第十九の論争 まだ中学時代
今と比べてやはりどこか雰囲気の違う二人が彼女の父を連れ回転ずしで食事をとっていた。
現在の彼女と比べても胸がなく、現在の彼と比べても頭がおかしくない。
「おっさーんとりあえず生行こうぜ生!」
「帰りの運転ができなくなるよー…今回はだめだねー」
「それに…まだ生はだめでしょー」
「はぁ…」
彼が眉間にしわを寄せため息をつく。
彼の向かいに座っていた彼女が何のことかわかっていないような表情で彼たちを見る。
「二人とも…大丈夫?確か来週高校受験でしょ?」
「まー…大丈夫だろう…なるようになるし、ならないようにしかならない…」
「私やっぱり最初は鯛にしようかなー」
「話聞かない人大会があったらオメーは出場しようとしたら審査員席に回されるぞ」
彼女が話をガン無視して注文のタッチパネルを押し、手が空いて暇になったのか。
カウンターに備え付けられた湯出しボタンに手を伸ばた。彼はゆっくり手をあわせながら動く彼女に何かを察したようで、彼女の手を守るように手のひらを広げた。
彼としてもとっさのことでほかにどうしようもなかったのだろう彼女はそのままボタンを押すと彼の手に熱湯が降りかかった。
「ぎゃああぁぁぁああ!!!!!」
「!?なに?どうしたの?」
彼女の父の顔色が変わる、彼女の顔に出やすいところは父似なのだろう。
「オメー…手を…洗おうとしたんだな…?」
「う…うん…もしかしてこれって…」
「そうだよ…これは湯を出して茶を入れるやつだ…」
「大丈夫か!見せてみろ!」
「おっさん…俺はなんともねえさ…んなことよりも…オメーはかかってないか?」
彼は心配して駆け寄った彼女の父を押しのけ彼女を心配した。
「う…うん…私は…なんともない…けど君は…」
「気にすんなって…見たほどつらくねえからさ…」
そう強がった彼の眼はどこか潤っていた。
「とりあえず水で冷やそう!」
彼は彼女の父に連れられトイレへと駆け込んだ。
一人取り残された彼女は一人悶々と考えが巡る。
(・・・・・・・)
彼たちが返ってくるとそうやらそこまで重いやけどではないらしく、そのまま食事を済ませたが彼女はどうも動悸に見舞われ食事どころではなかった。
見飽きるほどに見ていた彼の顔が直視できない。
直視するとなぜか脈拍が早くなり胸が苦しくなる。
罪悪感であろうか。
彼はトイレで冷水に手を浸しているときに彼女の父がいろいろと彼の手をみた。
「うーん…赤くはなっているけど…そこまで重くはないかなー」
「でもしばらくは痛いかもねー…この後に病院に連れて行こう、一度かえって保険証を取らなきゃねー」
「あ、ああ…ありがとう…」
「それはこっちのセリフだよー…」
現在よりも背の小さな彼の目線に合わせるように軽くかがむ。
「あいつを…娘を守ってくれてありがとう…」
彼も目をみてそんなことをいわれると照れるのか目をそらしいつもの彼にもどった。
「そんな…大したことはしてねえ…よ…」
「ふふふ…これからも…あの子のこと頼んだよ…君になら…任せられるからね…」
「ああそうかい、過大評価だぜ?」
「それでもいいさ…」
帰りみちと店内で彼女は無言のまま下を向いて彼にくっついていた。
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