6話 秘密

 すでに、赤い箱を目の前にして、


自室で1時間弱悩んでいる良太。


名前を書きたい。


「笹川 心」と紙に書くだけなら簡単なことだ。


だが、書いた後、どこに隠せば良いのだろう?


小森の話では、


「絶対に見つかってはいけない」


と言っていたのが、妙に引っかかっていた。


箱だけの効力で純粋に考えると、箱が見つかった場合、


笹川とは、永遠に付き合えない事が、容易に想像がついた。


それ以外のリスクとして考えられるのは、


学校の誰かに見つかった場合、卒業するまで、笑いものにされるという事だ。


逆に考えると見つからなければ、


笹川と生涯をともにすることが、できる可能性がある…


良太の思考は限界に到達していた。


「ご飯よ~ぉ、降りてらっしゃい」


「今行くよ~ぉ」


1階から母親の声がしてきた。


(考えるのは夕食の続きにしよう)


そう思った良太は、赤い箱を机の引き出しにしまうと、


鍵を掛け、開けれない事を確認して、


夕食が用意されている居間へと、足を運んで行った。




 翌朝


考え込みすぎたせいか、寝られなかったせいなのか、


とにかく今の良太の頭は、明らかにほうけてる状態である。


眠さでくる、まぶたの重みと、目を閉じても寝れないジレンマなのか、


ふらつきながら歩く良太であった。


こんな状態なので、今朝方、母親は体調が悪いのか、


珍しく気にかけてくれていた。


「大丈夫」


と、一言だけ伝えて、家を出たのは良いものの、


全然、大丈夫ではなかった。


「おはよう、良太」


「おぃ、大丈夫か?何か具合、悪そうな感じだけど」


慎也が心配そうに、良太の顔をのぞき込んでいる。


「大丈夫だよ。ちょっと昨日、勉強が捗ってさ」


「良太って、そんなガリ勉キャラだったか?」


慎也は心配と不安が入り混じった顔で、さらに覗き込んできた。


「大丈夫だよ、どうしても具合が悪くなったら」


「早退するからさ」




 うそである。


良太は今日中に確認したいことがあった。


一つ目は、赤い箱のうわさについて、知っている藤宮に、


赤い箱が見つかった場合に、どんな事が起きるのか聞く事。


二つ目は、赤い箱を隠す場所はどこでもいいのか、と聞く事。


三つ目は、隠す場所が学校内と限られた場合、


隠し場所をどこにするかを見つける事。


現状、置かれてる問題を解決することで、


めでたく、笹川と交際が出来る。


良太の胸は、期待と興奮と不安で入り混じっていた。


今日の早押し選手権には参加する意欲はわかなかった。


ただ、参加するそぶりだけを見せて、普段と変わらない様子を演出して見せた。


勝者は関だった。


近頃、生き生きとしている関は、


いつにもなく、俊敏な動きでボタンを押したのである。


慎也と関が勝者争いをしているが、


良太は笹川の事ばかり気にしていて、


朝の早押しゲームには、気乗りしていなかった。


ただ、途中で止めたら、関に悟られるのではと考え、


少しでも、不安要素を排除するために、あえて付き合い続けていた。




 教室に着くと、いつも通りの雰囲気だった。


自席にカバンを置き、藤宮の席へ急いだ。


周りは、自分の事など気にも留めていない。




 藤宮 幸喜(ふじみや こうき)


大のオカルト好きで、


学校の七不思議や超常現象などは


藤宮に聞けばわかる、と言われている。


ただ、話に若干の尾ひれが付くので、信用度は今一である。


しかし、そもそも、オカルトの信ぴょう性などないに等しい。


多少なりとも、話に尾ひれが付いたところで、結果に影響が出るとは思えない。




 藤宮の席に着いた良太は、小声で、


「後で、時間あるかな?聞きたいことがあるんだけど」


と質問した。


「うん、いいよ」


「昼休みでいいかな?そろそろ授業始まるし」


「OK」


藤宮の予定を抑えると、


途端に安堵感がでたのか、急激な眠気に良太は襲われた。


自席に戻り、うつぶせで伏せっていると


笹川が心配そうに、こちらを見ているのに気付いた。


だが、良太の睡魔は手ごわく、


気を抜くとすぐにでも眠ってしまいそうだった。


朝会が始まろうとした時


「先生、杉山君、具合が悪そうなので、保健室に連れて行ってもいいですか?」


慎也が、気を利かしてくれたのだろう。


「おぅ、いいぞ」


「杉山、体調、悪いなら、学校休まないと駄目だぞ」


渡邊先生の了承を経て、慎也は良太を保健室へと運ぶ、


「おまえ、体調悪くなるくらい勉強するなよな」


そう言いながら、保健室につくと、


保健の先生に、良太の代わりに事情を説明してくれた。


良太はそのまま、何言わず、


ベッドに横になり、睡魔への抵抗をやめ、


深い眠りへと落ちていった。

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