第4話 桃井さんと朝倉ぴょんと小テスト

「朝倉ぴょん,勝負しましょ.」

数学の小テストがあった授業の後にそんな事を桃井さんに言われた.唐突だな,でも,多分勝負はどうせあれだろ,テストの点数だろ.


そっちはまあ一回置いて置いておこう.

その前に,朝倉ぴょんが引っかかる.

朝倉 隆二だから朝ぴょんか.ぴょんって何処から来た?

いろいろ考えた結果.僕は彼女の問いかけを無視する事にした.


「あれ?朝倉ぴょん無視してるの?また照れてるの?」

またって,まるで1回目があったみたいに言ってくるが,一回も照れてない.

いや,まて,朝ぴょんはそうだ僕の事じゃ無いんだ.僕は朝倉ぴょんであることは確定していない.


「朝倉ぴょんぴょんぴょん.ふう,朝倉 隆二君応答して下さい.」

確定してしまった.何でこの人はこんなにご機嫌なのだろうか?


「絶対に朝倉ぴょんって呼ばないで下さい.それと何故ぴょんなんですか?」

ああ,しまった.普通に返事してしまった.思わず,好奇心に負けてしまった.


「うん?それは朝倉君の髪の毛がピョンって跳ねてるからだよ.良いあだ名でしょ.」

うわ,なんかちゃんと理由があった.


「思いませんよ.絶対にその呼び方はしないでください.それで呼んだら,絶対に死んでも何があっても答えませんからね.」

まあ,死んだら答えられないんだけどね.


「しょうがないな,本当にわがままなぴょんぴょんだよ.」

僕の名前の原型が消えた.


「…………」

僕はひとまず無言で彼女の眼を見た.


「えー,ダメですか?ぴょんぴょん.だって朝倉君の本体ってそのくせ毛なんでしょう.」


「ふざ……あっ」

思わず彼女の言葉に返答してしまった.


「分かってるんだよ,君の動きは,ふふふ.」

桃井さんは,そう言って楽しそうに笑っていた.


「……」


「分かったよ.ちゃんと朝倉君って呼ぶから.それで勝負しよ.」

ああ,そう言えばそんなこと言ってな,話が脱線していた


「ああ,勝負でしたね.嫌です.」

そう答えると桃井さんは固まった.


「うん?内容も何もまだ私何も言ってなかったし,朝倉君が勝ったら願い事をなんでも叶えてあげよう.もし私が勝ったら私の願い事を聞いて貰おうじゃないか.」


「嫌だよ.負けたら嫌だし,別に君にして欲しいこととかないから.まじで大丈夫です.お疲れ様です.」


「ケチ,良いじゃん.私と数学の小テストの点数で勝負ね.」

ああ,なんだ.それなら良い.うーん,そうだな.のど乾いたかな.


「それならいいですよ.じゃあ,お茶を買ってきてくださいね.」

そう言って僕は小テストの紙を彼女に渡した.


「うん?自信があるのかなでも……」

彼女は僕の三桁ある小テストの点数を見て黙った.

それでこっちを見て口をパクパクさせていた.勝負する教科が悪かったな.まあ苦手な教科だと勝負を受けてないけど.


「嘘だ……だって私95点取ったんだよ.絶対に勝ってると思うじゃん.」

知らねえよ.ああ,何か凄い気分が良い.これが勝利か.


「お,つ,か,れ,さ,ま,で,し,たぁああ.僕数学は得意なんですよ.」

気分が良くなって,思わず煽ってしまった.それにしても.理系科目で良かった.


「あああ……」

彼女は悔しそうにこっちを見てた.

多分あれだは賭けに負けたことが悔しいとかじゃなくて点数負けたことが悔しいだろうな.そんな気がするは,知らんけど.


「早くお茶を買ってきて下さいね.桃井さん」

僕は勝利を噛みしめていた.初めて桃井さんが隣の席になって良かったと思った.

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