箱災の章

第1話 所為

 葉が紅く、秋を知らせるころ。


関が亡くなってから、五ヵ月がたった。


学校の皆はだんだんと、関がいない事に、抵抗がなくなってきていた。


人から聞いた話をつなぎ合わせていくと、事故の大体の事情は察した。




 あの日、関は何を思ったのか……


走行するバスの前に、急に飛び出した。


バスの運転手は、関を避けようと急ハンドルを切ったが間に合わず、


関に衝突後、関を引きづったのと雨によるスリップで横転、


バスは、そのままバス停に突っ込み、多数の死傷者をだした。


関、バスの運転手、サラリーマンの計三人が死亡した。


バス停で待っていた、学生の中には鈴木も含まれた。


幸いなことに鈴木は、命に別条はなかったが、


右足の骨折と、割れたガラスの破片が体に刺さり、


全治、三ヵ月の診断がだされた。


事故にあった当初は、学校にも来れず、夏休み明けに学校に復帰した。


体の傷は癒えたが、目の前でクラスメイトが亡くなった光景を、


目のあたりにして、教室でも時たま、情緒不安定な様子を見せている。


なぜ、関が飛び出したのかは警察でもわからなかった。




 「やばい、寝坊した」


「母さん、起こしてくれよ」


「あれ?母さん」


良太は家の中を軽く見て回ったが、どこにも家族の姿はいなかった。


それよりも、家族を探してる場合ではない、早くしないとバスに乗り遅れてしまう。


良太は、大慌てでバス停までを走りぬいた。


時計に目をやると、そろそろ歩き出しても、十分に間に合いそうだった。


全力で走ったのに、息切れすらしない、


とても不思議な感覚だと良太は思っていた。


そろそろ、慎也が見えるはず……


だが、慎也の姿はどこにも見当たらない。


バス停には、バスが到着していた。


急いで飛び乗って、席に座ろうと移動した時、


良太は周囲の異変に気付いた。


周りの人が、冷たくさげすんだような目で自分を見ている。


良太は視線を合わせないように、


バスの一番奥の席でうつむいた状態を保った。




 「おっはよう!!」


元気よく、あいさつをして、教室に踏み込んだ良太。


友人が亡くなっても、


けなげに自分のキャラは、守り通そうとしていた。


教室に入ると良太に視線が集まる。


だが、その視線は友人を出迎える視線ではない。


バスの時と同じ視線。


さげすんだ目で、クラスメイトが良太を見ている。


誰一人、良太へのあいさつは返さなかった。


やはり、何かがおかしい。


良太はそう考えながら、自分の席に着くと


笹川がこちらに近づいてくる。


「おはよう、笹川」


良太が引きつった笑みで、笹川にあいさつしたが、


笹川は、良太を見下しながら、開口一番


「杉山君、オマエノセイダ」


良太は何を言ってるのかわからなかった。


だが、笹川を皮切りにクラスの皆も続く。


「杉山、オマエノセイダ」


「良太、オマエノセイダ」


まるで、呪文を唱えるかのように口々に同じことを言う。


何が起きたんだ?


いったい、皆どうしてしまったんだ?


良太は何が起きたのか見当がつかない。


がらっ!!


教室に、バスに乗っていなかった、慎也が入ってきた。


「慎……」


「良太、オマエノセイダ」


「えっ……」


一番親しい友人にまで、言われてしまった……


良太は、もう、何がなんだか、わからない状態である。




 キーン・コーン・カーン・コーン


チャイムと同時に渡邊先生が入ってきた。


皆は静まり返り、黒板の方に向き直っている。


渡邊先生は至って普通だった。


ニコニコしながら、


「はい、それでは朝会を始めます」


「その前に、皆さんに紹介したい人がいます」


「はい、では入ってきてください」


「あっ、その前に……」


急に真顔になった渡邊先生は、


さげすんだ目で良太を見た。


「杉山、オマエノセイダ」


良太は固まってしまった。


先生にまで、同じことを言われた。


頭を抱えながら、今にも泣きそうな良太を尻目に、


教室に誰かが入ってきた。


「皆、久しぶり」


聞き覚えのある声だった。


良太が顔をゆっくりとあげると、


そこには関がいた。


「良太、久しぶり」


「あっ、せ、関なのか」


関は良太を睨みつけ、


「良太、オマエノセイダ……」




 ドタンッ!!


良太はベッドから、転げ落ちた。


「ハァハァ……」


全身から汗が、噴き出している。


「また、夢か……くそっ」


関が亡くなってから、度々、悪夢にうなされている。


自分のどこかで、関の死に、責任を感じている。


そんな気持ちを拭いきれずに、この五カ月あまりを過ごしていた。


「顔でも洗ってくるか……」


良太は重い足取りで、洗面所へと向かって行った。

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