第4話 白狼戦①

「炎魔術師の私がいるんだからすぐに仲間になりたいってやつが現れるわよ」


俺たちはギルドの掲示板で仲間の募集を始めた。とはいえこんな駆け出し冒険者2人の仲間になりたいというやつがいるだろうか。


「とりあえず募集はかけたし後は待つしかないな。今のうちに他のクエストやってこれからの軍資金貯めようぜ」


「そうね!このクエストはどう?」


『畑の近くに伝説の白狼が出没して困ってます』


「ふざけんな。こんなクエスト受けるわけないだろ!」


なんで畑に伝説の生物が現れるのか全然分からないが絶対に関わらない方が良いに決まってる。


「これにしようぜ」


『私のペットのカロリーヌちゃんを探してください。』


いかにも初級冒険者向けのクエストだろう。こういうクエストを経て冒険者は成長していくのだ。


「えーつまんなそう」


不満そうな顔をするな。今の俺達に討伐クエストは荷が重すぎる。


「どう考えても白狼なんかには勝てないだろ。最初は簡単なクエストでレベル上げようぜ」


「分かったわよ、じゃあそのペット探しのクエスト受注してくるわね」


おや、泣いて駄々をこねるかと思ったけど意外と素直じゃないか。正直これまでユニがいて良かったと思ったことはなかったが少し見直した。


「あれっ」


ユニが受注しに行ったはずのペット探しのクエストが掲示板に貼られたままだ。その代わりに伝説の白狼退治のクエストの紙がない。


「まさかあいつ・・・」


「クエスト受注してきたわよ」


あくまでしらばっくれる気か。


「おい、何のクエストを受注してきたのか言ってみろ」


ここで気付かないふりをするほど俺は優しくないのだ。


「えーっと、伝説の白狼の討伐です・・・」


俺の目は完全に曇っていたようだ。こっちの世界には眼科はあるのだろうか。


「バカかお前!勝てるわけないだろ。ゴブリンで手こずってた俺達がどうやったら白狼に勝てるんだよ」


「いいじゃない、白狼なんてめったの出会えないのよ。見てみたいじゃない!!」


反省の色なしかよ。こいつどうしてくれようか。というか何で初級冒険者が伝説の生物の討伐クエストを受けれるんだよ。



「まあいい。受けてしまったもんはしょうがない」


今日の宿代や食費のせいで最早クエストのキャンセル料すら払えない。



「でも今日は疲れてるからしっかり休んで行くのは明日だ」


「分かったわ!」


唯一の救いは俺がゴブリン退治でレベルアップして得たスキルポイントをとっておいたのだ。


「はぁ、せめて白狼に対抗できるスキルを身に着けよう」




そう誓ったはずなのに、夕食は外で食べるより食材を買って宿の厨房を借りる方が安上がりね!と言っていたユニが買ってきた食材すべてをゴミに変えそうなほど料理のセンスがないので俺は泣く泣く料理スキルを取得した。




翌日。


「あぁ、もう終わりだ」


俺は項垂れながら依頼者の家へと向かっていた。戦闘になった場合、料理スキルしか持たない俺は間違いなく殺される。


「いつまでそうやってるのよ。せっかく白狼に会えるのよ。」


このクエストで殺されるかもしれないのに・・・果たして生きて帰れるだろうか。


「さあ着いたわよ」


そこには普通の民家があった。俺たちのいた街から少し離れた場所にある農業を生業としている集落だ。


「いらっしゃい。遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」


現れたのは小柄なお婆さん。上品な様子だが決して裕福ではなさそうだ。白狼が現れるというのに凄腕冒険者がこのクエストを受けないのは報酬の低さだろう。この世界では報酬はクエストを依頼人が払うシステムになっている。


伝説の白狼の討伐の報酬がゴブリン退治とそれほど変わらないとなればあまり受けるメリットはない。


まあ興味本位で受けてしまうような輩もいるわけだが。俺たちのような。


「それでこちらがその畑です。最近は夜になると白狼様が現れるんです」


「これはひどい」


見事に荒らされている。作物を食い荒らされたという感じか。


「ここでは何を育てていたんですか?」


「これです」


見せられた器には大量の野菜が乗っている。どの野菜もみずみずしくておいしそうだ。


「やれるだけのことはやってみます」


ユニにも作戦があるらしいが全く信用できないので俺は罠を仕掛けることにした。と言っても金はないので畑に落とし穴を掘らせてもらい漁場で貰ってきた網を屋上に乗せた。


白狼が落とし穴に引っ掛かったらこの網で捕えるという作戦だ。有効的かは分からないが俺に出来るのはこれぐらいだろう。



時間は経ち皆が寝静まった夜、それは突然訪れた。


「来たわね」


最初に気が付いたのはユニだった。俺はユニに続いて窓の外を見ると本当に白狼が現れていた。急いで屋根に上ってあることに気付いた。


「でかすぎだろ・・・」


その日は満月で白狼の姿がよく見える。美しい毛並みに鋭い牙と爪、そして5メートルを超える巨体。


「でたわね、なんて美しい毛並みなのかしら」


目をキラキラさせて喜びやがって。なんて能天気なやつだ。


「なあユニ、あいつをどうやって倒すんだよ。何か作戦があるんだよな」


「もちろん!私の最強魔法でイチコロよ!!」


あぁ、俺今日死んだな。


『フレイム』


「ズドンッ!」


当然の如くユニの魔法は白狼から外れ畑を爆破。当たらないよね、知ってるよ。


「ガルルルルルル」


ほらー怒っちゃったよ。どうすんのさ。


「全然当たってませんけど・・・」


「当たらないなら当たるまで打つだけよ!」


「やめろって!お婆さんの畑を全部ダメにするつもりか」


マジでバカなことを言い出しやがったぞ。もう女神というよりテロリストだ。


「ウォォォォォォ」


白狼は雄叫びをあげるとこちらに突進してきた。だが問題ない。



「ドスンッ!」



白狼は俺が作った落とし穴にはまった。想定より白狼が大きかったので完全には落ちてないがこれで充分。


「くらえ!」


上から網をかけることでなんとか捕縛に成功した。


「やるわねマコト。褒めてあげるわ」


お前、何もしてないだろ。何でドヤってるんだよ。


「ウォォォォォォォォ」


喜んだのも束の間、白狼は再び雄叫びを上げると尖った牙で網を引きちぎってしまった。一応海の猛獣を捕えられるように針金が網の中に仕込んであるんだが伝説の白狼の前では関係ないようだ。


「簡単に破られちゃってるじゃないの。ちゃんと捕えなさいよね」


「おいおい、あんまり舐めたこと言ってると後で縛り上げるぞ」


「やれるもんならやってみなさいよ。でもそれをやったときあなたは犯罪者よ」


「そんなことで俺がビビると思ったか。俺が本気になれば警察に言えないようなことしてやる・・・っておい、前!前!!」


「なによ」


バカなやり取りをしてる間に白狼は下にいるユニに突撃しだした。


「いやぁぁぁぁぁぁ」


ユニは泣きながら逃げている。俺は屋上にいて安全だし、少し成り行きを見守るか。


『フレイム!フレイム!フレイム!』


ユニは何度も魔法を唱えるがもちろん当たらない。


「マコト様ー助けてください―」


このままでは畑を守ってもお婆さんが泣くことになるから助けるか。


「ユニ、こっちに来て耳をふさげ!」


実は俺にはもう1つ秘策がある。と言ってもあまり使いたくはないのだが。


「じゃあ行くぜ!!」


取り出した球を白狼に向かって投げつけた。




「キィィィィィン!」




球は物凄い音を立てながら爆発した。


「う、うるさいーー」


投げたのは俺特製の音爆弾だ。相手が動物である以上嗅覚や聴覚は人間よりも優れているはず。


「グ、グルルル」


白狼は苦しそうな表情を浮かべて畑から去っていった。音爆弾の効果は絶大だったらしい。


「はぁ、助かったのか」


とりあえず今日のところは撃退成功できた。守れたはずなのに畑は荒れてしまったが。しかし、明日同じ手が通じるとは思えない。どうしようか。


「ねぇ、私気が付いたわ。このままじゃこの畑は守れないわね」


俺が下に降りるとユニはそんなことを言い出した。


「何をいまさら、最初から分かっていたことだろ。お前がこのクエスト受けるからこんな目に会うんだぞ」


「うぅ、ごめんなさい」


さすがのユニも申し訳なさそうな顔をしている。その顔はずるいぞ、そんな顔をされては責められない。それにお年寄りが困っていると知ってしまった以上ここで投げ出しては後味が悪い。


「仕方ないな。なぁユニ、お前はフレイム以外にどんな魔法が使えるんだ?」


「炎系以外はまだ初級魔法ぐらいしか使えないわ。雷や水とかの攻撃魔法とそれ意外だと思念伝達とか、相手のお腹を痛くする魔法とかね」


お腹痛くする魔法っていつ使うんだよ。


「でも、思念伝達は使えそうだな」




俺はここである作戦を思い付いた。

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