CRoSs☤MiND ~ 心に秘し贖罪の枷 ~ 第 三 部 § Chain of Destiny §

DAN

この舞台に終止符を  


 これは第二部の結末としてよしとする方々への後日談である


 第三部演劇台本と表紙に書かれたそれを手にして、柏木宏之、涼崎春香、涼崎翠、隼瀬香澄、藤原貴斗、藤宮詩織、八神慎治達が、舞台となる会場の閉ざされたホール扉前に集まっていた。

 だが、誰として、我先にとその扉を開いて会場に入ろうとする者はいなかった。

 それは、台本の中に書かれている、役、台詞があまりにも酷な物だったからだ。


「演じるか、どうか、決めかねているようだな・・・」

 扉隣の壁に背を凭れさせ、丸めた台本をもったまま、腕を組む貴斗。

 彼は一人見据えた目で、冷静にそのような言葉を他者に告げていた。

「だってよっ、この内容、酷いぜ」

「あんた、この台本、本当に読んで、そんな台詞を言うわけ?」

 宏之と香澄は困惑した表情のまま、貴斗に答えを返していた。

 慎治は真剣にどうするか、悩んでいるようだった。

 詩織は不安な瞳を貴斗に向けたままだったし、涼崎姉妹は舞台に上がりたくなさそうな表情をみんなに見せていた。

 貴斗はまた一人冷静に声を出す。

「ふんっ、今ある、幸を捨て、こんな下らん余興に俺たちが付き合う理由など、どこにもない・・・、それにこれは所詮舞台だ。出演してやる義理はあるだろうが、義務はない。だがやはり、解せぬ」

 彼はそう言いながら、輪になっているみんなの前を歩き、持っている台本を奪ってゆく。

 奪われてゆく台本を取り返そうとするものは誰一人いない。

 一周した貴斗は、皆に背を向けたまま束ねた台本を床に置くと、どこかに隠し持っていたコンバットナイフを台本に中心に突き刺し、貫通させた。

「貴斗、一体どのようにするおつもりなのですか・・・」

「そんなことをして、どうするの貴斗君?」

 不安げに恋人の行動理由を尋ねる詩織、状況をまったくつかめてない春香の問い。

「こうするだけだ・・・」

 七冊の台本が刺さったナイフを持つと火力の強いターボ・ライターを持ち出し、火をつける。

 瞬く間に火は炎となりて、台本全体を覆っていた。更に、貴斗は扉を開けると、その燃え盛る台本を投げやった。

 貴斗のその行動に驚いて真っ先に声を上げたのは慎治だった。

「たっ、貴斗、なにやってるんだっ!放火だぞ、それは。あちゃぁ・・・、親友が放火魔になっちまうなんて、災厄だな、まったく」

 貴斗はすぐに慎治に声を返さず、扉を背にして外へと歩みだした。慎治と、香澄の脇を、割って通り過ぎる際に、

「ばかばかしい、舞台を演じさせようとする会場など。燃えてしまっても、誰一人咎めはしないだろう・・・。俺がすべて許す」

 貴斗以外、みな、舞台会場と外に歩みだしてしまった、彼を交互に見返しながら、最後に自分たちも炎上にまかれる訳には行かないと思い彼を追った。

 彼等彼女等が、外の出ると同時に中の火災が一気に膨れ上がり、一歩間違えば、死を免れなかっただろう・・・。

「うぁぁ、なんか、貴斗さん、すっごくくさい台詞はいてますよぉ~~~。でも、それを感じさせないのが貴斗さんの魅力なんですけどねぇ」

 炎上する会場を楽しそうに眺めながら、翠はそんな言葉を漏らしていた。

「さて、久しぶりにみんなが集まったことだし飲みに行くか?・・・、・・・、・・・、俺のおごりだ」

「なにっ!貴斗のおごりだと?誰がその誘いを断るって言うんだよ。よっしゃぁ~~~、じゃんじゃん飲もうぜ」

「あたしは、言うほど飲めないけど、あんたの奢りなら行くに決まってるでしょう?ねっ、しおりンも、春香も」

「当然でございます。わたくしと貴斗はいつも一緒なのですから・・・、春香も一緒に参りましょう」

「もちろんだよ、詩織ちゃん、香澄ちゃん」

「わっ、わぁ~~~いっ、貴斗さんの、おごり、おごりっ~!」

「翠ちゃん、お前は未成年だ。酒など飲ませんぞ」

「うぅ、それはずりるいですぅ」

 翠は不満をぶつけるように貴斗の背中に突進すると彼の同に腕を回し、頭を彼の背に強く押し付けていた。

「あっ、こらっ、みどりちゃん、貴斗から離れなさいっ!」

「いやですよぉっ~~~、あっかんべぇ~~~~ですぅ」

「もぉ、貴斗もいつまで翠ちゃんにそんな事させているのですか、早く離れてください」

「ふんっ、詩織、大人気ないぞ、すぐにかっかするな、お前らしくない・・・」

「なにを、その様な嬉しそうな表情でいうのよぉ、たかとのばかぁ~~~~」

 その三人のやり取りに呆れた顔で、観察するその他四人だった。

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