第187話 雪ん子と、千山鯉と(1)

「ほ~ほけきょ♪ 撃つべし、放つべし、射るべしぃぃぃ!!」


 巨大な《ウグイス嬢》黒鬼は、遠慮なく、俺達に向かって拡声器型拳銃から銃弾を発射する。

 巨大な拳銃から放たれた巨大な弾丸は、躊躇なく俺達の方へと向かって来る。


「《【巨大な斬撃】っ!!》」


 その銃弾を、【オーバーロード】の力にて斬撃を巨大化させた雪ん子が、その銃弾をぶっ潰していた。

 そして、銃弾をぶっ潰れたことで生まれた爆発の煙にまみれて、千山鯉が剣士姿となって、黒鬼に斬りかかる。


「----《【魔法少女・剣士フォーム】、そして【火炎魔法・斬】だぎょ!》」


 千山鯉は【魔法少女】のスキルを用いて、剣士のようになった姿で、剣を振るう。

 それは《オーラ》を扱う【剣士】のように剣を振るう手に力を込めるのではなく、剣そのものに火炎の魔法を込めて放つ斬撃。

 火炎魔法そのものを剣の形として叩きこむような行為であり、普通ならば千山鯉の攻撃は相手に大ダメージを与える、はずだった・・・・・


 ----カンッ!!


「《ぎょぎょぎょ?!》」


 しかし、そうはならなかった。

 千山鯉の魔法剣は黒鬼の身体に触れる事無く、その前で封じ込まれていた。



 ===== ===== =====

 スキル【選挙区画】が 発動しました

 対象の ランク以下の攻撃を 全て無力化します

 ===== ===== =====



 それは、スキルによる完全防御。

 自分のランク----つまりはあの黒鬼のレベルⅤ以下の攻撃を、全て無力化するというものなのだろう。


「選挙には年齢制限がある。選挙に投票できるのにも条件があるように、あいつに攻撃出来るのにも条件があるという訳かよ……」


 ウグイス嬢なんて、戦闘向けでは絶対にないだろう職業ジョブの名前の癖に、厄介な仕様を持っている。


「《ぎょぎょぎょぎょぎょっ!!》



 ===== ===== =====

 スキル【選挙区画】が 発動しました

 対象の ランク以下の攻撃を 全て無力化します


 スキル【選挙区画】が 発動しました

 対象の ランク以下の攻撃を 全て無力化します


 スキル【選挙区画】が 発動しました

 対象の ランク以下の攻撃を 全て無力化します

 ===== ===== =====


 

 千山鯉が間髪入れずに、相手が目にも止まらない速度で、火炎魔法の剣を打ち込む。

 しかしながら、スキルによる完全なる防御は、無防備なところであっても、巨大な黒鬼に一切の傷もつけなかった。

 千山鯉に出来たのは、ただ魔法をぶつけて、相手の身体を後ろへとほんの少し押し出すことくらいであった。


「《選手交代だぴっ!》」

「《了解したぎょ!》」


 千山鯉の攻撃が効かないと分かったためか、次に出てきたのは雪ん子である。

 レベルは同じⅢである雪ん子が出たところで、一緒ではないかと思っていたのだが----


「ほけっ~!!」


 雪ん子の攻撃は、黒鬼に届いていた。


「《よしっ! やはり【オーバーロード】の力なら、スキルを飛び越えて相手にダメージを与えられるっぴ!》」

「《主様! 雪ん子ちゃんに鞭による強化をお願いするぎょ!》」

「よし、分かったっ!!」


 攻撃が効くなら、こちらの勝ちである。


 俺はダンジョン攻略によって手に入れた、叩くことで味方の士気を上げる武器【戦と愛の鞭】を使って、雪ん子を叩く。

 これにより、雪ん子の戦闘能力は、僅かながら向上したはずだ。


「《ぴぴっ! 主の応援、感謝! 感謝!》」


 雪ん子はそう言って、【オーバーロード】の力を全身に纏わせる。

 彼女の身体からは雷鳴を纏っているかの世に雷が飛び交い、剣は禍々しい黒い気を纏っていた。


「《全力っ!! 【ヤバい剣術・乱れ突き】!!》」


 雪ん子はそう言って、黒鬼に禍々しい気を纏わせた剣で斬りつけまくる。

 黒鬼は拳銃で反撃しようとするが、それを千山鯉が魔法によって拳銃を撃つ前に阻止する。

 引き金を引く前に、魔法を当てて、ノックバックを発生させて、相手の攻撃を阻止しているのである。


「《ダメージを与えるのは無理でも、攻撃を止めるくらいなら出来るぎょ!》」


 黒鬼はスキルによって、千山鯉の攻撃を受けてもダメージはない。

 しかしながら、攻撃を受けての反動は確かにあるのだ。


 ダメージこそないが、真正面から放たれて、後ろへと僅かに吹っ飛ばされる。

 その僅かな吹っ飛びを利用し、千山鯉は引き金を引かせないように、拳銃を放てないようにしていたのであった。


「《ぴぴっ! これでラスト、【ヤバい剣術・大裁き】!》」


 そして、禍々しい黒い気をさらに濃く、剣先という一点に集中させて、雪ん子は黒鬼の身体を肩から斜めに斬っていた。



「ほけえええええええええええええええええええええ!!」


 黒鬼は大きな声をあげて、ゆっくりと膝を着く----事はなかった。



 ===== ===== =====

 スキル【公認援助】が 発動しました

 一定の体力が減ったのを 確認

 すぐさま 回復を 始めます

 ===== ===== =====



 そして、黒鬼の身体は、みるみるうちに治っていく。


「《ぴぴ……あんなに頑張って付けた傷が!》」


 雪ん子の与えた傷は【公的援助】なる回復スキルによって、なかったことにされ、黒鬼はなおも健在であった。


「雪ん子の力だけじゃ、勝てないのか……」


 俺がふと、そう言った時である。



「《ならば、良い考えがありますぎょ》」


 

 千山鯉が、俺にそう提案してきたのは。


 千山鯉からの提案の内容を聞いて、俺は驚く。


「お前……」

「《頼むぎょ、主》」


 彼女は、笑いながら。


「《主の召喚獣として、あの雪ん子ちゃんに良い所を見せたいんだぎょ。だから、協力して欲しいんだぎょ》」


 そう言うのであった。



 ----これから、死ぬ覚悟を決めて。

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