第282話 【街】とダンバー数(2)
----人間とは、幸福を追い求める#生き物 なのである。
ダブルエムは足元に転がる戦死者を跳ね除けながら、空海大地達に聞かせるようにして、そう語り始めた。
「人間、だれしも#辛い現実 よりも、#幸せな幻想 を夢見る生き物。私達【街】もまた、そんな幸福を夢見る組織----そう、幸福になりたい組織なんですよ。本質的には」
「足元の、武人達は、その幸福の輪に入れてやらないんですか?」
天地海里の問いに、ダブルエムは「入れた結果が、これです」と、そう答える。
ダブルエムがいう、幸福の輪に入れた結果。
----この武人達は、"
「この足元の武人達、元は幽鬼、つまりは#死者達 なんですよ。この【街】の実質的な統治者たる絶望スカレット----いえ、"アカサカ・ホナミ"の手によって蘇りし、武人の死者達。
彼らにとっての幸福は、『美味しい料理を食べたい』といった食欲でも、『大金持ちになりたい』などという金銭欲でも、『愛してくれる恋人が欲しい』みたいな性欲でもなく、『死にたい』という生存欲求の欠如なんですよ」
『死ぬこと』、それがこの武人達にとっての最大級の幸福。
「「死ぬことが、幸福だと?」」
「えぇ、だから
「「----っ!!」」
それが、空海大地と天地海里にとっては、信じられない事だった。
"死ぬこと"が、"最大級の幸福"だなんてのは。
世界を救った元勇者の2人には、受け入れられなかった。
なにせ、自分の死を切に願うダブルエム、そんな彼女をこんな怪しい集団から解放するために、ここまでやってきたのだから。
2人にとっては----死が、死ぬことが夢だなんて、人はそんな事を言ってはならないのだ。
「理解できないのでしょう、あなた達のような#元勇者 には。
彼らはただ死にたかったんではありません。武人として、死にたかったんです」
「同じ意味だろ、それは」
「全然違います。彼らは全員、病や老衰などで、戦場で死ねなかった幽鬼達です」
『戦争は人を狂わせる』という話がある。
それは人の死が身近にある戦争を体験した者は、それ以降の価値観がガラッと変わってしまうという意味だ。
戦争に行く前は、ごく普通の、幸福を幸福として享受できる、ただの人間であった。
しかし戦争を経験し、幸福を受け取る事を恥だと思う、そんな人間になってしまったのだ。
生き残った事を、恥だと思った。
生き残った事を、負けだと思った。
生き残った事を、罪だと思った。
戦場から帰ったとしても、彼らの心は永遠に戦場に残り続けた。
「だから私は、彼らを戦い合わせた。戦場を用意し、そこで死ぬように仕向けた。それが彼らにとっての幸せ、なのですから。
----そう、幸福には、色々な価値観やらが存在する。なにせ自分だけが幸福になって、他の人には不幸になって欲しいという、そういう幸福に対する考え方もあるのですから」
だから、【街】はその数に制限を付けた。
「----#ダンバー数 というモノがあります。とある先生曰く、人間が安定的に関係を維持できる限界は『150人』だと言われています。
よって、【街】では----150人の選ばれた者達だけ幸福になり、それ以外の者達には不幸になってもらうという計画を立てています。そう----」
----こんな風に。
「えっ……?」
それは、あまりに一瞬すぎた。
ダブルエムは何もしていない。
しかし、天地海里は"
「絶望スカレットから貰った、最強の
#【オーラ】 #【マナ】 #【スピリット】、そして#【プラーナ】 などの四大力……そのどれにも属さない最強の
(※)ダンバー数
1990年代にイギリスの人類学者ロビン・ダンバーが提唱した理論。人がスムーズかつ安定的に関係を維持することができる人数のこと
物を知覚したり未来について考えたり、脳の中でも特に高度な機能を持つ大脳新皮質が大きい生物は、行動を共にする群れのサイズも大きいため、大脳新皮質と群れは相関関係がある。そして人間が安定的に、人脈として関係を築くことが出来るのは、『150人』と言われている
【街】ではこのダンバー数を用い、150人の選ばれた者だけが幸福となり、その他の者は不幸になれば良いという計画を立てている
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます