第三十四話

 ラウラ号の修理は無事終わり、我々は『アリエル島』を出航した。この島の座標はしっかり記録したが、ここからなら西の都までの海路はそう厳しくはないはずだった。今の季節なら、順風にも恵まれる。実際、そうなった。島で足止めを食っていた期間を除外すれば海路にしてひと月と少々、僕たちはとうとう、大陸の見えるところまで辿り着いた。


「ここから西の都までは、数時間くらいの距離だと思う。海岸沿いを北に向かえばいい」

「そうか。じゃあ、無理に上陸する必要はないな。港を目指そう。食糧も水も十分に残っているし」


 船長のその判断に基づき、僕たちは西の都を目指して北上した。実際、日暮れ前に西の都の姿が遠くに見えてきた。灯台があるのが分かる。しかし。何か、様子がおかしかった。来たときとは、なんとなく街の雰囲気が違うということが遠目にも分かる。


「……どうする? ミカ」

「どうするもこうするも、ここまで来たのだから、入港するしかあるまい。ミネオラ、頼むぞ」

「承知いたしました」


 ここまで来ればあとは操舵の技術の問題になる。しかし、出航してきたときの港に向かおうとしたら、軍港の方から何艘かの船がこちらに近付いてきた。小舟が二艘、こちらに接舷する。人がこちらに向かって何か叫んでいる。船長として、ミカが叫び返す。


「帝国皇太子、ミハイルである! 大命より帰参を果たしたと、陛下にご報告のほどを願いたい! こちらは帝国皇太子ミハイル、船名はマラ・エト・アウランティア号である!」


 これで大過なくことは片付くだろうと思っていたのだが。そうはならなかった。とりあえず入港はできたのだが、なぜか、一人だけ下船しろ、と要求された。僕が降りた。そうしたら、兵士らしき連中に拘束された。そして、僕はこう言われた。


「貴殿らの申し出の段は理解した。だが、ここは現在、帝国の領土ではない。ここは、オフィシナリス皇国皇都。新皇サポナリア・アルバプレナ・オフィシナリス陛下の支配する国の、首府の置かれたるみやこである」


 ……何だって?


「貴殿の身柄は、申し訳ないが、このまま拘束させて頂く」


 僕はそのまま、見覚えのある建物の、見覚えのある場所へと連行された。かつてヴァレリアナ・メリッサが幽閉されていた、その部屋だった。

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