第8話  女声の女神の前世事情

 私が挨拶を返すと、タルヴィッカ様はにっこりと微笑みを返してくださった後に、リスタリカ令嬢の方を向いて、跪いた。私はリスタリカ令嬢を見上げた。


「ショコラ様、参りましょう」

「はい」


 私は素直に答えた。明らかに異世界であるのに言葉が通じることが不思議だった。


 俺は私の視線を介して美少女リスタリカの斜め下からの御顔にほうっとなる。

 30歳を過ぎた大人が斜め下から美少女を見上げるようなシチュエーションは、現代日本では普通は訪れない……俺は異世界の奇跡に感謝した。

 

《よし、アラセイカ。お前にアタシと伯爵家令嬢リスタリカの関係を話しておいてやろうリスタリカのことをアタシはリスタって読んでるから、リスタって呼ぶな》


《手を握っているリスタは今は素のリスタだから、ショコちゃんはリスタとお話でもしながら、廉神殿に向かいなさいよ》


 俺も私も無言で同意した。


《はじめにな。アタシはアラセイカがショコラの身体をアタシから奪ったと考えている》


 どういうことと思った俺と私に、女声は続ける。


《だってな。アタシも転生者なんだよ……リスタはなぜだかアタシのことを完全に女神と信じきっちゃっているし、他にもアタシを敬う奴らも沢山出てきているけれども》

《いいか、同じ転生者でもアラセイカには身体が2つあって、アタシには身体がない。まずは、これっておかしいと思わないか?》


 確かに、そう言われるとそうだが……女神サブライムと俺が認定したばかりの女声の突然の転生者宣言についていけない。


《そしてな。前世のアタシは……横浜生まれて、大阪のミナミを経て、最後は福岡の中洲でキャバ嬢やっていたんだ。あと、メイド喫茶でバイトとか。

 悪いけどアタシは若くて可愛いかったからな、キャバでしんなりやってたんじゃストーカーされそうだったから、このアタシ語りで攻めていたのさ。地にもけっこう近いってのもあるけど》


《何でアタシがストーカーを警戒してたのかっていうと、アタシには心に決めた思い人がいたんだ……そう、まさしくショコちゃんのように尊い、な》


《分かるな……アラセイカ。お前のようなデブパンツが突然、尊い子の前にいるって知った今朝は狂いそうになったんだぞ》


 すみません。俺は素直に謝った。

《いや、アタシも飛ばしすぎた……な。あのな、中洲のキャバで、博多場所の時に荒勢三世と言われてた、がぶり寄りが得意な小結にかなりいい寄られたことがあってな。それがアタシが店で唯一、お客さんに胸を触られたイベント》


 うん、ハラスメントにあたるのだろう。

 

《そんときも思ったんだ。アタシの胸ならまぁいいか、と……でもあの子に手を出されるようなことがあったらアタシがそいつを殺してやる、と》


 再び俺は女声に貫かれた。

 

《で、結局、アタシの方が毒殺されちゃったんだけど、な。》

 毒殺……俺も私も悲しい気持ちとなった。


《いや、アラセイカだって死んできた口だろ。アタシのことはいいんだよ。ただ、あの子のその後を知りたいという思いだけがあってな……そんな思いがあって今朝方から、アタシはエキサイトしていた。デブにこの子が何かされるってな。そそれで本気の女神プレイでここまできたわけなのよ》


 それで俺は天に昇ったとたんに罵倒されることとなったわけ……なのだが、腹立たしいと思った事がはるか昔のことのように思えてきた。


《そうだな。異世界に来たってことは、心の時間軸とかも人それぞれ異なると思うんだ》


《まぁ、ちょいとこれまでのことはお水に流してもらってだな。先の話をしようぜ》

 もはや、なんと呼べばいいのか分からない女声の元中洲の子がする先の話は、俺と私の異世界ライフの行く末に大きな影響を与えることになった。

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