ロマンスの神様に質問を

「東急ハンズ、でしたね」

 和藤さんの言葉に、僕は少し違和感を覚えた。

「優莉姉さんのことだからロフトとか……」

 と、優莉姉さんと和藤さんが同時に言う。

「ロフトは陽キャの巣窟でしょ」

「便利グッズも満足に置いてない店に用はありませんよ」

「……マジか」

 僕はまだ知らない世界があることを痛感した。

「さて、駅に着きましたよ」

 僕たちは津駅から電車に乗り、一路名古屋を目指した。名古屋に向かう電車の中は年末ならではといった感じで混み合っている。僕たちはなんとか席に座ることができた。優莉姉さんは和藤さんの隣に座り、僕はその向かい側に座る。僕は名古屋に向かう間、ずっとスマホでゲームをするつもりだった。優莉姉さんがスマホの画面を隠しつつ、チャットで僕に話しかけてくるまでは。

「ねえ、英二」

「なに」

「和藤くんのこと、どう思う?」

「ロマンスの神様に聞いてみたら」

「なに言ってんの」

「冗談だよ」

「和藤くんはなかなか面白いんだよ。それに私が持ってないものを持ってるし、私が持ってるものを持ってない。それに頭も良い。二人でいたらどんなことだってできそう」

「惚気るぐらいなら告白したら?」

「つまり和藤くんは英二から見ても信用に足るってこと?」

「まあそうだね」

 それきり優莉姉さんはメッセージを送ってこなかった。僕はスマホでゲームアプリを起動したが、その直後に和藤さんからチャットが送られてきた。

「優莉先輩に教えてもらったんですが、英二さんで合っていますか?」

「はい」

 僕は動き始めたゲームアプリを指で追い払い、チャットに戻った。

「実は私、優莉先輩と仲良くする方法がわからなくて」

「十分仲はいいと思いますけど」

「そういうことを言っているんじゃないんです」

「どういうことですか?」

「優莉先輩はとても凄いんです。先輩に比べれば私なんてゴミです。私はいつも、先輩にどうにかして追いつきたいと思ってしまうんです」

「優莉姉さんのとなりでそんなこと打ってて大丈夫なんですか?」

「優莉先輩は寝てます」

 優莉姉さんの方を見ると、優莉姉さんはぐっすり眠っている。僕は「追いつきたい」と言っているメッセージに対して返信した。

「優莉姉さんって普通にズボラですよ?」

「でも小説は凄いんです。文芸部の後輩として言わせていただくと、天才です」

「で、どうして追いつきたいと思うんですか?」

「私が優莉先輩の隣に立ちたいからです」

 両片思いじゃないか。そう思って、僕は和藤さんに返信する。

「多分和藤さんが言えば今すぐにでも優莉姉さんは隣に立つことを許してくれると思いますよ」

「そうでしょうか」

「優莉姉さんは和藤さんの面白さや持っている能力の高さを認めてます。僕は聞きましたよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 和藤さんがそう送ったとき、電車はヘリポートがビルの屋上とずれた位置にあるビルを窓の向こうに捉えた。

「まもなく終点、名古屋に到着します。お忘れ物のないようにご注意ください」

 車掌の声とともに、電車は名古屋駅の地下につながるトンネルへと進入した。

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