第44話

 妹さんが家に来て数日。

 この間にあまり……というかほとんど知らなかった妹さんの事でいくつか分かったことがある。

 

 まず、アリサさんとは違って感情表現が豊かだ。

 いや、アリサさんも俺以外には笑顔を見せたりするけどそれは猫被ってる感じで本当の感情って感じではない。

 妹さんの場合、無邪気に思ったことは全部顔に出す。アリサさんとは逆に感情を出さないように演技をする時もある。

 そして、クリスマスの時からうすうす分かってはいたが……いたずらや人をからかうのが好きだ。

 決して本気で怒らせない絶妙なレベルを把握して悪戯を仕掛けてくる。

 だけど、アリサさんに対してはその感性が発揮されないらしく、よく怒られている光景を目にする。

 それでも悪戯をやめない彼女の根性はある意味素晴らしい。

 

 それから一番驚いたことは、妹さんはアリサさんレベルとは言わないまでも、それに近いレベルで家事全般をこなしていた。

 前にアリサさんがいなくなったとき、家の事を妹さんに任せたのも納得できる家事っぷりだった。

 実際にあの時来てくれていたらきっとアリサさんが帰ってくるまで家の事は何も問題なかっただろうと確信できる……来なかったけど。

 

 そして勉強も出来る。

 さすがアリサさんの妹だと思う。

 普通に俺に教えられるレベル。

 俺にも一応プライドがあるから教わったりしないけど。

 

 勉強だけでなく運動も出来るという……完璧超人のアリサさんの妹にふさわしいスペックだった。

 中高一貫のお嬢様学校で中二にも関わらず生徒会に所属し、次期生徒会長だと言われているらしい。


 そんな訳で妹さんが来てから家の中が明るくなったような気がする。



○ ○ ○


 大みそかも間近に迫った年末。

 その日、妹さんはどうしてもやらなければいけない生徒会の仕事があるらしく嫌がりながらも学校へ向かっていったらしい。

 らしい、というのは学校に行くこと自体は聞いていたんだけど、ウチから妹さんの学校までは結構距離があるので俺が起きる前の朝早い時間に出ていった、とアリサさんから聞いたからだ。


 年末と言えば大掃除……なんて人も多いだろう。

 だけど、ウチでは普段からアリサさんが埃ひとつないほど綺麗に掃除しているのでわざわざ大掃除なんてする必要もない。

 冬休みの宿題は早々に終わらせた。

 真面目……なのではなくて何の予定もなくて暇だったから終わらせてしまっただけなのが悲しいところだ。


 アリサさんも一通りの仕事を終え、一息ついているところだった。

 

「アリサさん。暇なら勝負しない?」


 俺は冬休みに入ってから貯金を崩して買ったゲーム機を持ち上げながらアリサさんに問いかけた。


「構いませんが……いつ買ったのですか?」

「ふふ、一昨日買ったんだよ」


 アリサさんには内緒で買って……アリサさんに勝つために二日間特訓済みなのだ。

 卑怯と言われてもいい。

 俺はアリサさんに勝ちたいんだ。


「ですが……そのゲーム機はお友達と遊ぶパーティーゲームが多いものだったと記憶しているのですが」

「まぁ……そうだね」

「なぜ……買ったのですか?」

「友達いないって言ってる!?」


 そんな愕然と言われても。

 相変わらずひどいな!

 確かに、まだ誰かとプレイしたことなんてないけども!


「と、友達ぐらいいるし! それに今の時代、オンラインで誰とでも楽しめるし!」


 友達と集まってワイワイやるなんて小学生ぐらいだろ?

 そうに決まってる。


「樹様にとって……良い時代になりましたね」

「その穏やかな微笑み辞めてもらえます!?」


 地味に傷つくんですけど!


「いいから、やるよ!」


 俺はそう吐き捨て、テレビにゲーム機をセットする。

 

「いいでしょう。何やら自信がおありのようですが……」


 特訓したからな!


「ふふん。接待なんていらないから。本気できなよ」


 ゲーム機をセットし、コントローラーをアリサさんに渡しながら不敵に告げる。


「わかりました。人生にはどうにもならないこともある、と主人にお教えするのもまたメイドの役目なのでしょう」

「…………」


 それって俺は一生アリサさんに勝てることはないってことですかね!?


「どうしたのですか? 早くやりましょう」


 無言の俺にそう言うアリサさん。

 俺は無言のままアリサさんの隣に腰を下ろした。



 今からやるのは大人気のキャラクター達がカートやバイク、バギーに乗ってレースをするレースゲームだ。

 レースを有利にしたり相手を妨害するアイテムなどもあり、実に戦略性に富んだゲームである。

 正直負ける気がしない。

 アリサさんは初心者で、コントローラーの使い方などの説明を今読んでいる段階だ。

 対して俺はこの二日間の特訓でコンピューター相手には負ける事がないレベルにまで成長した。

 たまにはアリサさんの優位に立ちたい。


 そんなこんなでゲームが始まったのだった。



○ ○ ○


「な、なんでショートカットを全て把握しているんですか!?」

「え、そこに行けば何かあるのはなんとなくわかりますよね?」


 わかりませんけどっ!?


「なんでアリサさんばっかり良いアイテムが出るんだ! 俺はコインとキノコばっかりじゃねぇーか!」

「……日頃の行いでは?」


 何も悪いことしてないですけど!


 と、そんな感じにボッコボコのコテンパンに負けてしまった。

 マジでアリサさんチートすぎる。


 ただ、ひとつ。


 真剣な表情で画面を見つめるアリサさん。

 そのアリサさんが画面の中でカーブを曲がる時とかに無意識に身体まで傾いてたのを見てちょっと可愛いと思ってしまったのが悔しかった。

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