第6話 レッドリスト


 ダストゾーンから機動エレベーターへは一直線に道が伸びている。風紀委員の包囲網をくぐり抜け、エレベーターシャフト内部へ潜り込む。強烈なデジャヴ

 無事、空っぽのエレベーターシャフト内部からアカリを抱え、何度、繰り返しただろう。ダストゾーンへの帰路、何事も無いように思われたその時。


「見つけたぞ。反逆者! 風紀委員、足柄トモキが拘束する!」

「アシガラトモキ……空間切除か!?」


 何故か、相手の異能力が手に取るように分かった。


「私の能力を知っているとは……」

「……」

「私も有名になったものだな!」

「……」


 なんかふんぞり返っている。その隙に発勁はっけいを喰らわせて、意識を刈り取る。しかし――


「まだだ……!」

「こいつ!?」


 至近距離、こいつの空間を削り取る力を喰らうのはマズい。アカリを手放す。喰らうのは自分だけでいい。足柄が手を振るおうとしたその時。


「大事を成そうって時に、小さなヘマしてんじゃないよ」


 その腕が止まる。舞い降りる赤。


「レッドリスト……!」

「その呼び方も懐かしいねぇ」

「レッドリスト……?」


 足柄を吹き飛ばす赤。それは髪の毛だった。長髪の女。革ジャンにダメージジーンズ。学生の街に似合わない恰好。歳は十八くらいだろうか。

 そういえば、自分はいくつだろう。そんな記憶もない。


「よう、ウチのアカリが世話になったな」

「ウチのアカリ?」

『おい! 何があった!?』


 シームレスからの通信、なんて答えていいか分からぬまま。


「目の前に、レッドリストが降って来た」


 と答えた。

 するとシームレスは素っ頓狂な声を上げて。


『レッドリストォ!? おいおい最悪の指名手配犯じゃねーか!? なんでそんなのと接触してる!』

「いや向こうから降って来て……」

「おいおい、誰とお話してるんだい? あたしにも聞かせなよ」


 赤い髪の美女が顔を近づけて来る。首元の通信機へ。


「もしもーし!」

『うわっ! うっせ! レッドリストの声か!?』

「お? その声、聞き覚えあるな? お前、世界掌握ワールドハックか」

『うわ、身バレしてるし……おいリーチ! お前が教えたのか!』

「違う違う」


 首を横に振るリーチ。相手には見えていないというのに。レッドリストは白い歯を見せて笑いながら、リーチに、リーチの首元に語り掛けて来た。


「ウチの弟の計画を止めたい。協力しろ世界掌握」

『は、はぁ? 俺はただ機動エレベーターを止めたいだけで……というかレッドリストの弟? そんな情報知らないぞ……』

「私の名前はアリア・キングストン。弟の名前はヨシュア・キングストン」

『ヨシュア……って中央委員会会長じゃねーか!? それがレッドリストの弟ぉ!? そんな馬鹿な……』

「残念ながら本当さ、弟はこの都市を吹っ飛ばそうとしている。昔のお前みたいだな世界掌握?」

『うっ……』


 シームレスは黙ってしまう、話についていけないリーチは困ってしまう。先ほど手放したアカリの下へ寄り、怪我をしていないか確認しようとする。しかし、アリアに首根っこ掴まれ引き戻される。まるで子猫のような扱いだ。


「あの犯行声明は痺れたぜぇ? 『世界に風穴を開けてやろうじゃねぇか! 我らシームレス!!』うん、今でも覚えてる」

『やーめーろー!!』


 なんか通信の向こうからバタバタガシャンガシャンという音が聞こえる。シームレスが悶え暴れているのだ。どうやら黒歴史を掘り返されたらしい。


『分かったよレッドリスト! どのみち拒否権はなさそうだ! その話をそれ以上続けないのを約束に協力してやる!』

「話が早くて助かるよ」


 首根っこを離されるリーチ。後ろを振り返ると、もう既にアリアの姿は無かった。

 アカリの傍に寄り、怪我がないのを確認する。リーチはアカリを放り出してしまったため頭から落ちてないか心配していたのだ。


「ヨシュア・キングストン……中央委員会会長……」

『……はぁ、どうしたリーチ。なにか思い出したか?』


 溜め息を吐きながら、問いかけるシームレス。


「思い出した、というより、覚えてたんだ。アカリの名前とヨシュアの名前だけは」

『ふぅん……興味深い話だがとりあえずダストゾーンに帰って来い……忌々しいレッドリストを連れてな』

「姿が見えないんだが……」

『勝手についてくるんだろ……いいから帰って来い』

「……了解」


 ダストゾーンへと戻る。そこにはもう既にアリアが居た。


「よお、さっきぶり」

「……どうも、さっきはありがとうございました」

「良いって事よ!」

「調子に乗りやがってこのレッドリスト……」


 リーチとアリアの会話にシームレスが割って入る。そして、アカリが目を覚ます。


「ん……アリア?」

「アカリ、久しぶりだな」

「そうだっけ、よく覚えてない」

「決起集会以来だろ?」

「決起集会、そうか、そこであたし……」

「そうヨシュアに攫われた」

「……『スカーレットパーティ』か、未遂にしては派手に指名手配されたよな、あれも弟の差し金か?」

「そ、潜入捜査として入り込んでましたーでアイツは出世した」


 シームレスが考え込む。


「そうか、時期的には就任した時と一致する、か」

「納得してくれたようで何より、あんたら、シームレスと足並み揃えられたら、もしかしたかもしれないのにね」

「その話はしない約束だ」

「おっと失礼」


 一人、疎外感を感じるリーチ、背におぶったアカリをそっと地面に降ろす。


「ありがと、君、名前は?」

「りいち」

「……そうか、またなのね」


 デジャヴ、聞いた事のある台詞。すると暗いダストゾーンが眩い光で照らされる。バタバタバタとヘリコプターの飛ぶ音が聞こえる。


「ヘリのサーチライトか!」

「ふん、奴ら、新型兵器まで持ち出して来たみたいだね?」

「そらレッドリストが居ると分かったらな!」

「ハハハ! 世界掌握も居るしな!」

「……受胎告知もいる」

「……スリーカード?」


 リーチが適当な事を言うと他三人は声を揃えて。


「「「ロイヤルストレートフラッシュだよ」」」


 と言った。

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