第324話 【敵地召喚】

 ----ダンジョン【鐘鳴らずの鬼神殿】。

 そこは以前攻略した【アバトゥワの塔】と同じく、相手が超巨大というダンジョン。


 違うのは、以前の【アバトゥワの塔】はダンジョンが俺達を蟻に跨れるサイズまで縮小したのに対し、このダンジョンは相手がダンジョンの能力によって巨大化しているという点である。

 どう違うのかと言えば、前回はこちらに対するデバフであるためにファイントの結界で対策が可能なのに対し、このダンジョンは敵が巨大化しているためにファイントの力では対処できないという点だ。


 ----ずしぃぃぃぃいんんんっっ!!


 俺達の目の前を通ったのは、ゴブリン。

 通常時ならばレベルⅠとして、私なんかでは相手にならないほどの弱者なのだが----このダンジョンにおいては、その例に限らない。



 ===== ===== =====

 【ゴブリン(超巨大種)】 レベル;Ⅰ(環境効果の影響あり)

 緑色の肌を持つ、邪悪なる小鬼。魔王や、それに準ずる強大な魔力を持った悪の魔法使いの悪の軍団の尖兵として頻繁に活用されており、人にちょっとした悪さをするのが好き

 (※)現在、レベルⅧ【平神鬼たいらのしんき】の環境効果の影響を受けております

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 このダンジョンに出現しているゴブリンは、このダンジョンのボス、俺達が狙う特殊アイテム【打ち出の小槌】の持ち主たる平神鬼によって強化されている。

 同じ大きさであれば普通のゴブリンとして戦えるが、俺達の10倍サイズで、普通に強い。


 このダンジョンは、ゴブリンを始めとした鬼系統の魔物なのだが、レベルで大きさがだいぶ変わって来る。


 レベルⅠのゴブリンは、10^1倍で、10倍。

 レベルⅡのオーガだと、10^2倍で、100倍と言った感じだ。

 ちなみに、このダンジョンのボスであろう平神鬼はレベルⅧなので、10^8倍にて、普通の1億倍なのだそうだ。


 このダンジョンの攻略法は、1億倍サイズという超巨体サイズにもなる平神鬼から特殊アイテム【打ち出の小槌】を奪うという正攻法もあるが、それは現実的ではない。

 このダンジョンでは、このダンジョンに隠されている鐘を探す事が大事なのだ。


 【打ち出の小槌】とは、昔話の『一寸法師』を思う人が多いと思う。

 一寸3cmにしか満たない一寸法師が、武士として鬼を退治して、お姫様に大きくしてもらう際に使われた宝具と思われている。

 しかし、『一寸法師』は室町時代に描かれたお話なのだが、実はそれよりも遥か昔の平安時代に書かれた『宝物集』という仏教書にも登場し、そこでは"宝物だけではなく牛や馬、食物や衣服など心のままにすべて出現させる事が出来る"という記述がある。

 そして、そこにはこうも書かれている。



 ----打ち出した物はまたこれすべて鐘の音を聞くと失せ果せる、と。



 こういうお話はよくあり、簡単に富は手に入らないという教訓のためのお話である。

 このダンジョンの名前の由来ともなっている【鐘鳴らずの鬼神殿】とは、この鐘を指しているのである。


 つまりは、このダンジョンに隠してある鐘を鳴らして、鬼達の富----つまりは、巨体を消し去るのが、攻略法となっている。


 という訳で、肝心の鐘がこのダンジョンのどこにあるのかは分かっていないため、早速みんなで分担して鐘探しを始めてもらう。

 ファイント、ココア、マルガリータ、ヘミングウェイ、それに物探しが得意そうな召喚獣にも手伝ってもらい、探してもらう事にした。


 だがしかし、それでも10倍ゴブリンやら100倍オーガを無視して捜索は、とてもじゃないが効率的ではない。


 ----という訳で、雪ん子にはあいつらの殲滅をお願いした。


「《ぴぴっ?! あんな大きな鬼、倒せる?》」

「今のままだと無理だろうな。巨体による環境効果で、体力が大幅に上昇してるし」


 身長が2倍になると、体重は8倍になる。

 10倍ゴブリンの場合だと、その体重は1000倍----皮膚の厚さや筋肉量なども考えると、今のサイズ差での戦闘は、正直言って焼け石に水である。


「まぁ、だがしかし、方法はある」


 俺はそう言って、レベルⅦになった事で使えるようになった新たな召喚法を試してみる事とする。


「----【敵地召喚】」


 ----グググググンンンッッ!!


 私が召喚したレベルⅠの【転がす草タンブルウィード】は思った通りの効果を発揮してくれた。




===== ===== =====

 【転がす草タンブルウィード(超巨大種)】 レベル;Ⅰ(環境効果の影響あり)

 山系統のダンジョンで良く見られる、ただの雑草に擬態している草型の魔物。ただの草がダンジョンの魔力によって変質しただけなので、知能はゼロである

 自分の上に来た生物に手足である草を引っかけ、それを何匹も行うことで転ばせる。転ばせた生物は、同胞の魔物によって倒されるのだ

 (※)現在、レベルⅧ【平神鬼たいらのしんき】の環境効果の影響を受けております

===== ===== =====



 この【敵地召喚】は、敵地の影響を受ける召喚獣を召喚する召喚法である。

 敵を召喚する召喚術、と言っても良いだろう。

 もっとも、敵とは言っても、俺達には攻撃しない----敵としての認定を受けた、ただのハリボテだ。


 その召喚により、このダンジョンには居なかった敵----レベルⅠの【転がす草】が召喚され、レベルⅧの平神鬼の力を受けて超巨大になったのである。


「そして、この召喚獣で出した敵を倒すと、そいつが持つ経験値が手に入る」

「《----??》」

「つまり、この超巨大の【転がす草】を倒せば、経験値として、こいつの巨大因子が手に入る」


 そこまで言って、雪ん子はようやく理解してくれたようだ。


「さぁ、雪ん子。【転がす草】を使ったレベリング、始めようじゃないか」




(※)【敵地召喚】

 ダンジョンの影響を大きく受けた、召喚獣を敵として召喚する召喚術。その際、攻撃性能はゼロに出来るなど、ある程度の性能操作は可能

 この【敵地召喚】で倒した敵を倒すと経験値の他に、そのダンジョンにおける敵が持つ特殊効果を一定時間使えるようになる。たとえば火山地域のダンジョンにて【敵地召喚】した召喚獣を倒すと、火山地帯での因子が手に入り、マグマなどの環境ダメージを受けないで行動できるようになる

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