第185話 愛VS愛

 Cランクダンジョン《東神話大陸》にて、2人の女が、召喚獣が、互いに攻撃し続けていた。

 雪ん子、そして千山鯉。

 

 2人の女はストーカー対策ネックレスの力で、生み出されたバトルフィールドにいた。

 雪ん子が生み出したこのフィールドの効果を、千山鯉は一瞬で見抜いて、全力で力を振るう。

 勝者が相手の居場所を奪い取るこの力で、2人は互いに"冴島渉の居場所"を得るために、全力で戦い合っていた。


 2人はそれぞれの職業ジョブの力を、存分に発揮していた。


 雪ん子は【オーバーロード】の力で、青白い炎と共に剣を振るう。

 彼女の剣技は全てが【オーバーロード】の力によって、常識外れで、規格外であった。

 剣の軌道に沿わない斬撃が空間を越えてやってきたり、斬撃が急に回転したり大きくなったりと、あまりに桁外れな力である。


 一方で、千山鯉は半古代龍魔法を用いて、強大な古代龍の力を思う存分披露していた。

 雪ん子の巨大な斬撃を灰燼と化す古代龍の爪攻撃やら、別次元の空間にも影響を与えるくらい凄まじい古代龍の炎の息吹やら。

 彼女の力は、【オーバーロード】を持つ雪ん子とほぼ同格と言っても過言ではなかった。


 【オーバーロード】と、半古代龍魔法。

 2人は会話ではなく、互いに技をぶつかり合う事で、互いの想いをぶつけていた。


 ぶつけて、ぶつけて、ぶつけて、ぶつけ合う。

 互いに防ぐことはせず、ただお互いの一撃を受けあいながら、ぶつけるのを止めなかった。

 防がなかったのは単純に、相手の想いを知り、その上で自分の方が上だという事を相手に分からせるためであった。



「《主が好きなのっ!!》」


 雪ん子の持つ【オーバーロード】の根源、それは世の理不尽を呪う力。

 世の理不尽、それは『冴島渉に近付けない』という理不尽な事。

 主との邪魔をする障害が増えれば増えるほど、雪ん子の【オーバーロード】の力はどんどん強力になっていく。


 ----それは主に対する、彼女の愛、であった。


「私も! 主が! 好きっ!!」


 千山鯉の職業ジョブである【魔法少女】の力の源は、心のドキドキやときめき。

 彼女がドキドキすればするほど、【魔法少女】の力はどんどん増していく。

 ドキドキして、ときめく度に----それによって、千山鯉の力は、際限なく強くなっていく。

 

 ----それは主に対する、彼女の愛、であった。


 2人の、主に対する彼女の愛。

 愛と愛による、頂上決戦。


 2人が愛を強めようとすればするほど、さらに激しい戦いは続いていく。

 激しい戦いが続けば続くほどに、2人の愛は互いに負けじとどんどん大きくなっていく。


 ダンジョンに傷をつけていたかと思うと、次の攻撃ではダンジョンは崩れて破壊され。

 互いに傷をつけながら、2人はその強力な力によって、一瞬で傷を治して互いにぶつかり合う。


 もう、そこにあるのは意地であった。

 互いに、主に対する愛で、2人は負けたくなかった。

 攻撃は、戦いはさらに激しさを増し、その度に2人の体力は一撃ごとに大きく削られていく。


 そして、その戦いは、どちらが先に一発を、相手に叩き込めるかと言う勝負にまでなっていた。

 恐らく、次の一撃は、どちらも相手の体力を完全にゼロにする威力になる。

 その事が分かっている以上、2人は次の一撃で、勝負を決めるつもりであった。


「《ぴぴ……次の攻撃、今までの感覚から行って、当たったら一瞬で倒れそうっぴ》」

「----流石は、オリジナル。いえ、私の元ネタだぎょ。次の攻撃で、体力がゼロになる可能性、大だぎょ」


 互いに力を高めていきながら、彼女達は次の攻撃をどう攻め、相手の攻撃をどう防ぐかを考えていた。

 なにせ次の攻撃は、自身の居場所の喪失を意味していたからである。


 召喚獣である彼女達にとって、死はさほど恐怖する事ではない。

 しかしながら、ストーカー対策ネックレスの効果が発動している今、完全なる敗北という形での死は、自身の居場所の喪失に他ならない。

 それが分かっているからこそ、2人は次の一撃に賭けていた。



「「《次で決めるっ!!》」」



 その一撃は、2人にとって最大の一撃。

 【オーバーロード】の蒼炎はどんどん激しさを増し、千山鯉の生み出した魔法はさらに濃度と迫力が増していた。


「「《…………》」」


 そして、2人は気付いた。


 自分達が愛を捧げる主の姿がなく。

 ----今まさに、その主に危機が迫っていると。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 そして、彼らの主、冴島渉は----


「ほ~ほけきょ♪ さぁ、死へ旅立つ準備はお済でしょうか?」


 ----全長30mはあろうかという、巨大な黒鬼に死地へと追い込まれていた。


 その黒鬼は、拡声器型の二丁拳銃を手に取り、【魔王シルガ様に清き一票を!】と書かれた謎のたすきをかけていた。


「ほ~ほけきょ♪ 『苦しませず』、『長引かせず』、『遠慮せず』の3拍子が揃った、まさに無慈悲なる魔王であるシルガ様! 魔王シルガ様に、清き一票を! 是非とも清き一票をお願い致します!!」


 そんな、謎の黒鬼を見て、冴島渉はこう言っていた。



「うわぁ、またまた変なの出たなぁ」

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