第245話 マスター×"マスター"(2)

 卓球をしていた、うちのファイントと、【三大堕落】の佐鳥愛理とビーワンちゃん。

 それを観戦していた赤坂帆波は、俺のことを見つけると、ニコリと笑いながら、こちらへと歩いてやってくる。


「やぁ、冴島渉くん。会えて嬉しいよ。

 ちゃんと地獄の主サタンを救い出せて、良かったね」

「あぁ、エリカのおかげで、融合召喚獣として助け出せてよかったよ」


 赤坂さんは地獄の主サタンとなってしまったファイントを助け出すために、協力してくれた恩人だ。

 正確には、彼女の配下である【三大堕落】の1人、冴島・D・エリカがファイントの融合素材となってくれたおかげで、ファイントを助け出すことが出来たのだ。

 赤坂さんがエリカをくれなければ、未だにファイントを救い出せなかったと思うと……そう言う意味では、彼女は大恩人なのである。


「(まぁ、その時はこんな悪魔の腕ではなかった気がするけど)」


 なんらかのスキルの代償なので、今は追及すべき事ではないだろう。


「ちょうど良かった、卓球を観戦するだけなのも飽き飽きしてたんだ。

 場所を変えよう。同じマスター同士で、色々と語り合わないかな?」


 そうやって俺は、赤坂さんに連れられて、卓球場を後にした。

 ……後ろで、ファイントが何故か2人になってたんだけど、意味が分からないので無視する事としよう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「私達はね、ノネックと名乗る魔女を探しに来たんだよ」


 卓球場から少し離れた廊下にて、俺と赤坂さんが話し合う事にした。


 開口一番。

 赤坂さんは、自らの目的をそう言ったのであった。


「私達の前に急に現れたその魔女さんは、この温泉旅館『神の家』に来るように行って来てね。

 私の腕もこんな悪魔の腕になったままだし、佐鳥愛理ちゃん達と共にこの温泉旅館に来たら、たまたまファイントちゃんを見つけたから、気晴らしに卓球をしてたって感じかな?」

「そのノネックと名乗るヤツは、そんなに強いのか?」

「強いって言うか、恐ろしい、って感じかな? この悪魔の腕、いつもなら簡単に治せるんだよ」


 赤坂さんはそれを実演するとばかりに、片方の足を悪魔の足に、毛深く黒い悪魔の足へと変える。

 そしてその足を、すぐさま元のすべすべな人間の足へと戻していた。


「ノネックの能力の一番恐ろしいのは、恐らく状態異常やデバフの継続、って所だね。

 私のこの悪魔の腕、便利だから頻繁に使っててね。攻撃力とかの戦闘能力は上がるんだけど、一応は【悪魔化】という状態異常の扱いなんだよ。鑑定してみて」

「えっと、どれどれ……」



 ===== ===== =====

 【悪魔の腕】 変異装備アイテム

 悪魔の力を宿した腕。装備者の戦闘能力を悪魔基準で強く上げる代わりに、魂を削る呪いのアイテム

 ===== ===== =====



「禁忌扱いの、呪いアイテムになってるんだけど……」


 えっ、この人、そんな禁忌のアイテムを軽い気持ちで使ってんの?

 魂を削るとか、ヤバくない?


「強い能力には、それだけデメリットもあるべき、ってのが私の持論でね。

 まぁ、そういう持論はともかく----本来なら私の【奴隷商人】の力で、すぐさま戻すってのがいつものパターンなんだけど、それがどうしても使えない。恐らく、そういう状態異常を永遠に続けるってのが、ノネックの力だと私は考えてる」


 攻撃力などの戦闘能力低下状態、デバフ。

 それは戦いに置いて重要な局面を担い、自分達にかかると厄介な効果だ。

 麻痺や眠り、そういったゲームで良く見る状態異常なんかも、同じように厄介な効果だ。


 厄介な異常事態である、デバフや状態異常。

 普通ならスキルや魔法などを使って解除したり、自然に治るまで待つのが普通だが、ノネックとの戦いに置いては、それが戦闘終了しても治ることもなく、永遠に続くって事かよ。


「えげつねぇ……」

「まぁ、最も突破口はある。ノネックの力でうちの佐鳥愛理ちゃんは魔力欠乏症という、魔力がないという症状を状態異常としてみなされてたんだけど、彼女が魔力回復ポーションをぶつけた瞬間、その症状が、状態異常が治ったんだ」


 つまり、赤坂さんが言うノネックの力とは、こうだ。


 彼女との戦いに置いては、なにかが低下するという状態異常やデバフは、全て永遠に継続という形に、"固定"されてしまう。

 どんなスキルやアイテムでも治らない不治の病を、ノネックが触ったアイテムを使えば、一瞬にして治す事ができる。

 状態異常悪化とその治療、そんな2つを両立させた存在、それがノネックの力。


「だから、この悪魔の腕も案外彼女に回復アイテムを触れさせれば、治るのかも知れない。それどころか、現代科学では完治が難しいと言われた認知症やら、手の施しようもない末期癌まっきがんみたいな不治の病も、彼女さえいれば、全て解決するかもしれないんだ」


 「まさに万能薬だね」と、彼女はそう語る。


「私は彼女ノネックの能力を【荒廃】と仮に名付けているんだけど、あの能力を頼りにしてこの温泉旅館に来たという訳さ。事情を説明したのは、君と協力する機会もあるかもしれないから、予め説明しておこうという、そういう心持ちだよ」


 「助けてくれるだろう?」と、彼女が言うので、「分かったよ」と了承した。


 ……出来れば、その面倒な能力を持つノネックとやらとは相手したくはないんだけど、出るかもしれないし、気を付けておくべきだろうね。


「それで、そのノネックとやらは見つかったのか?」

「残念ながら、まだだよ。もし見つかっていたら、こんな悠長に話してないし、悪魔の腕のままにもしてないさ。案外、身体が痛むんだよ、これ」

「……分かった。こっちも気を付けとくよ」


 雪ん子とか、多分相性最悪だろうな。

 雪ん子の【オーバーロード】の力は、物凄く強い分、魔力もガンガン使うから、魔力欠乏症もすぐ発症させられて、負けそうな気がする。

 知っておいて、損はないだろう。


「----ノネックは見つからなかったんだけど、彼女がここに私を呼んだ理由は分かった」


 と、赤坂さんは冷静な口調で、「驚かないでね」と前置きして、俺に話し始める。




「君は、このヨーロッパ国で人、つまりは人間を見たかい? 勿論、私達以外で」

「いや、NPCは見たけど、人は見なかったような……」


 もっとも、ソロモンとやらに夢の世界で話しかけられたせいで、ヨーロッパ国とやらを探索してないし。

 俺が見たのは、この温泉旅館内で働く人達が、人間ではなく、NPCだって事くらいである。


「NPCってのは、人間に良く似た、人間ではない人達。彼らが人の姿をしているのに、私達が『人間ではない』とすぐ認識出来るのは、彼らには"魂がない"と言う事かな?」

「魂……」


 

「どんなにロボットが人に近付いたとしても、必ず人間はロボットであると認識できる。それは人間が魂を判別できる能力を、無意識的に持っているからだよ。

 魂があるからこそ、人間は、生物たりうる。様々な定義があろうが、結局はそれに落ち着く。

 ゲームで、プレイヤーとノンプレイヤーNPCを瞬時に見分けられるように、全ては魂があるかどうか。感覚的に、能力的に、人はそれを見分ける力がある」


 

 なんだか、偉い哲学的な話だな、おい……。


「NPCって、ダンジョンにいる襲ってこない魔物、くらいの印象なんだが」

「印象はそれで良いよ。私だって、哲学者でも、研究者でもないんだから、感覚的にそうなんじゃないかって言う話をしてるだけ。

 ----重要なのは、これから話す事について」


 そんな、長い前置きをした後、赤坂さんはこう語った。


「この旅館、そしてヨーロッパ国に居た大量のNPC。

 彼らが、元は人間だった、と私は考えてるんだよ」




(※)【荒廃】

 荒廃ノネックが持つと思われる能力。能力名は、赤坂帆波が仮に付けたモノ

 ノネックとの戦闘中、状態異常やデバフなどの能力低下状態を、戦闘が終わろうとも永遠に続けさせるという、固定させる能力。この能力にかかってしまうと、どんなアイテムや能力などでも解除が不能となる

 一方で、ノネックの身体を触った回復アイテムであれば、どんなに効果が乏しいモノであろうとも、一瞬で回復させることが可能となり、赤坂帆波曰く「万能薬みたいな能力」とのこと



(※)NPC

 ダンジョンなどで見られる、人の姿をした人ではない者達の事。生きている訳ではなく、冒険者からして見れば"襲ってこない魔物"程度の認識である

 赤坂帆波曰く、全ての人間は彼らをNPCだと、本質的に見分ける能力が生まれつき備わっており、それには相手が魂を持ってないからだと考えている

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