第三十九話

 ほう。そう出たか。と、僕はそう思った。まあ、この国が存続するためには帝国と講和を結び、独立を承認させることが絶対に必要だろうからなあ。よく考えてはいる。


「もちろん、殿下の権限でこれに返答することはできないのは分かっております。ですので。こちらからの外交特使を、ラウラ号にお乗せいただき、帝都まで送り届けていただきたい。如何でしょうか」

「いいだろう。それくらいのことなら、我の判断で十分に行うことができる」


 そういうことになったようだ。


「アルバ・カロクニション・アクレアツム卿。あなたに交渉の全権を委ねたい。引き受けていただけますか?」

「必ずや。私共しどもにお任せください」


 ほう。この人が特使か。世界は狭いと言うべきなのか。


「しかし、そういうことなら急いだ方がいいでしょうね。いつ、また帝国が軍を動かすか分かりませんから。明日の朝にも出航するべきかと。ミネオラはそう愚考する次第です」

「そうだな。そうしよう」


 キャプテンの鶴の一声。というわけで、本当にひどい足止めを食ってしまったが、今度こそ、アリエル・プロジェクトは最終段階に入ることになる。


「というわけで、皆様。私共はしばらくこちらの船に御厄介になります。あ、今から寝ますので。夜まで起こさないでくださいね。部屋はどっちでしょうか」


 ミネオラが空いている船室の中で一番上等な部屋に特使殿を案内する。ちなみに、外交特使なのだから一人ではない。他にも十人くらい人がついてきている。もちろん全員を寝泊まりさせるくらいの部屋の空きはある。夜鬼族なのはアルバさんだけだから、すぐに部屋に通す必要は別にないが。


「錨を上げろ! 出航だ!」


 そして、僕らはようやくオルディアに向けて進路を取った。といっても、あとは沿岸航海だけなので簡単なものである。旅程やはり一週間ほどで、大港市オルディアに入港する。港は行きの時とは違ってかなりものものしかった。両舷に櫂を並べた大きな軍船がたくさん舳先を並べている。帝国の海軍だ。皇国に海戦を仕掛けるつもりでいるのか、そうではないにしてもそうなった場合に備えているのか。どちらにしても同じようなものではあった。


 さて、ラウラ号はドック入りする。やろうと思えばカリカ河をラウラ号で遡上することもできないではないが、だからといって別にそうする必要はあまりないので、わが大航海はついにこれでいちおう終了である。ああ。長かった。そして、色々な意味で感無量だった。なんか、帰ってきたら婚約者が出来ていたりもするし。うふふ。うふふ。うふふふふ。


 さて、オルディアから帝都まで、まずは伝令の早馬を飛ばしてもらう。船よりもこっちの方が早いことは早い。僕たちは河を上る旅客船を、外交特使を乗せるという事情があるから一隻貸し切りにした。その費用はもちろん皇国持ちである。一等の船室に全員で収まれるほど一等の船室の数がないので、皇太子とアルバさんだけがそれぞれで一等の部屋に入る。僕は二等。リョウカは別室にしてもらった。というか、婚約が決まってから毎晩毎晩、ミカが僕のところに夜這いしてくるのをずっと待ってるんだが、一向に来たためしがない。今夜も来なかった。ちぇっ。


 というわけで、朝、帝都に到着する。早馬が送ってあったせいだろう、すごく物々しい出迎えがカリカ川の船着き場で待っていて、すぐに宮殿に参上せよ、とのことである。眠そうな顔のアルバさんを引っ立てて、宮殿へと向かう。

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