ユッキー副社長の復帰
そうこうしている時にリビングのドアが開きひょこり顔を出したのが、
「シノブちゃん、どうなってる?」
「ユッキー副社長!」
手短に現時点でわかっている事を話すと、
「コトリならだいじょうぶだよ。たとえ海兵隊一個師団が上陸してきても撃退できるからね」
「そりゃ、そうですが、流れ弾が当たる可能性だってあるじゃないですか」
「その時はツバル女を経験できるよ」
ユッキー副社長の発想はやっぱりそっちか。
「でも不思議だね。そんな小規模の上陸軍ならコトリなら朝飯前なのに」
ミサキもその点が気になっています。コトリ社長は戦争は嫌いですが、戦争を起こそうとしている中国軍を見れば、
「だよね。潜水艦ごと投げ飛ばしちゃいそうなものなのよね」
そんな力もあるのはミサキも知っています。かつてディスカルが乗っていたエランの宇宙船の墜落を支えていますし、あの怪鳥を金縛りで身動きできなくしてるぐらいなのです。そう言えばコトリ社長を三宮で襲おうとした暴漢は海まで投げ飛ばされてたっけ。
「コトリは神戸を出る時に風邪気味だったの。なるほどね、だからかもしれない」
「あれが重症化して、まさか死にかけてるとか」
「ないよ。そうならわかるから」
これはそうだとしか言いようがないのですが、女神は死期を確実に知ることが出来ます。シノブ専務もだからこそコトリ社長はツバルに出かけたはずとしています。
「風邪気味のところに時差ボケが乗っかってぶっ倒れたぐらいはあるよ」
フナフティには病院もあります。プリンセス・マーガレット病院と言いますが、フナフティの市街の北部に位置します。ユッキー副社長はそこにコトリ社長が入院していたのではないかと推測しています。
「コトリも時差ボケの上に熱出してたから中国軍撃退どころじゃなかったんだと思うよ」
「首相とか総督は?」
「わからないけどお見舞いにでも来てたのじゃないかな」
なるほどね。でも、そうなるとコトリ社長はヴァイツプ島に同行した可能性も出てきます。
「フナフティに残っている可能性は」
「そうなったら乗りかかった船じゃない」
ユッキー副社長もそう見るか。コトリ社長は戦争は嫌いだけどもめ事は好きだものね。
「長引くね。コトリさえ回復すればヴァイツプ島は難攻不落の要塞になっちゃうんだよ」
ヴァイツプ島なら食べ物もある程度は自給自足出来るはず。ただしツバルを脱出するための足がありません。空港と言うかフナフティは中国軍の支配下ですから、乗って来たプライベート・ジェットは使えない事になります。漁船も隣の島ぐらいなら渡れるでしょうが、これがフィジーとなると無理があり過ぎます。
「コトリ社長が回復してフナフティに戻り中国軍を制圧してしまうのは」
「女神の力を人前でそこまで大っぴらに使うのは良くないわ」
コトリ社長にしろユッキー副社長にしろ、どれだけ女神の力を揮えるかはミサキでも把握しきっていません。ただ使う時は人に知られないように使います。神相手ならともかく、人前で大っぴらに使ったのは怪鳥事件ぐらいのはずです。
コトリ社長が神の能力をセーブしながら使うとなると中国軍が撤退するか、米英なりの援軍が奪還するまで長期戦になるとか。
「可能性はあるよ。ミサキちゃん、シノブちゃん、副社長に復帰するから事務手続き進めてくれる。わたしがエレギオンを指揮する」
助かった。ユッキー副社長が指揮してくれるならエレギオンは安泰だけど、
「社長じゃないのですか」
「何言ってるの社長は今度こそコトリよ」
ユッキー副社長の復帰と言っても手続きが必要です。従業員を一人雇うのとは訳が違います。とにもかくにも取締役会の招集が必要で、そこで承認してもらう必要があります。これまでは取締役会で異論があっても、それこそユッキー副社長が睨んで抑え込んでいましたが、今回はコトリ社長まで不在です。
いきなり副社長就任の抜擢の前例こそありますが、取締役会のメンバーは変わっています。とくに社外取締役が、
「そんなムチャクチャな話を認めろと言うのか。話にならん」
こうやって、かなり頑張られました。まあ常識的にはそうですものね。この意見に賛同する取締役がいると言うより、シノブ専務とミサキ以外はそうなっています。これを説得するとなると時間がかかりそうだと思っていたら、会議室のドアがいきなり開き、
「時間の無駄です。月夜野社長が戻られるまで、今からわたしが副社長としてエレギオンHDの指揮を執ります。異論は御座いませんね」
皆様呆気に取られていました。あれは呆気じゃなくて、ユッキー副社長の威厳にひれ伏したが正しいと思います。
「あ、あなたは小山社長・・・」
「いいえ、如月かすみです。お間違いのないように」
満場一致で承認。副社長就任に伴う挨拶回りも精力的にこなされて、
「この辺がいつも面倒ね」
「人の会社ですから、古代エレギオンみたいに行きません」
「そうだけど。コトリが帰ってきたら相談するわ。急場の時に困るし」
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