第22話 婚約者となったばかりで


「これでマルク様との婚約破棄の手続きと、ミカエル様との婚約の申請が終わったのですね」

「そうだな。これで晴れて私たちは婚約者同士となった。私としては一安心だ」

「私もなんだかホッとしました。ミカエル様、色々とありがとうございます」


 リュシエンヌは教会でマルクとの婚約破棄の手続きを行ったが、きちんと書類も整っていた上に、かの有名なミカエル・ディ・ペトラが同伴しているとなれば教会の働きもより迅速になるのであった。


 そして婚約破棄が成立した途端に、現国王陛下の甥っ子であり騎士団長という立場でもあるミカエルが、その令嬢と婚約の申請を行ったものだから、教会でも右往左往の騒ぎとなったのである。


「そういえば、私ミカエル様のご両親にお会いしたこともありませんし婚約前のご挨拶にも伺っていないのですが、大丈夫でしょうか?」


 突然の出来事が立て続けに起こった為に失念していたが、リュシエンヌはペトラ公爵夫妻に会ったこともなければ挨拶もしていないのだ。

 不躾な令嬢だと言われないかと不安になったのである。


「大丈夫だ。心配はいらない。父上も母上も、私がいつまでも婚姻はおろか婚約者すら持たないことを常に心配していたから、リュシエンヌのような令嬢が婚約者となってくれたことを心から喜ぶだろう」

「そうでしょうか? それでも、なるべく早めにご挨拶に伺います」

「そうだな。また近々機会を設けよう」


 教会からの帰り道、リュシエンヌとミカエルが微笑みあって馬車の中に甘い空気が充満し始めた頃、突然馬車の中にファブリスとエミール、そしてローランが現れた。


「お前たち、こんなところに現れて……。何かあったのか?」


 ひどく不機嫌な様子のミカエルは三人の幽霊に問いかけた。


「ミカエル、えらく不機嫌ではないか」

「リュシエンヌ、落ち着いて聞いてね。リュシエンヌの妹が


 エミールの言葉を聞いたリュシエンヌは顔を青褪めて思わず隣のミカエルの手を握った。


「ポーレットが……」

「リュシエンヌお嬢様。ただいま邸内は随分とバタついていると思いますがお気を確かに。私がついております」

「ローラン、きっとお父様もお母様もショックを受けてらっしゃるわよね。私がしっかりしなければ……」


 リュシエンヌは喜びから一転無言となって窓の外に目をやった。

 ミカエルは三人の幽霊たちをじっと見つめて、そして何かを悟ったかのようにため息をついた。




 

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