第192話 世界を敵に回すだけの覚悟(1)


「大したこと、なかったね☆」


 ファイントは、足元に転がる死屍累々を見ながら、そう言った。


 正月のファイント----いわゆるハジメが生み出した十二支の動物の神達。

 彼らは皆、首を斬り落とされ、身体と足を分解させられ、その上で復活できないように【オーバーロード】の力で阻害されていた。


 ハジメも、同様だ。

 魂そのものがずたぼろに傷つけられており、【スピリット】の力を維持する事すら、困難な状況下にあった。


「くそっ……四大力が、練りにくい……」

「この悪天使、いや美少女のファイントちゃん相手に、神様で相手するだなんて、ちっぽけな炎が大波を燃やそうとするくらい、無謀な事だよ☆ なにせ、神様を相手にする事には、慣れてるからね♪」


 ----それに、なおかつ偽物じゃ相手にならないよ。


 ファイントはそう言いつつ、ハジメを指差す。


「あなたは【スピリット】の力により、神が住まう世界を再現したことで、十二支の神々を呼び寄せた----んじゃないでしょう? この神々達は、ただの分身、それよりも酷い模造の、偽物って所でしょ☆

 いくらあなたが十二支の神々の力を借りられたとしても、しょせんは借り物♪ 本物を呼び出せる力を、あなたは持たない、って所かな☆」



 実際、ファイントの予想は当たっていた。

 ハジメが呼び寄せていた十二支の動物神達は、全て偽物。

 本物と姿や能力こそ同じながら、その威力は本物の1%にも及ばない。


 そもそも、1年365日の中で、"ついたち"という12日間だけ、神様として君臨している【イタチ】が、他の、本物の十二支の神々を呼び出せるわけではなかったのだ。

 彼が作って居たのは全てが偽り、仮初の者達。


 【スピリット】の力で作っていた神域も、それで呼び出していた十二支の神々も、そしてその神々の権能も。

 全てが、本物と比べる間でもない、稚拙な劣化能力。


 最も、だからと言って、仮にも神を模した者達なので、簡単に倒せるような相手でもないはずなのだが。



「----さて、そろそろあなたとの対決も飽きて来ました」


 ファイントはそう言って、ストーカー対策ネックレスをチラッと見た後、ハジメの首元に【オーバーロード】で生み出したナイフを突きつける。


「あなたから、私が欲しいのは、ただご主人との絆----居場所だけ。それ以外は要らないので、とっとと敗北を付きつけましょうか」

「そう……簡単に、行くとでも?」


 ずずっと、ハジメは気合で、立ち上がって、ファイントの方を見ていた。


「流石は、私のコピー☆ 今の状況でも諦めず、立ち向かうつもりだなんて、底意地が悪いね♪ 我ながら♪」


 ルンルン気分で、そう毒を吐くファイントに、ハジメは「コピー?」と反吐が出そうな言い方で返す。


「……コピーだなんて、おかしな話。あなた、ファイントって柄じゃないでしょ。あなたは私、後輩ちゃん達と同じ敵対者ファイントではない。

 ----あなたは、ただの、嫌われ者でしょ?」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ファイントとは、敵を意味するクラスの者である。

 彼らは自ら世界に対して、敵対するという道を選んだ者達である。


 ある者は大義のため、ある者は自由のため、ある者は愛する家族のため----理由は何でも良いが、"敵対者ファイント"とは、世界を敵に回してでも守りたいモノがあるという、そういう誇りを持った者達の持つ称号である。


「後輩ちゃんには、例え世間に偽りの十二支と呼ばれてでも、神の地位を欲する道を選んだ。そういう覚悟を持って、汚名すら望んで被るだけの、覚悟がある!」


 ----対して、あんたはどうですか?


 ハジメはそう強い口調で、責めるようにファイントに告げる。


「あんたは、ご主人----冴島渉の召喚獣と言う立ち位置に戻りたいんでしょう? それなら、そんな変なネックレスなんか使わず、真っ向から欲しい物を、世界を敵に回してでも、欲しい物を奪い取るだけの気概を見せて頂戴よ!

 ----そう、ファイントとして、全世界を敵に回してでも欲しい物を奪い取る! それこそが、ファイントと呼ばれる者のあるべき姿でしょう! 後輩ちゃんも、他のファイントもそうするはずなのに、あなたは何故しないんですか?」


 今にも死にそうだとは思えないくらい、ハジメは堂々と言い放っていた。


「そう! それは、自ら世界を敵に回す覚悟を持ってその地位に立った訳ではなく、ただ世界に嫌われてただけ----それだけで、敵となった、覚悟のない者だからですよ!

 世界を敵に回してでも欲しい物を得ようとした勇気ある後輩ちゃんと、ただ愚図でノロマだから世界に嫌われてその位置になっただけのいじめられっ子であるあなた。一緒にされたくは、ないんですけどね?」

「うっ……」


 ファイントは、ハジメの希薄に一瞬だけ、気圧けおされた。

 ----そう、それをハジメは待っていた。


 強い口調で、相手が一番言われたくないことをズバズバと言って、一瞬でも驚いて、気圧されるこの瞬間を!


「----さぁ、スキルよ、発動せよ!

 相手は一瞬でも気圧けおされた、つまりは"逃げたぞ"!」



 その瞬間、ハジメのスキルが発動する。

 相手が"逃げた"時、発動する彼女の固有スキルが。



 ===== ===== =====

 スキル【敗走蛙ニゲカエル】が 発動

 スキル【魔物錬成】を 自動取得 いたします


 【魔物錬成】;人間以外の全ての者に対し、アイテムなどを直接錬成して、性質を付与できます

 なお、錬成したアイテムが効果を発揮する時間は1時間であり、それ以降は効果、そして使用したアイテムが消失します

 ===== ===== =====



「ナァイス☆ 後輩ちゃんに、今、欲しいスキルですね!」


 そう、このスキルが発動する瞬間を、ハジメは待っていたのだ。

 戦力で叶わない力を得たファイントに、唯一勝つ道として。


 相手を言い負かして、気圧させて逃げた事にする、この瞬間を。


 そうすれば----スキル【敗走蛙】は、この状況を打破するとっておきのスキルをくれるはずだと。


「賭けには、勝っちゃいました☆」


 ハジメはそう言って、1つの石を取り出す。

 それは、ハジメが冴島渉と一緒に入手したアイテムの1つ----


「【魔物錬成】! 対象はそこに居る悪天使、そして使用するアイテムは"鬼の涙石"!!」

「しまっ----」


 そして、スキルが強制的に発動して-----


 ファイントは、鬼の涙石のアイテム効果により、10cm程度の、小人になってしまうのであった。



「錬成は、常に成功する訳ではありません☆ 通常であれば、あなたは10cm程度に縮むスキル【超小型化】を得る予定でしたが----失敗して、ずーっと小型のままになっちゃいました☆」


 「てへっ☆ 失敗♪」と、回復薬をぐびぐびと飲みながら、ハジメはそう語る。

 意図的に失敗したであろうこの事態を、悪びれもせずに、堂々と。


 グイッと、小さな小さな小人となったファイントを、ハジメはグイッと足で押し潰す。


「かはっ----!?」

「まだ死なせませんよ、ファイントちゃん? なにせ、面白いのは----悪だくみは、ここからなんですから♪」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る