第219話 (放送禁止用語)と【大根】(2)

「スキル【未練あるなら】、発動ですよ。

 ----さぁ、未練ある者達よ。私の元へ集いなさい」


 孤児姿の幽鬼カルタフィルスの号令と共に、ダンジョンの床の地面から数十名の幽鬼達が這い上がって来る。


 男も、女も、子供も、老人も。

 全員が武器を持って、俺達の方へと近付いていた。


 槍、剣、拳銃、こん棒。

 武芸を嗜んでいたであろう者から、完全なる素人まで。

 

 全員がこちらを殺すための武器を、殺意を持って、俺達の方に走って向かって来ていた。


「ほぅれ、皆の衆! 狙うとすれば、あそこの白髪の雪ん子ちゃんじゃ!

 ----スキル発動! 【民兵招集】!」


 幽鬼ノブナガの号令と共に、呼び出された数十名の幽鬼達が、幽鬼ノブナガに強制的に付き従う。

 そして、幽鬼ノブナガと大量の幽鬼達は、雪ん子へと向かっていく。


「《ぴぴっ?!》」


 そして雪ん子は対処しようとするが、同じく【オーバーロード】職業である幽鬼ノブナガが雪ん子の攻撃に合わせて、相殺していた。

 つばぜり合いしている2人を幽鬼達は押し出し、雪ん子達は先程開けられた穴の中へと押し込まれていった。



 そう、流れるように。

 雪ん子は、俺達から分断されたのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 雪ん子が分断されたのを確認した幽鬼カルタフィルスは、続いて冴島渉達の方を向く。

 その表情は、少し不満気であった。


 復活させて呼び出した、未練ありの幽鬼達の数が、想定よりも"少なかったから"である。


「----さて、どうも日本人は未練が弱い。【未練あるなら】で呼び出せる幽鬼達が数十名程度とは」


 幽鬼カルタフィルスの想定では、数百人規模で復活させて、蹂躙しようとしたのである。

 彼女のスキルが問題なく発動しているのだから、問題があるとしたら復活の機会を与えられながらも、それを要らないと突っぱねた死者達の未練の薄さだろう。


「人間なんて、たとえ世間一般的には名誉の死だとか、大往生だとか言われても、復活の機会があったらあさましく、復活を願うような、(放送禁止用語)級の悪人ばかりだと思っておりましたが。実際は、こんなに少ないだなんて、欲が薄いですね……。

 まぁ、幽鬼ノブナガに雪ん子は任せましたし、私はあなた達を倒しましょうか」


 幽鬼ノブナガと協力して、冴島渉の召喚獣で一番強い雪ん子を封じることが出来た。

 その事実に、幽鬼カルタフィルスはひとまず、作戦通りに行ったと安堵していた。


「(後は、冴島渉と、吸血鬼ココア&マルガリータ姉妹をぶっ倒せば良い。

 本当は、もう少し幽鬼の増援が居る事を期待したんですが)」


 ----まぁ、私が冴島渉をぶっ殺せば終わりですね。


 そう思いながら、幽鬼カルタフィルスは気持ちを切り替えていた。



 幽鬼ノブナガと幽鬼カルタフィルスの、2人の共通の目的は、地獄の主サタンが君臨し続ける事。

 あの地獄の主サタンが居れば、どんどんと世界はダンジョンに侵食され、やがて世界はダンジョン化されて、完全に支配される。


 幽鬼ノブナガは、完全にダンジョン化された世界を、自らが統一する事。

 つまりは、生前に成し遂げられなかった、天下統一である。

 実際は地獄の主サタンが上に来るのだが、サタンは君臨せども統治しないので、実質的に幽鬼ノブナガの天下統一と言えよう。


 幽鬼カルタフィルスも同じように、地獄の主サタンが居て、世界が完全にダンジョン化される事こそを望んでいるのだ。

 そして、そんな2人の共通の敵、それが冴島渉。

 地獄の主サタンを、ダンジョンから取り上げようとしている者。


「と言う(放送禁止用語)な理由にて、私は冴島渉の身柄を要求します。

 ----どこに隠しましたか、ココア姉妹?」


 と、いつの間にか姿を消した冴島渉の行方を、こちらに敵意剥き出しで睨みつける吸血鬼ココアに尋ねる。



「ふっ、主殿なら雪ん子ちゃんが連れていかれるどさくさに紛れて、サタンがいる方へ行かれたのじゃよ?

 スキル【不戦協定ノーウォー】によって、攻撃が食らわなくなったうちの主殿がな」

「そう! 可愛いボクに見とれちゃったようですね!」

「あぁ!! うちの放置プレイがもう終わっちゃう……ごほんっ、そうか。対決と参ろうではないか」



「…………」


 幽鬼カルタフィルスは、疑問符を浮かべる。

 なにかが変なのだ。


 幽鬼カルタフィルスは、敵である相手を数える。


「1人」


 まず、狐耳の吸血鬼、吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世。


「2人」


 次に、ぶかぶかの黒スーツを着た蝙蝠の翼を持つ、悪癖龍マルガリータ。



「……え? 3人?」



 そして、最後に----見た事のない少女が1人、居たのであった。



「あぁ……!! 遠慮もなく、【おいっ、この場に相応しくない相手が1人増えてんじゃねぇか!】的な、罵詈を含めた視線が、うちに注ぎ込まれちゃってるぅ!! うち、こんなデカい感情、1人じゃ壊れちゃうよぉぉぉ!!

 はぁはぁ……うちを喜ばせて、何が目的なんでしゅか?! もしやうちに攻撃を喰らわせようと思ってるんでしたら----遠慮はするな。全て、受け止めましゅからああああ♡♡」

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