第15話 デート?
今日は、レティシアの用事と、薬師のお店に行くため、お忍びで城下街にやってきていた。レティシアに貰った、シリウスの髪と同じ色のシルバーパールの髪飾りを付け、城下街で浮かないくらいの軽装だが、リーディアに似合う服装できている。
いつも、お忍びで来る時と違うのは、貰った髪留めを使用するために変えた、髪型くらいだろう。お忍びだというのに、侍女が髪型だけはと、頑張られた。
しかし、今はそれが仇になったのか、絶賛困り中である。
先程から、2人の男性に足止めをくらっている。これがいわゆるナンパと言うやつなんだろう。今までに経験はない。
リーディアはどうかわしていいのか、わからなかった。かわるがわる容姿や髪型やら褒めて、一緒にお茶をしにいこうと誘ってくる。ナンパがこんなにしつこいとは思わなかった。
「あの、何度も言っているように、いかなければならないところがあるので、そろそろ失礼したいのですが」
「だから、俺たちもその用事に付き合うよ。その後で一緒にお茶でもしよう」
やはり下町では口が達者になるのだろう。なかなか彼らは引き下がってはくれない。
彼らは、リーディアが拒否しているが、お構いなしに、遂に手首を掴んできた。
「手を離して下さい、困ります。今すぐ離さなければ」
リーディアが彼らの強引な誘いに、そろそろ強硬手段に出ることにしようとした。
馬の蹄の音が近くでとまった音が聞こえる。馬車が止まったようだ。
「ディア!」
リーディアは馬車に背を向けていたが、その声に振り返った。
馬車から降りてきたのは、ローブ姿ではないシリウスだった。リーディアはいつもの姿とは違う彼に見惚れてしまう。
「お前たち、その手を今すぐ離してもらおうか」
シリウスが冷たい目を彼らにむけ、睨んでいる。しかも、魔力が漏れ冷気が漂う。彼らは身震いし、リーディアの手を離して一目散に去って行った。
リーディアがやっと解放されて、ほっとしたのが束の間。
「大丈夫だったか。手首は赤くなってはいないな。こんなところで何をしている。わざわざ、ナンパでもされにきたのか。供の者はどうした。」
シリウスがリーディアの手をにぎり、手首を確認してきた。そして、捲し立てるように質問してくる。
「えっと、ちょっと用事がありまして、今日は一人で」
リーディアはシリウスの行動に戸惑う。
「令嬢が1人で出歩くな。何かあったらどうする気だ。送って行くから乗りなさい」
「あの、申し訳ありませんが、まだ目的を果たしていないので、申し出はありがたいのですが」
リーディアは何とか、シリウスの申し出を断ろうとする。
「君は今しがた、男たちにからまれていたばかりだろう。また同じ事になったらどうする気だ。君には、危機感というものがないのか」
シリウスはなかなか、引かない。
「大丈夫です。模擬戦をご覧になられたように、私は戦えますから、ご心配には及びません」
リーディアも引かない。
「しかし、剣など持っていないではないか」
シリウスは腕を組み、リーディアの全身を見下ろした。
「短剣なら持っていますよ」
リーディアはスカートをめくって、足に備え付けてあるダガーをみせた。
「ばッッ、こんなところでめくるな!」
シリウスは焦り、直ぐにリーディアの足を隠した。
「こんなところでなければいいのですか?」
リーディアはシリウスにはすでにみられたことがあるし、シリウスなら見られても問題は無いと思っている。
「そういう問題ではない。女性が足を簡単に見せるな」
シリウスは少し赤くなり、怒っている。リーディアはシリウスを可愛らしいと思った。自分の行動一つで、シリウスが狼狽えるだけで勘違いしてしまう。とても、愛しくて同時に悪戯心が芽生えた。
「シリウス様には、すでに足以外も、しっかりと見られていると思うので、気にしませんよ?」
リーディアは少し、すでに見られているという所を強調した。
「あれはッッ、不可抗力であって、見ようと思ってみたのではない!」
シリウスはさらに赤くなっている。
「そうでしたか?ふふッ、ずいぶん長い時間見られていたと思うのですが」
リーディアはシリウスの焦る様子が可愛らしくて、笑ってしまった。
「そうか、君はどうやら私を怒らせたいようだな」
シリウスは一呼吸するとリーディアに近づいた。そして、手をとり、引き寄せた。ダンスの時のように。
「私を怒らせた責任は、もちろんとって貰わないといけないな。君に私の用事に付き合ってもらう事にしよう。そのついでに君の用事にも付き合おう。私のエスコートを断る事は許さないよ」
シリウスは、リーディアの手の甲に口付けて不敵な笑みを浮かべた。
今度はリーディアが赤くなる番だった。リーディアが好きなシリウスの不敵な笑みは、効果抜群で頷くしかできなかった。
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