第170話 古代龍魔法
この世界には、【ライナー】と呼ばれる物がある。
ライナーとは、一部の冒険者の身体に浮かび上がる魔力の線の事である。
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【ライナー】
一部の者の身体に浮かび上がる魔力の線のこと。この線が深く、多いほど、扱える魔力の質や量が多くなると言われている
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普通、「才能」と呼ばれるモノは目には見えない。
しかしながら、極稀に才能溢れる冒険者の中には、その身に宿る膨大なる才能が故に、身体に線として浮かび上がる場合がある。
それがライナー、またの名を魔力痕である。
ライナー1本1本が、深ければ深いほど。
その身に刻み込まれているライナーの数が、多ければ多いほど。
その者の宿す才能が、どれだけの物なのかを表している。
しかし、ライナーは普通、身体の一部に表れる。
左腕に数本の緑色の線だとか、そういう風に身体の一部に表れるのが通常である。
「----それなのに、その身体は何ですか?」
佐鳥愛理は、目の前で爆発に耐えた千山鯉にそう問いかける。
千山鯉の身体には、びっしりと、緑色の線が、ライナーが刻み込まれていた。
両腕、両足、身体、顔、髪にまで----彼女の全身に余すことなくびっしりと、1本1本がかなり深く、そして細かすぎるほどに小さく書くことでライナーの数は、ざっと見ても10万は軽く超えてるように見えた。
「(いや、身体の表面だけじゃない)」
血管、各種臓器、そして根幹である魂にも。
その全てにライナーがくっきりと刻み込まれていたのである。
「自然にライナーが生まれた? そんな馬鹿な話で、全身だけでなく、身体の内部、果ては魂にまでライナーが入るだなんてあり得ません。
……いや、そうですか。もう1体の召喚獣、正月のファイントの仕業ですね」
佐鳥愛理は、既に答えを導き出していた。
と言うのも、ライナーは確かに溢れ出る才能の証明ではあるが、作れる物だ。
以前にダブルエムが、【才能開花事業】という名目で、ライナーを刻み付けて才能を開花させるという事業を行っていた。
「ハジメと名乗っていた正月のファイント----真名は【イタチ】でしたっけ? 彼女は十二支の動物神の権能を自由自在に、我がものとして使う能力を持ち、その中の1匹、ネズミは確か断神、権能は【切断】だったはず。その能力を用いて、ライナーを刻み込んでもらったのでは?」
【切断】と一言で言っても、ただ切るだけが、切断ではない。
切ることによって、そこに傷跡を付けるのもまた、切断なのである。
恐らくは、その能力を用いて、全身を切断----ライナーを身体に刻み込んだのだろう。
もっと恐ろしいのは、【世界球体】を頭の中で爆発させても無傷な事。
どれだけの質と量の魔力が、彼女の身体に満ちているのかと考えるだけでも、恐ろしい。
「《ぎょぎょ! 当たりだぎょ!》」
「当たっても嬉しくないですよ。あくまでも、私は----そこの【召喚士】を殺しに来たんですから!」
佐鳥愛理の言葉に、千山鯉は怒りの顔を浮かべていた。
「《ご主人は、殺させないぎょ!》」
「----"マスター"のため、あんたのご主人様とやらは殺す」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
佐鳥愛理は、【黒化編成】を発動させる。
今までのように身体の一部分ではなく、全身をその黒い闇で包んでいた。
「----【黒化編成:全身→巨大大砲】」
そうして、全身を黒い闇で包み込み、佐鳥愛理は自らを巨大な大砲へと変える。
砲身はたった1つ、しかし巨大なその砲口はバリアフル・スカイフィッシュに守られているバリアの中の冴島渉達へと向いていた。
そして、その砲身の中に火のついた【世界球体】が、10個も、入っていた。
「《ぎょぎょ!?》」
千山鯉は、すぐさまバリアの前に立つ。
「賢明な判断。しかしながら、無駄な事。
この【黒化編成】は黒い闇で覆う事で、物質の形、そして存在を自由自在に操る。今の私は巨大な砲台であり、なおかつ身体に攻撃が当たらないようにすることも出来る」
マルガリータの放った音攻撃が、佐鳥愛理に当たらず、彼女の後ろの地面に当たったのもまた、そういう理由だ。
マルガリータの狙いが外れたのではなく、佐鳥愛理に当たるも、佐鳥愛理の身体を捕えられずに、そのまま進んで行っただけのこと。
「----そして、この攻撃は防御を無視する」
そう、それもまた、マルガリータの身体を無視して、ワイヤーと変えた左腕が彼女の声帯を傷つけたのと同じように。
「----死ねっ、【召喚士】! "マスター"と、私のためにぃ!!!」
一方で、千山鯉も準備を完了していた。
彼女の全身、身体の内部、そして魂に至るまで。
ハジメの力を借りて、彫り込まれたライナーすべてに、【魔法少女】の力によってほぼ無限に生み出される魔力を流し込む。
魔力が流し込まれることにより、ライナーは強く発光する。
その発光はだんだん大きく、そして彼女の身体に収まりきらずに、大きな形で具現化していく。
----ドラゴン。
それは、ドラゴンの姿であった。
マルガリータのような若く幼い龍などではなく、伝説に謳われるような、そうであって然るべき巨大にして偉大なるドラゴン。
千山鯉が魔力を通せば通すほど、発光によって生まれたドラゴンの姿は、さらにくっきりと、なおかつ鮮明に映し出される。
「死ねぇぇぇ!! 【爆発する10個の世界】!!!」
「《ご主人は、私が、守るっ! 【古代龍魔法・古龍の業火】!》」
佐鳥愛理は、砲身内で10個の【世界球体】を爆発させ、その膨大なるエネルギーを一つに纏めあげ、砲身から冴島渉達、ひいてはそれを守るために前に出た千山鯉へとぶつける。
それに対する千山鯉は、全身のライナーを発光させて生み出したドラゴンの口から、膨大なる量の魔力の炎を放つ。
ドラゴンの口から生み出されるその魔法は、佐鳥愛理の放つ爆発エネルギーと引けを取らなかった。
----びゅんっっ!!
「----なっ?!」
いや、"
「バカなっ?! 私の最強必殺技が?! こんな、召喚獣の魔法ごときにぃぃぃぃぃ!!」
佐鳥愛理の放つ爆発エネルギーを軽くひれ伏した魔力の業火は、そのまま佐鳥愛理の身体をも包み込む。
その業火はあまりにも魔力が膨大すぎて、炎というよりも、既に光の領域にまで色が真っ白になっていた。
光は、闇を暴く。
佐鳥愛理を覆っていた闇のオーラは、千山鯉の光のブレスによって消え去り、中から佐鳥愛理自身が現れる。
そして、そのまま、佐鳥愛理は光のブレスに飲み込まれて、消えていく……。
「《ご主人、守って大勝利だぎょ!!》」
そんな光のブレスを、魔法で再現された古代龍のブレスを見て、
「美しい……」
治療によって、声を取り戻したマルガリータは感嘆の声をあげるのであった。
(※)古代龍魔法
古代龍のみが使ったとされる、今は失われし古の魔法。膨大な魔力と、それを使いこなす才能を同時に持ち合わせなければならず、使い手であるはずの古代龍であろうとも一日に使える回数は5回にも満たないと言われている
普通の魔法は対応する魔法文字を一文字一文字ずつ組み合わせて生み出すが、古代龍魔法は現存する魔法文字全てを1つの帯のように編み込み、編み込み方や長さなどを変えることによって初めて発動する、古の魔法である
千山鯉は身体中、そして魂にも刻み込んだライナーに膨大な魔力を通すことによって、古代龍の姿を再現し、この魔法を扱う事が出来る
(※)【爆破する10個の世界】
佐鳥愛理が持つ10個の【世界球体】を、破壊のエネルギーとして放つ強力なる技。世界10個分の爆破を相手に与える技なので、本来であれば相手は塵一つ残らないほどの威力となる
ちなみに、使用した【世界球体】は以下の10個であり、【世界球体】が破壊されたため、全てこの世界に放出されました
・【オーラ】系統職業【黒タイツ】
----【着ぐるみ】の亜種で、黒タイツを着ることで力を発揮する。武器は凶器なら何でも使える
・【スピリット】系統職業【デビルハンター】
----肉体や武器に、悪魔に対する特攻効果を与える。対悪魔専用職業
・【プラーナ】系統職業【転生トラック】
----相手に催眠をかける職業の1つで、「転生したら〇〇だった」というと相手はそれに転生したという催眠にかかってしまう
・【マナ】系統職業【本の虫】
----読書に情熱を注ぐようになり、一度読んだ本の内容は決して忘れず、魔導書と併用すると強力な力となる
・【プラーナ】系統職業【落語家】
----相手に催眠をかける職業の1つで、落語を相手にきちんと聞かせなければならないため催眠をかけるのに時間がかかるが、一度かかると落語が終わるまで催眠はどんなことがあっても解けない
・【オーラ】系統職業【農家】
----畑仕事に関する作業であれば、類を見ないほどの強力な怪力を授ける。農業限定のみ最強の戦闘能力を誇る
・【マナ】系統職業【悪役令嬢】
----悪役令嬢に関する作業であれば、類を見ないほどの策略と手段を授ける。悪役令嬢たる行為限定のみ最強の戦闘能力を誇る
・【スピリット】系統職業【大根】
----大根に関する事であれば、何だって出来る大根の職業。鍋などの料理を彩る、陰の主人公たる力を得る
・【オーバーロード】系統職業【ぼっち】
----物凄い強大な力を得る代わりに、誰とも関わることが許されず、ガラスメンタルのまま、永遠に1人でいる事を強いられる過酷な職業
・【プラーナ】系統職業【追放しました(笑)】
----相手を問答無用で追放してしまうだけの職業。追放された相手は、何故かその後目立った活躍をするという
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