謁見
馬車を降り、無言のままカイルを先頭にシャルロッテ、私の順で国王がいる場所、王の間へと脇見もせず進んでゆく。シャルロッテの後ろ姿は少し自信なさげだった。それはそうだろう、始めての場所で、平民として暮らしてきたのだから。それに急に国王に謁見すると言われたら誰だった萎縮する、か。申し訳ないことをしたかな、と思いつつも、これが最善だと思っている。
そうして、重厚な扉の前へとやってきた。すかさず衛兵が聞く。
「国王陛下はマクシミリアン宰相と話し合いをなされている。何用だ」
と。もう一人の衛兵が
「二人はアランディス卿、シャルロッテ姫とお見受けするが、もう一人は誰だ? きちんとした身分が保証されなければ通すことは出来ない」
やはり厳重に足止めを食らうわね。でも私にも策がある。カイルの前に進み、すぅっ、と大きく息を吸って、私は言う。
「国王陛下! 第三王女であるシャルロッテ姫とルルー・マグノリアが参りました! 謁見をしとうございます! 」
もはや叫んだ。だってこれが大事なのだもの。ちらと後ろを見ると、カイルの目は死んだ魚のようだった。シャルロッテに関してはぶつぶつなんか言っていた。国王陛下の前だと言うのに少しだけ笑ってしまったでは無いか。でも、いい感じに緊張が解れた。と同時に
「入れ」
威圧感の漂う声が響いた。
バタンと大きな音を立てて閉じる扉。今度は私を先頭に部屋へと踏み入る。丁寧に礼をして、視線を国王へと向ける。マクシミリアン宰相は困惑の表情を浮かべている。そんな中、国王の口が動いた。
「ルルー・マグノリアを連れてきたのか? 」
「はい陛下」
「無理やり、か? 」
「いいえ陛下」
「星の巡り合わせがありまして、ルルー・マグノリアと何度か文通をしておりました。そして、ルルーが王家の紋章である白百合のペンダントを所持していることを知りました故、王族であることを知り、了承を経て、連れてきた次第であります」
ここでシャルロッテが持っていた白百合のペンダントを差しだす。きちんと確認して本物であることを確かめる国王。ついでにマクシミリアン宰相も確認した。
「間違いありません、国王陛下」
視線をペンダントから私へとゆっくり戻す。
「……何が言いたい」
「私は陛下のお子、では、ありません」
国王と宰相が驚いた表情を見せる。
「誰から聞いた」
怒りとも言い難い、怒気を孕んだ声。ここで怯むと負けよ! 私!
「はっきりとは断定できませんが、噂を耳にしました」
宰相から冷や汗が流れる。話をしたことを悔いているのだろうか。
「……それで、余にどうしろというのだ?
ルルー」
「! ……私をシャルロッテ第三王女殿下の専属メイドにして頂きたいのです」
「ほう? 」
「シャルロッテ王女は王族とは言えど、平民として暮らしてきました。王宮内部やマナーなどをよく知る者が専属メイドに着くべきかと」
「シャルロッテ、そなたはどう思う? 」
「私もそれがいい、と思います」
「……アランディス卿はどうするのだ。今まで偽物のシャルロッテの護衛騎士として仕えてきたが……」
偽物の、その言葉に少しだけ胸が痛むが知らんぷりを決め込む。
「……これまでと同じくシャルロッテ第三王女の護衛騎士として精進して参ります」
「……そうか。では、同じペンダントをつくらせることとしよう」
良かった、これでカイルはちゃんと王族の護衛騎士として認められる。
安心したのもつかの間、重い沈黙が場を包む。話はこれで終わりだ。上手くいったからあとは国王から帰れの一言があるといいんだけど。
「話は以上か? 」
「はい陛下」
「では下がれ」
「はい陛下。失礼致します」
再び礼をして、国王を見ると、始めて見る、申し訳なさそうな顔をしていた。
え、こんな表情をする人だったの? 国王って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます