第51話

「こちらにいましたわーっ!」


 見た目清楚なお嬢様がはしたなく大声をあげる。

 それを聞きつけてゾロゾロと女学生が集まってきた。


「どこですの!?」

「あちらですわっ!」


 集まってきた中高生の女子集団は物陰に隠れていた俺を的確に指さした。


 か、完全にバレている!


「お待ちなさーい!」

「皆さん! 絶対に不審者を捕まえるんです!」

「はいっ!」


 ひぃ――――っ!?

 完全に不審者扱いだ!

 物陰から飛び出して全力で逃げ出す。


 どうしてこうなった!?



 ○ ○ ○


 今日はホワイトデーだった。

 学校で三上さんと伊吹さんにはお返しを渡した。

 誰にもバレないようにこっそりと。

 誰かに見られると恥ずかしいし。


 てかお返しを渡すだけなのに物凄く恥ずかしくて緊張した。

 人生で初の試みだし仕方ないよね。


 まぁ、それについても話すと長くなるし今日は置いておく。


 学校が終わってすぐに残るお返しを渡すために行動を開始した。


 後はアリサさんと、その妹のマリナの二人だ。

 アリサさんは帰宅後に渡せばいい。

 そうなると残りは妹さんだけになる。


 そう考えたとき俺は致命的なミスを発見した。

 ……俺、妹さんの連絡先知らなかった。

 そもそも、妹さんの学校は厳しいお嬢様学校で携帯の持ち込みは禁止されていたことも思い出した。

 そもそも連絡先知っていたとしてもどうしようもなかったわけだ。


 そうなるとどうしようかとなるわけだ。

 そして、俺は短絡的にも『直接渡すしかないんじゃね?』なんて考えてしまった。


 あの時の自分に考え直せと言ってやりたい。


 だが、あの時の俺は何も考えずに妹さんの学校へ向かってしまった。

 向かってしまったのだった。


 それから少しして妹さんの通う学校へ辿り着いた。

 そこで俺はアホみたいに口を開けて驚愕した。

 デカい……そして綺麗な校舎だった。


 マジで圧倒されるスケールだ。

 この中から妹さんを見つけるのは至難の業なのではないかと不安が募る。


 さらに正門前でバカみたいな顔で佇む俺を道行く女生徒たちが訝しげに見ているのに気が付いた。

 こちらを見ながらヒソヒソと会話しているようだった。


 これはまずいのではないか……なんて思い始めた時だった。


「すいません、学園に何か御用でしょうか?」


 警備員の服を着た20代と思しき美人な女性が声をかけてきた。

 その声にはどうにも不信感や緊張感を感じられた。


「えっと……あの……人を探してて」


 緊張でボソボソとした話し方になってしまった。

 するとあちらは余計に怪しんだのか険しい表情を強くした。


 あぁ……せめてアリサさんについて来てもらうんだった。

 今更後悔しても遅い。

 今、俺は一人でお嬢様学校に乗り込んでいる形なのだ。


 でも怪しんでいる雰囲気を出しているとはいえ問答無用に拘束したりしようとはせず、こちらの話を聞いてくれようとしている警備員さん。

 なので普通に目的を話してしまえば何とかなるだろうと考えた。

 最悪、アリサさんに連絡をとれば何とかしてくれるはずだ。


「え~……あの……生徒会に知り合いがいまして」


 出来れば連絡してもらえると……と、言葉を続けようとしたところで乱入者が現れた。


「風紀委員です! 何事ですか?」


 現れたのは気の強そうな女子生徒。

 腕には『風紀』と書かれた腕章がつけられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る