた。
初級魔法書を持って来ていなかった。
昨日の今日で、呪文を完全に覚えているはずもない…。
かと言って、今から取りに行くから待っていてくれ、と言えるような雰囲気でも無いよな…。
何とかして、思い出すしかない。
取り合えず、危険の少ない水を作り出す魔法からだ。
俺の足元には、洗濯に使う大きな木の桶が置いてあって、ズボンが泥だらけになるような事にはならないはずだ。
「では、この桶に水を出します」
皆に宣言してから、両手を桶の方に突き出し、呪文を唱えた。
「大地に注ぐ恵みの水よ、我が魔力を糧に水球を出せ、クリエイトウォーター」
昨日と同じように、俺の中から魔力が出て行く感覚の後、昨日と同じ大きさの水球が作り出されて、ポチャンと言う音と共に、木の桶に吸い込まれるように落ちて行った。
呪文に自信は無かったが、何とか魔法が発動して良かった。
これで、皆から笑われる事は無いだろう。
「エルレイ、見事だ!」
父が褒めた後、皆からも拍手と祝福を貰った。
「ありがとうございます」
俺は皆の方に向き直り、頭を下げた。
「流石、私の可愛いエルレイ!」
アルティナ姉さんが駆け寄って来て、そのままの勢いで俺を抱きしめて来た。
そこからは、二人の兄も近寄って来て、頭を力一杯撫でまわされる事となった…。
「さぁ、皆仕事に戻るぞ。エルレイは魔法の訓練をしっかりと続けるのだぞ!」
「はい!」
皆は、それぞれの仕事に戻って行き、俺も一度書斎に戻って、初級魔法書手に取って裏庭に戻って来た。
しかし、一人では無い。
父が俺に何かあってはいけないと、ヘレネを子守りとして付けてくれた。
あまり見られているのは恥ずかしいのだが、父から命令を受けたヘレネを追い返す訳にはいかない。
しかし、ずっと付き合わせるのも悪いよな。
「ヘレネ、魔法は危険だから、あの椅子の所で座って見ていてくれないか?」
「承知しました」
ヘレネは、素直に訓練所の端にある椅子に座ってくれた。
あの場所なら直射日光も当たらないし、ヘレネが倒れる様な事にはならないだろう。
これで、魔法に集中する事が出来るな。
俺は初級魔法書を開き、クリエイトウォーターの呪文を確認した…。
大地を潤す恵みの水よ、我が魔力を糧として水球を作り出し給え、クリエイトウォーター。
やっぱり、さっき唱えたのとかなり違うな…。
呪文の文言は、大して関係無かったりするのか?
試して見るか。
「クリエイトウォーター」
…。
何も起こらなかった。
今のは流石に省略し過ぎたな…。
ヘレネが、首を傾げながら俺の事を見ている。
その仕草はすごく可愛いが、魔法が出なかった状況はとても恥ずかしい…。
しかし、恥ずかしくても、色々試して見ないといけない。
「恵みの水よ、我が魔力を糧とし、クリエイトウォーター」
なるほど、今度も水は出なかったが、魔力が出て行く感覚はあった。
恐らく、「水球を作り出し賜え」の所で、魔力が実際に水球に変換されるのだな。
次は、一番最初の一文を省略して唱えて見たが、魔力が出て行く感覚はあったのだが、水球は作られなかった。
大地を潤す恵みの水よ、の所で属性を決めて。
我が魔力を糧として、の所で魔力を出して。
水球を作り出し賜え、の所で水球に変換されている、って感じだろうか?
魔力の動きに注意しながら、正しい呪文を使って魔法を唱えた。
思った通りだな。
魔力の動きを感じていた限りでは、最後のクリエイトウォーターは関係無い様だな。
周囲の人に、どんな魔法を使用するのか知らせるための言葉なのだろうと思う。
パチパチパチ。
魔法が成功した事で、ヘレネが拍手を送ってくれている。
その事は嬉しいけれど、何度も失敗を見せた後では、やっぱり恥ずかしいな…。
少し羞恥で火照った顔を伏せながら、ヘレネに軽く手を振って答えて、魔法の訓練を続る事にした。
…。
今日の結果としては、呪文の構造の把握が分かった所で魔力切れとなり、ヘレネに支えられながら部屋へと戻って行った。
翌日も同じ様に、ヘレネに見守られながら、魔法の訓練を開始した。
今日は、呪文を使わずに、水を出せるかの実験だ。
昨日の段階で、魔力の流れは大まかにつかんでいる。
後は、それと同じように自分の中から魔力を出して、その魔力を水球に変換する作業だ。
ヘレネの視線が気になるが、集中してやらなくてはならない。
木の桶の前に立ち、目を瞑って自分の中にある魔力に意識を集中させる。
自分の体の中に、かすかな温かみと共に揺らめいている魔力を感じ取る。
まずは水属性魔法を使う準備として、水を頭の中にイメージをする。
次に両手を突き出し、手を通じて魔力を外に送り出し、その魔力を水球に変わるようにイメージする…。
ポチャン。
水が桶の中に落ちる音を聞き、目を開けて見ると、呪文を唱えた時と同じように水が溜まっていた!
「やった、成功した!」
「エルレイ坊ちゃま、おめでとうございます」
「ヘレネ、ありがとう」
俺は嬉しくて、声を出して喜んでしまい、ヘレネから褒められてしまった。
「しかし、今呪文を唱えていなかったように見えましたけれど?」
「うん、呪文を唱えずに魔法が使えるか試して見たんだ。
上手く行って良かったよ!」
「そんな事も出来るのですね。流石エルレイ坊ちゃまです!」
ヘレネは、可愛い笑顔で微笑みながら、俺と一緒に魔法が上手く出来た事を喜んでくれた。
本当に、俺の彼女にしたいくらいだが、六歳の子供では相手にされない事は目に見えている。
十年後に、ヘレネがまだ独身だったのなら、その時結婚を考える事にしよう。
ソートマス王国では、一夫多妻制が認められている。
夢はハーレム!とまでは行かなくても、二人くらいは妻を持っても良いよな?
その為には、魔法を極めて、家族を養える様にならなくてはならない!
俺は、明るい
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