サッカー部はモテない
ゴカンジョ
アットホームな彼氏です
ものの調査によると、なにやらサッカー部は 「彼氏に入ってほしい部活ランキング」で連続一位に輝く、中高生羨望の「モテ部」であるらしい。
曰く、花咲く野を吹き抜ける春風のように爽やかなイケメン揃いのサッカー部員は、黄色い悲鳴をあげる女子を選り取り見取り。スクールカーストの頂点に君臨し、底辺にうごめくゾウリムシのごとき醜いオタク・陰キャ文化系人種どもを嘲笑いながら、やりたい放題傍若無人のリア充陽キャライフを満喫しているという。
これが紛う事なき事実なのだとすれば、僕は生まれてこの方十六年、とんでもなく間違った世界に住んでいることになる。時空が狂っている。宇宙の法則が乱れている。ちくわの入った甘口カレーくらい頓珍漢な世界で僕はもがき苦しんでいる。
奇しくも昨今、エンタメ業界では「異世界転生もの」が大流行している。なれば漫画家、小説家を夢見る各々方よ、この僕を主人公にした物語で一攫千金を目指すが良い。
我こそが、「サッカー部はモテる」などという世迷言が流布する異世界に迷い込んだ、哀れなモテないサッカー部員である。
こちとら三歳からボールを蹴り続けているというのに、全く女っ気がないのはいったいどうしたことか。
瞳を潤ませた可憐な後輩女子生徒から放課後に「先輩……好きですっ……!」なんて切羽詰まった愛の告白を受けたこともなければ、卒業を控えた妖艶な先輩女子生徒から「ワタシと離れ離れになっちゃったら、寂しい?」なんて意味ありげな台詞でオトナな恋の駆け引きを仕掛けられたこともない。
隣に住む幼なじみで同級生の女の子から「かっ、勘違いしないでよねっ!」などと頬を赤らめながら真心込めた手作りバレンタインチョコレートを差し出されたことだって、そもそも隣に住む幼なじみの女の子などいないのだから当然あるわけもない。
その代わり、中三のとき蔑んだ視線を飛ばすクラスの女子全員から「近づくなバカ」「マジキモい」「本当に死ね」などと痛罵されたことならある。
いったい僕が何をしたというのだ。ただちょっと、昼休みの教室で「大貧民」に負けた罰ゲームとして、ブラジリアンワックス付き脱毛テープで自分のワキ毛を一網打尽にバリッと処理したあと、黒々しい縮れ毛がびっしり絡まった
やんちゃ坊主たちの可愛らしくも牧歌的なお遊戯をそこまで毛嫌いしなくたって。なんてかわいそうな僕。
その後もしつこくキャーキャー喚き続けるかしまし娘共にイラついた僕が、ワキ毛ボールを全力で投げつけてやったのはいうまでもない。しばらくクラスの女子全員から完全無視された。
僕にとって「彼女」なる存在は、ほとんどツチノコ並みの伝説的未確認生物と化して久しい。
幼少よりサッカーを続けているというのに、僕のこれまでの人生は、まるで脂性のデブがすし詰め状態となった夏場の男性専用車両のようだといっても過言ではない。乙女からほのかに漂う、甘い石鹸の香りとはほど遠い臭気と男汁で満ち満ちている。
しかも、だ。えづきたくなるほど男臭い世界で、ただ好きなサッカーに打ち込んでいるだけだというのに、「モテるためサッカーやってる」だの「非モテを見下している」だの「チャラいパリピ」だの「ナルシストでキモイ」だのと、インターネット周りのよく知りもしない連中から偏見に満ちた陰口を叩かれることも珍しくもない。テレビでそんなことを言うノータリンな芸能人すらいる。
おかしい。間違っている。「モテたいだけ」などと身に覚えのない誹りを受け、それでいて完全無欠にモテないのだから救いがなさすぎる。だったらせめて、せめて女の子にモテさせてくれ。
彼女募集中。容姿・性格応相談(黒髪ショートカットの方優遇)。アットホームな彼氏です。
☆☆☆
閑話休題。失敬、いささか取り乱した。
僕が言いたいのはつまり、上っ面のイメージだけで「サッカー部はチャラい」などとほざく者は、浅薄極まりない大バカだということである。
しかし残念ながら、この世は自分以外バカばかり。そんな連中の目を覚まさせるには、己の身を挺して啓蒙してやらねばならない。
僕が自ら進んで県立FH高等学校サッカー部に入部したのは、そういう訳である。
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