最終章

第三十五話

 長い長い緊急会議がようやく終わった。もう朝になっている。わたし自身が徹夜するのには慣れているが、部下に徹夜を強いたのはさすがに初めてだ。仮眠を取りたい者のためには公邸の客間を開放し、帰れる立場にあってそう望む者は帰らせる。法技官は帰り支度をしていた。


「ごめんなさいね、せっかくの結婚記念日に。奥さんと娘さんによろしく」

「ああ。君の武運を祈っているよ」


 わたしには仮眠を取っている暇もない、これから参内する。連れて行く人員は最低限に絞った。教授には大事な役回りがあるので来てもらう。主役はわたしではなくルービィだが。ちなみにルービィだけはちゃんと一晩ぐっすり寝ていた。厳重に警護を固められた寝室の中で。


「ここの指揮はあなたに託します。期間はわたしが戻るまで」

「任せておけ。強くなったな、イリス」

「……母さん」


 母に聞きたいと思っていて、それでもまだ聞いていないことはいくつかあった。父と母と、ラクテアの母ミリーとの間には本当のところ何があったのか、とか。あれほどまでの深い信頼関係にあったはずのミリーをその手にかけてしまった真の理由は何だったのか、とか。しかし、それはもう聞かないことにした。女奴隷とその主人の関係性なんてものは、当の本人たちだけが分かっていれば良いことなのだ。わたしとルービィがそうであるように。


 宮殿に到着した。正規の手続きを踏むのならまず史局局長の肩書きで謁見を申し込み、その上でしばらく待たなければならない。だがわたしは横紙破りをした。あえて大声を出す。


「陛下に即時の御取次ぎを願いたい! 我はエキドナである!」


 キトルスの毒蛇、ここに推参。

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